第6話 アスファルトタイヤを切りつける前に

 快晴でちょうどいい暖かさを保っている日。

 こんな日は山にでもドライブしたいが、サツキはツツジが運転する二人乗りの緑のオープンカーにパトロールのためにならなくてはならなかった。


「昨晩はボスの情報に関しては何の成果も得られませんでしたね」


 ツツジはサツキに話しかけてみたが、彼はどこか暗い様子であった。


「まあ、でも悪人どもは退治できたんでよかったっすわ!この街殺し放題だからマジ嬉しいっていうか。ここ気に入りました!」


 サツキからの返事はない。

 片側をバレッタで止めた少し長めの黒髪をなびかせながら、ずっと流れていく街を見ているだけだ。


「先輩〜、元気出してくださいよ。せっかくのドライブデートですよ?何が不満なんすか」


「不満?まあ、二つあるかな」


ようやくサツキはツツジの方を向き、口を開いた。


「じゃあ一緒に解決していきましょう。二人で乗り越えてこそパートナーなんで」


 ツツジはまるで自分は一切問題は無いといった様子でお気楽そうに風に吹かれたツインテールを揺らしているが、これから話すうちの一つはツツジに関してである。


「一つ目は、昨晩俺が頑張って逮捕した悪人達を君がナイフでバラバラにしたことだ」


 ツツジのせいでサツキはいつも困ったことになる。


「君のせいでまた俺が沢城さんに怒られたらどうするんだよ。責任取れんの?」


「沢城さんはボスが目当てでしょ?それ以外は殺してオッケーっすよ」


 つまり、ツツジは全く嫌な思いをしていないので彼女的には問題なしということだ。


「はい、一つ目解決」


 ツツジは問題解決を宣言しているが、サツキはさらに不満が深まる。

 だがもうツツジは昔からこんな感じなので諦めることにした。


「二つ目はなんです?」


「、、、今日はなんか知らんけど嫌なことが起こる予感がする」


「はあ?」


「そういうことない?何だかわからないけど嫌な予感がすること」


 サツキの心配性はツツジも知っている。実際サツキは常日頃オドオドしている。だが、今日は心配という感じでもなさそうだった。


「それって、、、。何かの精神疾患とか?」


「違うよ」


「ストレスが溜まってんですかね」


「違うって」


「あ!ヨガでも始めたらどうすか!」


「そういう問題じゃないだろ」


 少しイラつき気味にサツキはツツジに言いかえした。


「先輩、うちのにーちゃんだってアル中で死に損ないだったけどヨガで元気になりましたよ?」


「次はヤク中になって死んだけどな」


 何の参考にもならない話である。


「先輩は悪いことが起きるって考えるから勝手に不安になるだけじゃないすかね?つまり気のせいってことですよ」


「完全に杞憂だとかいう感覚じゃないんだ。暑い日だけど夜は寒くなるかもとか、今日は庭に隕石が落ちるかもとかいう気分でもない」


「冷蔵庫にあるケーキを食べたら沢城さんに半殺しにされるかも、とか?」


「、、、それ、俺の体験談だよね?」


 信号が赤に変わったのでツツジは車を停止しさせた。

 横断歩道を人々がわたっている。ツツジの車に並ぶように一台のバイクが止まっている。どうみたってこれから何か嫌なことが起こるような感じがしない。


「でも安心してくださいよ!私がいる時点で先輩はいいことづくめになりますんで!」


「君といると災難しかないよ」


 そう言った直後だ。


 サツキは突然足元にあった警棒を取り出し、ツツジのすぐそばに停止していたバイクの運転手に向けてぶん投げるというなんとも非道徳的な行動をとったのだ。


 警棒はうまくコントロールされ、バイクの運転手の頭にあたると運転手は倒れた。


「運転手から狙うとか怖すぎ、、、」


「エェッ!?先輩頭おかしくなったんですか!?」


「君に言われたくないんだけど」


「いや、だって、、、」


 何でサツキはいきなり投げたのか。やはり自分の先輩は自分以上にいかれている。いや、これは迷惑行為か?

 しかし、ツツジはあることに気づいた。

倒れたバイクの運転手の着ている上着の内側ポケットにあるものが顔を覗かせていた。

 銃だ。銃の先端の部分しか見えないが、見慣れているツツジにはすぐに分かった。


「あー。なるほどね、コイツ銃持ってたんすか。え?何で持ってるって分かったん?すごくね?」


 サツキの観察力と危険察知の能力は驚き通り越して正直不気味だ。


「最悪なことにまだ来るんだよ、、、」


 サツキのその言葉の後、エンジン音があたりに響き渡る。

 一台だけじゃない。何台ものバイクの音だ。


「このまま車を走らせたらどこまでも追いかけてくる。降りてバイクが通らないところに行こう」


「了解でーす」


 だが、ツツジが言うことを聞くわけがない。

 むしろこれから面白いものが観れるであろうと思った彼女は、ちょうど青信号に変わったので思いっきりアクセルを踏んだのだ。


「話聞いてた!?」

「あはは!やっぱ先輩マジいけてる!!」


 高速で突っ走るオープンカーを追うようにバイクもさらに加速させた。

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