第7話 デッド・オア・ドライブ

 暴走する古びたオープンカーを数台のバイクが今にも殺す勢いで追いかけてくる。


「あんなボロい車すぐ追いつくよなぁ」


「やっぱ特バツってバカだわ」


 そんな会話をしているバイクの運転手をツツジはサイドミラー越しに見ると、自分の置かれている状況にさらなる興奮を感じていた。

 彼女は大喜びだがサツキはもう今すぐにでも降ろしてくれとばかりに足が震えている。


 するとついに追いついたバイク一台が車の横に来ると銃をこちらに向けてきた。


 だが、今ハンドルを握っているのがツツジだと言うことはバイクの運転手にとって不運だった。


「くたばれチ◯ポ頭」


 ツツジは何の躊躇いもなくハンドルを右に動かし、バイクにぶつけた。

 そして、バランスを崩したバイクは倒れて運転手はバイクから転落するとゴロゴロと道路に勢いよく転がっていった。


 だが運転手に起きた事故はそれで終わりではない。


「ぎゃああああぁ!!」


 さらに後ろから来ているバイクに頭をぐちゃっと踏み潰され、轢いたバイクも宙を舞って首から落ちたのだ。


 まさに負の連鎖。落ちた時には鈍い音を立てて肉片と血飛沫をあたり一面に散らした。


「あははは!!先輩今の見ました!?」


「ツツジ!ゆれるからやめろ!危ないじゃん!」


「じゃあ、先輩戦ってくださいよ」


「はあ!?」


「先輩の!ちょっといいとこ見てみたい!」


「嫌だよ!」


 だがツツジの要求に拒否できたとしても敵の攻撃までは拒否できない。

 サツキのすぐ横までバイクは追いつき銃を向けてきた。


「待て待て!やめろ!こんなもの使うな!」


 サツキは銃を持っていた腕を自分とは違う方向へと向けた。

 発砲された弾丸はサツキに当たりはしなかった。


 代わりにツツジのことを撃とうと接近していたライダーの頭をぶち抜いた。


「てめえ!」


「だから銃はやめろって言ったのに!」


 サツキが銃を取り上げようとしたがなかなか離さない。それは明らかにやらなければ良かった行いだ。そのせいで男はバイクから手を離してしまったのであった。


「あ」


 バイクは横転し、そのまま落ちていく。

 だが、男はとっさに銃を手放し何を思ったのか車にしがみついたのだ。


 もちろんそんなことをしたらどうなるか結果は見えている。


「ぎゃああああ!!あああぁぁぁぁ!!」


 高速で走る車に引きずられ、男は大根おろしのように足がちぎれていく。


 胴体からは内臓がはみ出し、血と内臓が混ざり合う音がエンジン音と共に聞こえる。


「うっわ、やべ。どうしようこれ。なんか、、、。なんかごめん。でも離さない君が悪かったから、、、。いや、死にそうな人に説教はダメだよね」


 サツキは目の前で起こっていることに困惑していると、ついに力つきた男は手を離してしまった。


 死体となった男は後方を走るバイクに轢かれ、そのはずみで轢いてしまったバイクの運転手も巻き込み事故のように横転し、叩きつけられ、さらに宙を舞う。


「来世は銃を使わないようにねー!本当にごめん!」


 サツキは死んでいった二人のドライバーに次の人生では頑張れるように応援した。


「先輩、もう終わりですか?」


「そうだな。多分もう終わりだろ」


 だがそれは油断による憶測でしかなかった。

 それを否定するように交差点を通りかかる瞬間、別の車線から今度は猛スピードで車が3台追いかけてきたのだ。


「嘘でしょ!?車ぁ!?」


 どんだけ殺したいのだ。

 こちらに向けて銃を発砲してくる。


「先輩、こっちも銃ありますけど。後ナイフも」


 サツキは考える暇もなかったのでその二つをツツジから受け取った。


「ったく、銃使いたくなかったのに、、、」


 ブツブツと文句を言いながら拳銃に弾をこめる。


「君らのせいだぞバカやろー!」


 車から顔を出した瞬間を見逃さず、一発一発撃っていく。だがなかなか当たらない。


「あー!もう!」


 そもそもサツキは銃の扱いには慣れていないのだ。

 こういうのは銃殺してばかりのツツジが大得意なのだが彼女は運転中だ。

 普通の人間は流石に車を運転しながら後ろから来ている車を撃つことはできないだろう。


 しかし、ツツジは違う。彼女は撃てない時は撃てるようにするのだ。


「先輩気をつけてー」


「え?何を?」


 ツツジはサツキの質問には何も答えず車の向きを大きな音を立てながら180度動かしたのだ。

 そして、とんでもないことにそのままバックで走り始めた。


「何だあれ!?どうなってんだよあのボロ車!?」


 追っ手はツツジの荒技に驚愕した。

 さらにツツジは更なるスリルのため後ろなど全くみていない。

 そして彼女は銃を片手で持ち、発砲してくる敵を片っ端から一発ずつ弾丸をぶちこんで殺した。


「うわあああ!!揺らすなっていったのに!!」


「あはははははは!!!」


 一台の車のドライバーを撃ち殺し建物に突っ込んだところを見て、ツツジのご機嫌はMAXへと達した。

 だが、撃ちまくっていれば当然銃は使い物にならなくなる。


「やばい、弾切れっすね」


 カチカチと引き金をいじり、ツツジは舌打ちをした。


「先輩、車あと2台来てるんすけどどうにかなりませんかね」


「どうにかって、、、」


 まあ、どうにかするしかないよな。

 本当なら逃げたい。


 だが逆にサツキは追いかけてくる車の上に勢いよく飛び移ると、上から車内の運転手に向けて3発撃った。

 運転手の頭はぐちゃぐちゃだ。もちろん即死である。


 その時、すぐ近くを走っていた車がサツキに向けて銃撃しようと運転手が窓を開けた。


 ちょうどいいタイミングだった。


 サツキは腰に差していたナイフを握る。

 そして、今乗っている車が事故る前に、素早く運転手の頭に向けてナイフを投げた。


 綺麗に回転するように投げられたナイフが"サクッ"と音を立てて男の額に深く突き刺さると、運転手は力が抜けて持っていた銃を力なく車の外に落とした。

 それを見届ける前にサツキはツツジの車にすぐに飛び乗った。


 ツツジは車を正面に戻してその場から逃げるように走り去り、人がいる気配がない場所で車を止めた。


「やばかった、、、。もう来ないといいな」


 めちゃくちゃ怖かったというようにサツキは呼吸を乱した。


「ったく、、、。何で武器しかないの?」


「あの状況でどうしろと?どう頑張っても相手死ぬでしょ」


 ツツジ得意技、自分の殺人は自分の責任ではないという考えである。


「随分と派手に追われましたが何でですかね」


「分かんないよ、、、。特バツだからかな?」


「先輩が賞金首にかけられてたりして」


「冗談はやめてよ」


「何にせよ、調べる必要はありそうですね」

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