第21話 アレの処理と情報処理

 サツキはツツジが運転する車から降りると湖を見渡した。


 この街に湖があって良かった、しかも誰の目にもつかないような場所にだ。


「せんぱーい!ここら辺に結構お魚いますよ」


 ツツジが覗いた湖の一箇所を指差している。


「食えそうなやつ?」


「あー、、、。塩焼きにしても、刺身にしても、煮付けにしても、美味しくはなさそうっすね」


「じゃあ捨てるか」


「了解です」


 二人はいくつか小分けにした紙袋から、団子上に丸めた肉を湖に投げ入れていく。


 魚達は落ちてきた肉に気づくなりバシャバシャと水中で他の魚と競争するかのように食べ始めた。


「おお、食いつきいい」


「肉解体するのにすげえ体力使ったわ」


「やっぱり豚ちゃんの餌に混ぜるやつの方が良かったかもしれませんかね」


「今言うかぁ?」


 全ての肉団子を湖に捨てると紙袋を丸めてゴミ袋に入れていく。


「さてと、、、。終わったことですし何か腹に入れましょう!スペアリブ食べに行きません?いい店見つけたんすよ」


「、、、君それ冗談で言ってるんだよね?」


 きつい作業を思い出しサツキが腕をぐるぐると回して肩を動かしていると、携帯電話が彼のポケットの中で震えた。

 連絡主はレオだった。


「サツキさん、もう大丈夫ですよ。警察に殺されることはありません」


「おっ!ということは、、、」


「警察は私のシナリオ通りに捜査をするでしょう。死体の方はどうです?」


「それならこっちも」


 サツキは空になった紙袋を見た。


「ちょうど終わったところ」


「これで全て解決ですね」


「本当にありがとう、、、。マジで助かった」


「いえいえ〜。サツキさんのお役に立ててよかったです」


 明るくて疲れを感じていなさそうな声からレオにとってはそんなに難しくもない作業だったようだ。


「あと、殺人鬼の正体がわかりました」


「そうだ。そうなんだよ、それ気になってた」


「本名は桑戸キヨシ。中学生で学校ではいじめられっ子でした。まあ、そう考えると殺人の動機はきっと個人的な恨みでしょう」


「ほらやっぱり。なんちゃってサイコパスの中坊だったか」


 正体は分かった。だが、そこで一つ疑問が浮かぶ。


「いやちょっと待てよ?俺、そいつと初めて会ったんだけど。イジメも何も接点もないよ」


「そうです、そこなんです。私も謎に思い桑戸の動きを探るために街中の監視カメラを見てみて分かったことなんですけど、、、。実は学校の帰り道で桑戸キヨシは謎の人物と接触していました」


「それって、、、」


「おそらくエースですね」


 サツキは電話をしながら頷いた。

 きっと今回の件はボスが関係しているんだろう。


「私が現状知っている限りですとエースの指示役はボスです。そしてエースはスカウト的存在なのでしょう」


 それを聞いてこいつはかなりボスへの正体に近づいているのではないかとサツキは確信した。


「これは私の考えですが、、、。もしかしたらすでにサツキさんが特バツとして街でボスを探し回っているのをボスは気づいているんじゃないでしょうか。そしてサツキさんを消すために桑戸キヨシを向かわせたんです」


「は?じゃあ、桑戸はなんか変な能力持ってたけどこの街にいる能力者を集めているってこと?この街にはそんな人がいっぱいいるの?」


 爆弾魔、電気を使う半グレがいる街だから有り得なくもなさそうだが。


「いやどうですかね、、、。だって私に特殊能力はありませんがエースから声をかけられたんですよ?」


「じゃあ、エースが能力を与えたって言うのかよ」


「そう考えるのが自然かと。まあ、エースに会えばわかりますよ」


 不自然なことができる人間を作ることが自然とはなんだか変なかんじだ。


「この街のボスですか、、、。現在エースの居場所を特定中なんですけど、ついでなんでボスの情報を詳しく調べてみますね。また後で電話します」


 よろしくとレオに言って通話を終えようとしたが、いきなり横から見ていたツツジが携帯を取り上げ電話を切った。


「はいもうおしまい」


「あっ!」


「あの女、油断ならねえっすよ。先輩のこと狙ってますって絶対」


「普通の仕事仲間だよ」


「はい出たー!出ましたよ!浮気する男の言い訳!!」


「だから別に君と付き合ってはいないから!そんなことより、さっさと車に乗って帰るよ。盗んだ車なんだから持ち主が騒ぐ前に返さなきゃならないし」


 二人がほぼ同時に車に乗ろうとした。

 ふと、その時何かをツツジは思い出した。


「あ!先輩、その前に、、、」


 後部座席に置いておいた紙バッグからあるものを二つ取り出した。


「じゃじゃーん!お揃いの買いました!」


「何これ」


 赤と黒の上着だ。


「これは革ジャンっすよ。私は赤いのでー、先輩は黒!」


「、、、着ろと?」


「はい!」


「、、、ありがとね」


 断ると色々と面倒なので着るしかないだろう。


 その後、二人は湖を離れて盗んだ車を持ち主が帰ってくる前に戻した後、近くの駐車場にとめていたツツジの車に乗りかえた。


 監視カメラのない場所に路上駐車をしていたものを盗んだのでおそらくバレていないだろう。


「いやーそれにしても先輩。暗くなっちゃいましたね」


「そうだね」


「そういえば家の玄関壊れちゃってますよね」


「うん」


「でも帰ってから修理のじゃもう遅いしなぁ」


「そうは思わないけど」


 サツキは流れる街並みを見ながら返事をした。

 だがツツジにはそんな返事などどうでもいい。


「よし!じゃあ今日はどこか泊まってから明日の朝に帰りましょう!」


 ツツジが繁華街がある方にハンドルを切ろうとしたその時。


「あ!待って!」と、サツキが突然声を上げた。


「止めて止めて!あそこに行きたい!」


 サツキが指差した店は有名チェーン店のコーヒーショップだった。


「、、、いいですけど」


 不満気にツツジが車をコーヒーショップの見えるところに止めると、サツキはすぐに車を降りて店へと走っていった。


「危ねぇ、マジで怖いやつだ」


 サツキは店内に入るとそう呟いた。

 本当はこの店に入った理由などどうでもいい。ここに入ったのはツツジから逃げるためだ。


 だが何かしら注文しなければ店に入っただけではなんだか申し訳ない気がするので、コーヒーを注文することにした。


「ありがとうございます」


 長々しい店員とのやり取りでようやくコーヒーを買い、席を見つけようとした。


だがその時。


「うおっ」


 1ミリも避けようとせずに男がぶつかってきた。


 そして鈍臭いサツキはコーヒーをこぼしてしまい自身の服にこぼしてしまった。


「どこ見てんだよのろま」


 男はそういうと受け取ったカフェラテを持って奥の席に座った。


「はあ、、、。最悪だ」


 だが幸いにも革ジャンは汚れていない。下に着ていたTシャツだけだ。


 席をみつけて脱いだ革ジャンを椅子にかけた後、汚れを洗い落とすべくトイレへと向かった。

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