駆け抜けます!

第36話

 中間世界を駆け抜けて。薄暗い世界だけど、みんなと一緒だから。

 怖くないよ。だって、紗雪さんの背中があったかいから!


「紗雪さん!」

「馬鹿ね、今も命がけなのよ?」


 荒波のようにアスファルトを蹴り叩くヒヅメの音がこだまして、暗い海岸沿いを北に向かって突っ切ります。

 馬に騎乗して、私の左横を走るゆり子さん。キツネ色のポニーテールが真っ直ぐになびいてて、とってもカッコよくて。でも、鋭い目つきで前方を注意深く視てます。


「前方から鬼火がくるわね」

「フン……叩き落とすまで」


 前方から表れたのは猿みたいな顔、サイズはそんなに大きくはないけど、メラメラと蒼く燃える火炎を、リング状にまとっている。


鬼火オニビ】蒼い火炎をまといし異形。


 私の右側を通り風のごとく駆け抜ける、一頭の馬。騎乗する射手は、和弓に矢をつがえた静香お姉様。弓構え―――斜面打起し。

 なびく赤いメッシュが、カッコいいです!


「ここはあたいにまかせなぁぁ、そらぁぁぁぁ!!」


 お姉様は腰から上部を強引に捻じると、構えた弓を打起した―――大きく反り返る和弓。放たれるその矢は、勢いよく弦から飛び出し鬼火を捉えた。―――バシュン!!

 猿顔の右目に命中、鬼火は悶えた。お姉様を追い越すもうひとつの影―――速い。


「ここは僕が―――せぇや!!」


 腰に添えた刀の鞘を持ち、抜刀のように刃を振り抜き異形に斬りかかる。真横からの薙ぎ払い―――それは一太刀。鬼火の半身を見事に切り払う。

 灰色のおウマさんに乗った王子様。なびく黒髪がカッコいいです!


 そのあとすぐ、前方から複数の火炎の塊があらわれて……2―――3!?

 手前に2体、奥に1体。でもなんだか、水無瀬さん達は楽しそう!


「かぁ~。やっぱり弓を引いてるって感じだなぁ!」

「静香、無茶をするなよ?」

「大丈夫さ。あたいは今、弓道家なんだからなぁ」


 お姉様は疾走しながら、背中にある矢筒から矢を抜くと、目線の高さまで弓を持ち上げつがえた。ゆり子さんと亮介さんが、左側から飛び出すように前進。


「さぁてね~。浄化はできなくても、射抜くには問題ないかな」

「叩き切るまでだ」


 亮介さんは和弓くらい長い太刀を構え、左手側を猛スピードで駆ける。それに続いて、ゆり子さんは矢をつがえ弓を構えた。


「しゃあ!」


 反り返ったと同時に、キレのある離れ―――すごい、やっぱり凄い。ゆり子さんが放った矢は一番左の鬼火に命中、よろめくように真ん中の鬼火と激突した。


「フン!」


 亮介さんが和弓と同じくらい長い太刀を振りかぶる、強引な薙ぎ払い―――重い強打撃。横一文字の太刀筋が、2体を切り払う。

 しぶい、しぶいですうぅ!!


(あと一体だ)


 私の右側―――オシャレな金色の巻き髪をなびかせ、疾走していくお姉さんです!


星城せいじょう 麻里奈まりな、おして参ります。せやぁ!!」


 金髪のお姉さんが宙を舞った―――違う、お馬さんが跳ねたんだ。全然よくしらないんだけど、この人カッコいいですぅ!!

 離れ―――バシュン!!


(あ――――外した)


 星城さんは舗装面に着地すると、腰に刺していた矢を抜き取り、すぐさまもう一本つがえました。なんか、外した事を気にしてないみたいです。


「そらぁぁ!!」


 お姉様が放った矢が、鬼火を狙い射る。―――バシュン!!

 星城さんが正面を向いたまま弓を打起し、そのまま手早く引き分ける。会になる直前で顔を横に向け、同時に矢を放った―――バシュン!

 3体目の鬼火は両目を貫かれ、海岸沿いを転げたあと、海面へと没した。


「オーホッホッホ! 流鏑馬やぶさめを一度やってみたかったんですの。もう外しませんわ!」

「あっはっは! あんたやっぱり見込みあんなぁ!」

「弥生さんは、僕が守ります―――キラン」

「フン、好きにすればいい」


 星城さんは楽しそうに笑って。お姉様も楽しそうだ。周さんは歯をキラリとさせて、亮介さんに決め顔してるし。とっても楽しそうです!!

 並走したゆり子さんが、紗雪さんに優しい笑顔を向けた。


「傷は痛む? 治療中ならしばらく使い魔は出さないほうがいいわよ」

「はい。すいません……」

「ふふふ、いいのよ。弥生ちゃんをお願いね?」

「はい」


 逆風なんて吹き飛ばすかのように、みんなと並んで駆け抜ける。道路を蹴り進んで、転移のゲートである駅を目指して。

 ちょっと気になって、目の前の左肩を眺めてみた。紗雪さんの肩は、見た感じ普通のように思えた。そっか、やっぱり使い魔さんって凄いや!


(でも駅についたらどうするんだろ?)


 やがて海岸沿いを切り抜け、ポツポツと建物がみえてきた。明かりのない工場や家屋を横切り、線路沿いを急ぎ突き進む。

 ふと奇声のような鳴き声が聞こえて、前方の頭上を見上げた。何か空からくる……黒い翼を羽ばたかせた何か―――あれは!?


「フン、ヌエか」

「まだ幼いようだけど、マズいわね」


 その時―――チカっと稲妻のような一線。鵺の翼を空から貫いた。それが飛んできた方向に向くと、白色の装束に緑色の袴姿。和弓を持ってる人―――連続した稲光。

 鵺の鳴き声と共にその化け物は悶えるように落下してくる―――うわぁ、ぶつかるぅ!?

 そう思ったとき、なにかが鵺を切り裂いた。真っ二つになって、私達の間をすり抜けて落下した。心臓が止まるかと思いました……紗雪さんは動じてないみたいです、やっぱりクールです!

 横に浮遊する人影。その白い装束姿の人影は、ヒラヒラと青い袴をなびかせていた。右手には鞘のない刀を持って。


「ええ?? なになに??」

「そう。サンジョ様ね」

「へ?」


 サンジョ様? でも、厳島神社は信仰心が―――緑色の袴、その人影が空から降りてきた。頭には市女笠いちめがさ。半透明のレースみたいなのがヒラヒラしてる、白い麦わら帽子みたい。

 でもサンジョ様、2人ともそっくりな顔で、超かわいいかも……2人はニコニコとしながらこう言った。


『助けにきたよ~。今お姉ちゃんが頑張ってくれてるんだぁ!』

『イクデゴザイマス……………だってさ』

「そう、心強いわ」

「あはは、なんか想像出来ちゃうかも!」


 私がイメージしたのは、大岩を両手で支えてるタキリ様だった。


『むむ……また違うのがくるみたい。イチキ、寝ずにみんなを頼むね~!』

『……………うん、タキツも頑張って』


 タキツ様が違う方向に飛んでいってから、いくつかの光が輝く。それが流れ星みたいに綺麗だった。イチキ様は浮遊しながら後ろを振り向いた。


『…………なんかきた』


 その言葉に私も振り向いた。武人のような姿をした何かが後ろか近付いてくる。腕が……六本ある。武人のような人影だった。


阿修羅アシュラ】中間世界を統治する、大神の創造神。


「おい周。どうやら俺達の出番だぞ」

「そうですね。すいません、先に行っててください」


 前方を走っていた亮介さんと周さんは速度を落としながら、私の後ろについた。イチキ様は光る手を振るい、2人の武器を光らせる。


『ごめん………鎧は………無理。眠くなる』

「十分ですよ。ありがとうございます」

「フン。体が軽くて戦いやすい」


 そんな――――亮介さん、周さん。


「弥生、前をみて。あなたがみんなの希望なの。だからみんな、あなたを守るの」

「紗雪さん……みんなの希望って、なんですか?」

「ゲートにいけば分かるから、心配しないで」


 前をみて、紗雪さんの体をギュッと掴んだ。後方で鳴った、剣と剣が激しくぶつかるような音が響いて。


「大丈夫だよ! あたいの旦那はつええんだ!」

「ふふふ。わたしの夫のが強いわよ?」

 

 やがてそれは聞こえなくなった。ゆり子さんとお姉様が信じるなら……私も信じます。

 だから、ゲートを目指して前に進みます。今の私は、それしか出来ないから。

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