第19話 なんでも屋

 サツキは少女を縛っていた結束バンドを外した。かなり強く縛っていたせいで大分時間がかかった。


「君、犯罪者だって言ってたけど普段何やってんの?」


 サツキに質問され少女は縛られたところをさすっていた手を止めた。


「え?まあ、なんでも屋みたいなもんですよ」


「なんでも屋、、、。あまりにも大雑把すぎるけどマジでなんでもやってくれるのか」


 サツキはそれを聞いて内心驚いていた。

 よく漫画やアニメで見てはいたが実在する職業なのか。


「殺人と体を動かす系以外なら。主に来る依頼はアリバイ作りとか犯罪の証拠のでっちあげ。個人情報を抜き取ったり、会社のサーバーに侵入して倒産させたこともあったな」


「ハッカーやん」


「いやハッカーじゃないですよ」


「そうなのかね」


 ハッカーというのをサツキはあまりよく分からないが、今行ったことは大体映画でハッカーがやっていたことだ。


「君は、、、。そういやぁ、名前聞いてなかった」


「ゴーストです」


「は?ゴースト?」


「裏社会の住民からはそう呼ばれてますね。私は見えない力を見えない場所から使う。そのため捕まえることができないからです」


 少女は自分の異名を答えているが、当たり前だがサツキが聞きたいのはそっちではない。


「いや本名」


 異名を聞いたところでどうしろというのだ。


「ああ!そうでしたか。レオです、赤石レオ」


「不二華サツキ。よろしくね」


 そう言って二人は握手をした。


「それで、レオくんはどうやってこの状況を何とかしてくれるのかな?」


「警察への対応は簡単です。やられる前にやってしまえばいいんですよ」


「警察を殺せっていうのか。アホか君は、ふざけんな」


「違いますよ。いったでしょ?私は人を殺しません。どうでもいいそこらへんのチンピラに罪を被せるんです。殺人鬼も被害者の1人ということにしてね。んで、チンピラを警察に捕まえさせれば全て解決」


 レオの意外な対処方法にサツキは驚いた。


「んなことできるわけないでしょ」


 不可能に決まっている。

 すでに向こうは色々と調査を進めているのだ。できっこないというのにレオはできて当然だというような表情をしている。


「ポリ公が集めたデータを変えちゃえばいいんです。あと、街中の監視カメラにチンピラを合成すれば何とか。まあポリ公どもは意外とアホだからバレませんよ」


 そう言ってレオはスマートフォンを取り出し桑戸の死体を撮影し始めた。


「やっぱりハッカーじゃん」


「だから違いますって!」


 そう言いながらレオは手慣れた手つきで桑戸の指紋を取ったり髪の毛を抜いたり、死体を漁る。


「いやでも、、、。それって良くないんじゃない?殺された子の遺族は?真実が知りたいんじゃないの?」


「うまく作られた嘘の話は真実と変わりませんよ。てなわけで嘘のお話を作っちゃいますね」


 作業が終わったのかレオは立ち上がった。


「と、言いたいところなんですけど。実は必要なものは全部家にありまして、、、。帰っていいですかね」


「まあ、解決してくれるんだったら」


 サツキの返事を聞くとレオはにっこりと笑った。


「とりあえず今言ったことと、この殺人鬼の身元について探っておきます。サツキさんはこの死体を捨てておいてください」


「どこにさ」


「どこでもいいですよ?特バツって死体処理慣れてますよね」


「特バツをなんだと思ってんのさ、、、。確かにやったことあるけど」


 何度かうっかり殺してしまった死体は処理してきたがどれも一回もバレたりしたことがない。


「これ、私の電話番号です。終わったら連絡しますね。サツキさんに何か困ったことが起きた時もその電話番号にかけてください。運動系以外だったら私はどんなことでもできますんで」


 レオは早口でそう言うと忙しそうに破壊された玄関から外へ出て行った。


「行っちゃった、、、」


 一人と死体一体になったサツキはこれからどうしようかと考え始めた。


 ちょうどその時、何者かの足音が玄関からした。


「ただいま帰りましたー」


 部屋の中に入ってきたのは久しぶりに見るがいつもと変わらないツツジだった。


 一つだけ違うとしたら彼女は片手でレオの首根っこを掴んだ状態だった。


「誰です!?誰ですこの人!!?怖い!」


 レオは自身が置かれている状況に戸惑いを隠せない。


「特定したエースのところ行ったんすけどもぬけの殻で、、、。色々探し回っても結局見つからなくて戻ってきちゃいました」


 ツツジはそう言ってレオを床に転ばせるように突き飛ばした。


「で?アンタ誰さ」


「あ、あなたこそ!」


 ツツジはかなりレオを警戒しているようだ。


「この気の弱そうな人はね、この人が私の先輩。んで、わたしはその先輩のフィアンセね」


「は?違うよ?」


 サツキはツツジの言ったことをすぐに否定した。


「え。婚約してたんですか」


「してねぇつってんでしょ」


 レオが真にうけないようにもう一度否定した。


「とりあえずコイツ殺していいっすよね」


 そう言ってツツジは銃を取り出しレオに向ける。


「はあ!?待て待て待て!」


 サツキは慌ててツツジを止めた。

 相変わらずノータイムで殺す判断をするやつだ。


「なんすか」


「なんすかじゃないが!?馬鹿じゃないのキミ!!殺す意味がないじゃないか!」


「そうですかね?だって私の許可なくここに入っているってことは不法侵入者ってことっすよね?ってことは悪いやつってことだしー。だから殺しても問題ないですよ」


「ここ俺の家!その理論だと俺が決めることだから!」


 ツツジはじっとサツキの顔を見て、さらに床に座り込んでいるレオを見ると舌打ちをした。


 そして憂さ晴らしなのか桑戸の死体に一発撃った。


「でもコイツ生かしといてなんの意味があるんですか?」


「逆に君はなんで殺したがってんだ?」


 この少女の行動原理と殺意衝動の意味がわからない。いや、サツキにはおそらく一生理解できないものであろう。


「私!役に立ちますよ!」


「どんなふうに」


「そうですね、、、。さっきエースの居場所が違ったって言ってたじゃないですか」


「まあね」


「私ならすぐに見つけれますよ」


「マジ、、、?」


 まだ完全に信じていないのかツツジはレオに銃を向けている。

 だがそれにもかかわらず普通に会話できるレオもかなり度胸がある方だ。


「それに俺もこの子に助けてもらわなきゃ警察に殺されかねんのよ」


「なんでですか」


 サツキはツツジの質問の答えとなる死体を指差した。


「こいつ殺人鬼でさ。警察が探してて、色々あって俺が先に見つけたら俺を殺すって言われてんだよ。でも見つけちゃったからヤバイことになってて、、、」


「それを私が解決してみせます」


 レオの言葉のあと、短いの沈黙が流れた。


「はあ、、、」


 そしてツツジはため息をすると、ようやく銃を下ろした。


「半殺しもダメですか?」


「だからなんで殺したがるんだよ」

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