第22話 世間がお前を見ているぞ
「先輩遅いなぁ」
夜が近いのだろう、あたりはもう薄暗い。
ツツジはサツキがコーヒーショップから出てくるのを待つのはいい加減退屈して来た。
何か暇つぶしが必要だ。
そう思い彼女はポケット中のタバコの箱のようなものを取り出し一本取り出すと口に咥えた。
「法律違反です」
突然、横から全く知らない少年から声をかけられた。
「は?」
ツツジは少年をギロリと睨みつけた。
「未成年は吸ってはいけませんはずですよ?しかし一部の地域では合法だとか。あなたここの人ではないですね?」
「残念、これお菓子だから。この街で違法なことぐらい知ってるわボケ」
面倒なのに絡まれたと思い、ツツジはため息をついた。
「なに?ナンパ?言っとくけど私彼氏待ってる最中だから」
「ええ知ってますよ。さっき店に入っていった革ジャンの人ですよね?」
そこまで見ていて声をかけて来たとは。この少年が何をしたいのか分からなくて怪しいと思いツツジはますますそいつにイラついて来た。
「ならさっさとどっかいけ。殴り殺すよ」
「そんなことしたら、あなたは捕まりますが」
「私特バツだから大丈夫。業務の邪魔したってことでお前を殺しても罪にならないよ」
「こんなに周りに人がいる中でもあなたは暴力をふるえるんですか?」
そう言われたので、ツツジは少年の顔を思いっきりぶん殴った。
「ほら、殴れる」
「うう、、、」
少年は地面にひれ伏し呻き始めたが、彼の様子が突如急変した。
「いってえええ!!いってえよぉ!!」
とてつもなく大きな声で泣き始めたのだ。
「うわあああ!!」
「な、なに?声デカすぎじゃんか。落ち着けって」
このままでは人が来てしまう、と考えているうちにそれが的中。
大きな声を聞きつけて、大人数がこちらを見た。
「なんだなんだ?」
「どうしたのかしら」
野次馬が集まり、こうなると収拾がつかなくなってくる。
「皆さん気にせずに〜」
ツツジがそう言っても、通行人や店の中の人がその声を聞いて集まって来た。そこら辺の動物でさえこちらを見ている。
「この人が!この人が殴ったんですぅ!!」
少年がツツジに指を差しながらそう言うと、人々はさらに騒がしくなり始めた。
「こいつがか!」
「最低だ!許せねえ!」
だがこんな状況は世間のクズどもから特バツとして批判されることがよくあるので、ツツジは慣れている。
「うるさいな。下がれ!特バツだ!」
ツツジは手帳を取り出し銃を構えた。
するとにじり寄って来そうだった人々もその手帳の意味を理解したのか後ろに下がり始めた。
悔しげに全員がこちらを睨みつけて怒りの表情をしている。
「静かにしないと逮捕するぞ」
ツツジがそう言った瞬間、明らかに不思議なことが起こった。
なんと人々の怒りに震える顔が急に落ち着いたのだ。
まるで何かに取り憑かれたかのようだ。
「お、おお。実際に急に静かになると気味が悪いな、、、」
だがその油断した時。
突然、ツツジは何者かに後ろから蹴り飛ばされた。
「うおっ!?」
蹴り飛ばした人物はさっきまで静かにしていた人々の一人だった。
「なんなんすか!?え?!」
こんなことをいきなりされたらびっくりするではないか。
しかし、蹴り飛ばした女はこちらをただじっと見ている。
「上條様を殴った罰だ」
女が言ったのは一言だけ。たったその一言だけだった。
「は?」
ツツジはあることに気づいた。
女だけではない。周りにいる人間もじっとこちらを見ている。立ち止まった通行人もこちらを見ている。犬やカラスでさえこちらを見ている。
とにかく気持ちの悪い世界へと化しているようだ。
(なんかみんな変だな、、、)
どう考えても怪しい。
そう思っていると、さっきぶん殴った少年がゆっくりと立ち上がった。
「例えばあなたの目の前で誰かが自殺をしたら貴方はどのように動きますか?」
「、、、何言ってんだお前」
すると突然、ツツジの近くにいた料理人の男性が首を自身の持っていた包丁で切って倒れた。
「え、、、!?」
自殺した光景を見てツツジは固まった。いきなり自殺するなど普通は考えられない。
「誰かが誰かを殺したとしたら?」
今度は銃を持っていた警察の男が、向かい側の女性を射殺した。
「あなたはどう感じますか?私を殴った時貴方はどんなことを思いました?」
ツツジはこの異様な空間に若干の恐怖を感じた。
(なんだコイツ!?人間を操ることができるのか!?こんな変な力を持っているということは、、、)
まさかコイツは。
「てめえ、ボスからの差し金か!?」
「ご名答です、私の名前は上條タイシ。不二華サツキに話があります」
少年は車に寄りかかりニヤリと笑った。
「さて、私が貴方に頼みたいことは二つ。一つ目、サツキをここに呼び出し私と一緒にこれから迎えにくる車に乗りなさい」
少年は指を一本立てながらそう言った。
「まあ、その後サツキがどうなるかは大体わかるでしょうけど」
自分が優勢な立場であると確信しているのか、随分と余裕そうだ。
「そして二つ目、あなたは私に絶対的な忠誠心をもつ奴隷になりなさい」
少年は二本指を立てた。
だが、ツツジは彼の言葉に何を言っているのだと言うように鼻で笑う。
「答えは簡単、一つ目は絶対になし。そして二つ目はもしそんなことをしようとしたらお前を必ず殺す」
「そうですか」
大きなため息を少年はつくと、首をパキポキと鳴らした。
「なら力づくで貴方を完全に乗っ取らせていただきますよ」
特バツ〜あなたの街の安心安全で弱気なパトロール!〜 相原羽実 @gotaw
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