指名手配

第5話 主人公、賞金首になるの巻

 タバコの煙が視界をぼやけさせるほどに空気中に漂っている薄汚いバーで二人の不良が談笑していた。


「だからそいつの女を家まで拉致ってさぁ、先輩とかも呼んだんだわ」


 丸刈りの少年は何故か自慢げにそう言った。


「マジかよー、お前鬼畜すぎ。彼氏の方は?」


「まだ女と一緒に家にいる」


 隣にいたら盗み聞きもしたくないような最低な会話内容だ。


「まあでも、今後は目をつけられねえように気をつけたほうがいいな」


「は?誰に?」


「特バツだよ」


「何だって?何バツ?」


「特バツだよ。ト、ク、バ、ツ。知らねえの?」


 金髪の男が半分バカにしているように、自分の言った単語をもう一度一文字ずつゆっくりと話す。


「あー、特バツね。警察ごっこのチンピラどもだろ?それがどうしたんだよ」


「なんかこの街に来ているらしいんだわ」


「ふーん。だからなに?」


「例えばだ、そいつにタタキの最中を見られたとする。そしたらそいつはどんな手段を使ってでも俺らを捕らえにくるだろうな。バットで殴られるかもしれないし、鎖を使ってくるかもしれない。最悪射殺される可能性だってある」



 金髪は半笑いで銃の引き金を引くジェスチャーをする。

 それを聞いて丸刈りの不良少年はスマートフォンを取り出しある動画を見せた。


「もしかして、その特バツってこいつのこと?」


「誰こいつ」


 そこに写っていた映像はところどころ編集で切り取りされていると思われる、サツキが爆弾魔のクラッシャーから逃げ惑ったり怖がったりしている映像だった。


「最近街に来た特バツらしい。なんかひよってるところ切り抜かれてるけど」


「、、、なんか、特バツって大したことなさそうだな」


「こいつより加能くんの方がよっぽどヤベェよ。何かあったら加能くんに頼んで山にでもさらってやろうぜ」


 特バツなんて何も怖くないじゃないか、とでも言うように不良少年達が笑い合った。

 その時、二人に何者かが近づき足を止めた。


「山にさらうってどうするんだよ。誰か殺すのか?」


 どうやらその男には今の会話の最後のあたりが聞こえていたらしい。


「か、加能くん、、、」


 不良少年が男をみてその人物の名を呟いた。


「なに?何の話をしてんの?」


「いや、この街の特バツについてさ、、、」


「あの弱そうなやつか」


 そんな話題どうでもいいとでも言うように加能は鼻で笑った。

 それよりも彼には他の用事で二人に会いに来たのだから。


「ところでさぁ。お前らなぁんで昨日100万持って来なかったわけ?」


「え!?き、きのう!?」


「ああ、昨日だよ。なに聞き返してんだ?お前らって昨日の意味がわからないバカなの?それとも今日生まれたばかりの人間なのか?」


「いや、ちょっと昨日までに100万はキツいって、、、」


 あはは、と金髪は加能の顔色を伺いながら笑って誤魔化そうとする。


「そうそう。それに今週はうまく人が集まらなくて銀行強盗とか詐欺では稼げなかったから、、、」


 丸刈りの少年は怯えつつ言い訳を述べた。


「お前らが他の奴らの分も頑張ればいいじゃんか。俺をバカにしてんの?」


 加能はこいつらはダメだと言うようにため息をついた。


「これはどっちかに罰ゲームだな」


 彼のその言葉を聞いて不良少年二人は慌て出した。


「違う!こいつ!こいつが何もしてなかったんだ!俺は頑張ってた!」


「ふざけんなよ!テメェ、さっき中坊とその女拉致ってたとか言ってたよな?そんな暇あったら金集めろよ!」


 とても醜い責任のおしつけあいが始まった。仲良くしているように見えながらも結局は絆などこの程度であるのが虚しい。


「へー。お前拉致って遊んでたんだ」


「いやこいつ嘘ついてるんです!!本当はコイツが、、、!」


 丸刈りの男は汗をかきながら必死に嘘をついた。

 殺される。

 加能はそういう奴だからだ。実際彼には実績がある。自分の目の前で彼に無惨に殺される人を何人も見てきた。

 不良少年の肩に加能の手が置かれた。


「なーんてな、冗談だよ」


「へ、、、?」


 不良少年達は加能のあまりに明るい声に驚いたため固まってしまった。

 加能は笑顔だ。

 怒ってなどいない。


「罰ゲームなんてするわけないだろ?」


 そう言ってにっこりと彼は微笑んだ。


「あ、あははは!加能くん冗談うますぎるなぁ」


「マジでビビったわ〜」


 その直後だ。


 突然、丸刈りの少年の口の動きが止まった。


 そしてゆらりと魂が抜けたように椅子から落ちる。というより、彼は確実に絶命してしまったのだ。


「さてと。で?お前はどうする?」


 今度は金髪の少年の方に加能は話しかけた。


「お、おれ!?俺は、、、」


 まずい。このままだと殺される。金髪は混乱の中必死に考えなければならない。


「加能さん!やばい話が来ましたよ!」


「なに?今お話中なんだけど」


 加能が突然話しかけてきた彼の取り巻きの方を振り向いた。

 助かった。

 危うく殺されるところだったため、不良少年はほっとした。


「いや本当にすごい話なんすよ!」


「そんなに?」


「はい!超金稼げる話なんすけど!これが超簡単!」


「分かったから早く内容言えよ」


「さーせん。で、あの弱そうな特バツ知ってます?ビビってばっかの動画上がってたじゃないすか」


「ああ。あのチキってたやつだろ?そいつがどうしたんだよ」


 ちょうどさっきまでそいつのことが話題に上がっていたところである。


「ボスがそいつをぶっ殺したら大金くれるって言うんです!」


「いくらよ」


「1億!1億です!ヤバくないですか!?」


 昨日回収できなかった100万など気にしなくなるほどの値段。加能はそれを聞いて思わずニヤついた。


「へえ〜、、、」


 こうしてサツキは知らぬ間に命を狙われることになったのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る