第3話 子供が独りで魔物のいる森に採集に行ける訳がない

 青燕様の死後、百年辺りで銃職人になりたい者がいなくなった。

 気配を感じさせずに連射出来る銃は、飛行型モンスターの天敵で、特に湧き出しと呼ばれているスタンピードが起きた時に威力を発揮する。

 行政側としては復活させたいのだけど、無理に覚えさせようとしても技能は取得できない。


 二つ西の青燕様誕生の地、降星郭に全ての自作物が揃っているので、興味があるなら行ってみると良いと言われた。

 もう一度復活させるために、銃の知識がある者を現地人と同じ条件で転生させたのか。

 行くにしても、今は基礎能力が足りないように感じる。

 物見遊山で旅行が出来る身分じゃない。


 セラミックナイフの販売で一通り武器防具が揃えられたので、ジジババに森の辺縁、藪に連れて行って貰えることになった。

 八級の蛇革の部分鎧と鋼鉄の丸小楯、反りの浅い鋼鉄の諸刃の三日月刀にした。

 曲刀でもほとんどが諸刃だ。気を流せば、鋼の一枚板で出来ていても簡単には折れない。

 二人は子育て中なので、無理をせずに浅い場所で狩猟採集をしている。

 レイ叔母が十二になったら、次を仕込むつもりらしいけど。

 倒した魔物の生命力が解放されて「経験値」(この世界にその概念がある訳ではない)になるのだけど、何人で行っても周りにいるだけで生命力を浴びられる。


 孤児院出身の十五歳未満の採集集団が途中まで一緒に行く事になって、護衛役の茶柴の茉利佳マツリカ姐さんと初めて挨拶をした。

 物凄く撫ぜたかったけど、何とか堪えた。

 子供達は集団で挨拶はしたが、親しくなる気はないようだ。

 俺が修行のために来ていて、何れどこかに行ってしまうのを知っているから。


 武具職人の識別ならば、採取とは違う素材も手に入る。

 植物系採取の孤児院組とは利害が重ならない。

 暫くは一緒に歩いて、適当に素材を探した。


「この辺りで危ないのは藪野干と藪猫くれえだ。鷹が来るかもしれねえから、上も気を付けとけ」

「おう」


 藪野干はジャッカルくらいの小型狼の群れ。藪猫は中型犬サイズのヤマネコ。どちらも八級。

 識別があれば不意打ちは食わないのだけど、逆らわずに素直に返事をしておく。

 歩いていて電信柱に当たる事だってあるんだ。

 敵意だけじゃなく、こちらに向けている警戒心も感知できないか試しながら上の方を見ていると、見られている感覚があった。


「ジジ、二時方向に十腕高さ十腕辺りから、なんかが見てる」

「おう、ちょっと待て、彩香、そっちにねえか」


 ジジが小芝居をしてババに左を示し、ババが行く間に小石を幾つか拾った。


「いいか」

「あいよ」


 ジジが俺が言った辺りに小石をまとめて投げると、何かが木の幹から離れ、ババに撃たれて落ちた。

 こんな手動ショットガンみたいな事を普通に出来るので、弓もない。

 ジジが走って行って戻ってきて、暗い灰色の物を収納から出した。

 頭胴長一腕半くらいの平たいトカゲだった。


「おめえがばらすんだ。そっち入れとけ」

「おう。キハダトカゲ? これ、七級じゃないか?」

「ああ、ヘビやトカゲは体温に霊力使わねえから、動かねえ奴はこの辺りにもいられる。見つけられるならいい獲物だぜ」

「今まで識別持ちと来たことがないのか」

「識別持ちの職人が少ねえ。大概鑑定を授かる。なに持ってるか言わねえし、あいつら索敵はこっち任せで、地べたばかり見てやがる。判ってても飯の種は話さねえな」

「あ、そうだね」


 識別がパッシブレーダーになるのは、持っていないと判らないのか。

 中世の職人なんて、ちょっとしたコツでも、他人には教えないな。

 その後、トカゲ三匹、太い蔦に擬態している五メートル強の、七級のツタヘビが一匹、藪猫が一匹獲れた。

 落ちてる素材は拾えなかったが、大漁だったらしい。魚は一匹も獲っていないが。


「今日は、おめえがいないと獲れねえもんばかりだ。三等分だな」

「いいのか」

「おうよ。身内に武具師がいりゃ、一族が楽になるってのもあらあ」

「じゃ、遠慮しねえで貰っとく」

「うん、でよ、こんだけ獲ったら、女欲しくなるぜ。どこか行くなら案内するが」


 ババがジジにアイアンクローを掛ける。


「どさくさ紛れに女郎屋行こうとすんじゃないよ」

「店教えたら俺は帰って来るから、放せ、本気で痛てえ」

「一発やって来るんだろ。ソウは神殿の子を抱けばいいんだよ」


 望まない妊娠がない上に、オーラバリアがあるせいか性病もないので、売春に社会的な忌避感がない。

 既婚者が女郎屋に行くのも、地球で飲みに行く程度。女房から見たら無駄金使いではある。

 ジジは夕飯後宅飲みに連れて行かれ、俺は神殿で「余り精受け」をしてくれる子を探した。


 神殿の場合は射精介助で、こちらの世界では売春にもならない。

 男が勝手に動いちゃいけないとかの制約があるんだけど、素人の若い女の子が相手をしてくれる。

 

 女の子には魔物の生命力と同じように「経験値」が入るので、戦闘力が低くて採集が危険な子を育てるためでもある。

 してもらうと、ほっておいて出るより気持ちがいいので、金を払う。


 担当になったのはまだ十一歳の子だった。

 ちょっと細い、腺病質っぽい子。見た目は暗い美少女。

 このくらいの時期にあまり強くない気を受けておくと、能力が上がりやすくなる事もあるそうだ。

 肌を合わせると、吸い付くような感じがした。

 霊気が実在する所為か、肌が合う、と言うのが物理的に存在する。

 深い仲になるつもりはなくても、一晩一緒に過ごせば情は移る。


「今日も森に行く。帰ってきたら、また頼まれてくれるか」

「あたしでいいなら。あんた、もう商売が出来る腕があるんだろ」

「たまたま思い付きが当たっただけだ。腕じゃない。素材は上手く集められるかも知れないんだが」


 今後も付き合うつもりで聞いた、女の子の名前は夕香ゆうか

 昼の日の光の下で華を競わず、黄昏の中に開いて、柔らかい匂いで虫を誘う花がある。

 能力上昇効果のある装飾品を造る、宝飾系の錬成師になりたいそうだ。

 十二歳になったらだけど、それまでに俺が護衛対象から外れるように戦闘力を上げて、ジジババにパワーレベリングしてもらおうと思う。


 翌朝、神殿に来たジジババに夕香の事を頼む。


「相手をしてくれた子を気に入ったんだ。半年後に十二になる。連れまわしてくれるか」

「おめえがいいならやってやるが。孕まねえ年の付き合いは気にするこたねえ」


 小学生のお嫁さんになってあげるは無効みたいな。

 第三次性徴的なものがあって、二十歳前にはほぼ妊娠しない。世界記録が十八歳七ヶ月。

 将来の話は置いておいて、今日は早目に少し奥に行く。

 ちょっと音を立てて歩くと、注目されるので、昼前にトカゲが三匹獲れた。


「藪ウズラは判んねえか?」

「向こうが気にしてないと判らない」

「ちっとでも音を立てりゃ気にするはずだが。帰りはトカゲはいねえだろうから、地べたを探ってみろ。猫はこっちで見とく」

「うん」


 地面と言っても、ほとんど大きなシダ類なんかの下草に覆われているのだが、その中からかなり多くの反応がある。


「そこら中から見られてるが」

「そりゃ、多分ネズミだ。そう上手くはいかねえか」


 地球の家猫サイズのネズミは十級の最弱の魔物で、肉食の魔物の餌になっている。

 人間は食べないが、皮は安いサンダルの材料。


「ネズミ獲っていいか」

「ああ、やってみろ」


 その為に拾っておいた小石を数個握って、手近な気配にぶつける。

 ギャウっと声がしたところに走って行って、諸刃の曲刀の切っ先を突き刺して仕留めた。 


「射撃の出来る武器がありゃ、もう一人前の討伐人でもいけるじゃねえか」

「そのつもりで、拳銃を作りたいんだが」

「五級の核六つ、買うにしても獲るにしても、それが出来りゃ拳銃いらねえな」

「それで廃れたんだよね」


 バケツに穴が開いているなら、藁を丸めて詰めりゃいいんだが。


 もう一人前に稼げるのだから、気に入ったのなら面倒を見てやれとジジに言われて、夕香と二人で夕飯を食った。

 神官様に十二歳になるまで面倒を見てくれるなら、二人部屋を安くすると言われて承知した。

 夕香の晩飯と朝飯代が俺持ちになる。江戸時代と同じで貧乏人は食えて二食。

 昼間はあれば菓子をつまんで誤魔化す。菓子代も渡す。勿論射精介助代も払う。

 ただじゃないのに高い。

 あんたの女だから触りたいだけ触っていいよ、と言われたけど。

 細身の十一歳、悪くはないけどね。これからの成長に期待。

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