第35話
「うそ? え?」
次に目を開けたときだった、一瞬でその後ろ姿に目を奪われた。
銀白色の長髪。月光のように輝き、ゆらいでいる。チラっとみえた横顔が、この世とおもえないくらい整っていて。装束のような真っ白い衣装でさえ、美しかった。
突然の出来事に、思わずポカンとなってます。
『退くがよい! 結界じゃ!!』
光の網――蜘蛛の巣のような形。その網は無造作に咲く花火のように破裂する、化け物を捉えたかのように思えた。
八匹の蛇がいっせいに咆哮し、海岸沿いから押し戻されていく。
『――――ミコトか。貴様はあの時もそうだ。我の邪魔をする』
『オオクニよ。キサマは信仰心を利用し、他の神を封じたつもりであったろうな。じゃが……2年前のあの時から、妾もただ指を咥えて待っていたわけではないぞ?』
『………キサマ』
『それにじゃ。信仰されない神なぞ、ごまんとおる。勝機さえ逃さねば―――』
(ミコトさま? でも白いキツネの神様は……あれ、流れ星?)
いろんな方面から流れ星のように飛んでくる言霊。周囲をキョロキョロと見渡すと、多数の白い人影が集まってきている。ゆり子さんやお姉様も、不思議そうに見渡していた。
それぞれ空へと停滞する光。陸地に降り立つ人影。私もそうだけど、みんなも驚いてるみたいです。
「はっはっは! こりゃ驚いたよ。心強い助っ人だねぇ」
「ふふふ、そうね……さすがにわたしも予想外だわ」
「……そ、そう思いますわ!」
飛んできた人影は、蛇のほうを向きつつ、私達を守るように。
それぞれが白い装束姿で。袴は赤、緑、青、いろんな色で。神様なのかな?
「フン」
「なにを笑っているのです? 顔がニヤついてますよ?」
ギチギチと牙を鳴らす7匹の黒い蛇。この光景を見ても、白い蛇はあざ笑うかのようだった。
『たかが神社クラスの神が集まったところで。大神の我に叶うわけなかろう? 武器をもたぬ神の使いと、何ができるのか』
『どうやら忘れておるようじゃの。妾はかつて鬼をも退治した、弓の神ぞ?』
ミコト様は宙に浮遊したままこっちを向くと、差し出した両手を輝かせ、私達にキラキラと輝くシャワーを浴びせた。みんなの手や背中が、ぼんやりと光る。
綺麗な光――――みんなの手に黒い和弓が。
右手に茶色い
白い弓道衣に、黒い袴が、なびいていた。
亮介さんや周さんにも刀が――武器だ!
「それにしても、ミコト様は、男の人じゃないですかぁ!!」
『妾はお爺さんではない、まだ若いほうじゃからの』
真っ白い装束、輝く袴。なびく銀白色の髪が綺麗だった。超絶びだんしぃぃぃぃ!!
ミコト様は殺人級のスマイルで微笑んだあと。化け物に向きなおった。
『すまぬが、力を分けてやりたいが今はそれが精一杯じゃ。そして――お主にはやってもらいたい事がある』
『来たれぇ!! 我が
八匹の蛇が咆哮。その声に呼ばれ、周囲から様々な異形が集まってきた。その数はとてつもなく多くて、地面が揺れて………音?
振り向くと、怒涛のような地響きと共に、アスファルトを叩くヒヅメの音がハッキリと聞こえて―――うま?
先頭を走る白いおウマさんが、頭をグルグルまわしながらこっちへ走ってきた。
涙が出そうになるくらい胸を弾ませて―――大きく両手を振っちゃいます!
『ブラアァァ! こいつらに乗れぇ!』
「おウマさん、おウマさん! それに――紗雪さあぁぁぁぁん!!」
白いおウマさんの背中に乗る、赤い巫女服姿の紗雪さん。
その後ろには、何頭もの灰色の馬をひきつれていた。
『イナリ……キサマかあぁぁ!!』
『バカが! 俺はそこらじゅうにいる信仰されねぇ神なんだよブラアァァ!!』
ひきつれたおウマさんがこっちまで来ると、みんなグルグル頭を回して鼻から息を噴射してます。体は白いけど、絶対おウマさんだ!
「紗雪さん! 紗雪さん!」
「そう。ほんと、脳天気なんだから。さぁ、後ろに乗って!」
『さぁてめれぇら、俺の分身に乗れやぁぁ! ブラァァ!』
『さての。役者はそろったの』
憤るように八匹の大蛇は吼えた。その声に、周りにいた異形達と、装束姿の神様達が一斉に動きだす。
『
『
―― おおおおおおお! ――
大歓声です。黒い袴姿のみんなが、おウマさんに騎乗して、頭上に和弓を掲けだ。
紗雪さんだけ赤い袴だけど――ま、いっか。私も皆と一緒にいきます!!
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