第三章 アマツカミ
第33話
すごい……すごいや!
私の心は高揚していた。化け物相手にみんな勇敢に戦っていて、それがこんなにもカッコよくて。お腹にある弓をギュッと握りしめた。なりたい、この人達みたいになりたい!!
応援にきた射手さん達もいて、勝てる、勝てるよ!!
空を飛び、風を感じてる。化け物の近く、ぬるくて臭い風だけど、今は気にならなかった。クルんと空を回って、再びその巨体を眺めた。
残った頭が4つ、ギョロギョロした黄色い目が8つ。気持ち悪い……でも、この人達と戦ってて不思議な安堵感。怖いはずなのに怖くなかった。
勇敢にも白い馬に乗って戦っている、金色の髪をした女の人。なんかお嬢様みたいに髪がクルクルと巻いてあって、それがすごい似合ってた。
(私も、みんなみたいに強くなりたい。強くなって……力になりたい)
今までに思ったこともなかった気持ちだった。おウマさんとの約束……ううん、それだけじゃない。惹かれてるんだ―――皆の弓に!!
化け物が咆哮を終えた時だった。再び近付いていく。その時だった―――。
牛の化け物が動いてたつ波とは違う、大きな波がたった。それは津波のような白波が、遠くからきて。
私は違和感を感じたけど、牛鬼の周りを飛ぶ射手さん達は気にしていない様子だった。空を飛んでるからかな?
でも………なんか嫌な気持ちになって。突然お姉様は向きを変え、急降下した。金髪の女の人や、馬に乗る人達に「結界内に逃げろ」って、力いっぱい叫び始めた。
その言葉の通り、使い魔に乗った人達はみんな、それぞれ逃げるように駆け出した。
「ちぃ!! あいつらは間に合わねえ!! 牛鬼に近付きすぎだ―――バカやろう!!」
「静香!!」
「わかってる、逃げるぞぉ!! 掴まれぇぇ」
慌てたように、陸地に向かって急加速した。
波から逃げるため? ……違う。ゆり子さんも慌てて逃げてる。
「あ―――――」
情けない声がでた。その光景を見たとき、心がズキンと傷んだから。喰われちゃった―――黒い蛇に。黄色いギョロりとした目がこっちを見て、4つの目が私を見た。2匹の蛇。
それは海中から突然現れて、空を飛んでいた白い鳥さんを―――丸呑みした。空に向かって伸びた黒い柱のように、真っ直ぐに。牛鬼の背丈より長い身体で。
なんだか、あの化け物も黒い蛇に怯えてるようで、その蛇に向かって吼えていた。異様な光景だった。なに……何が起こっているの?
気がついた時には、私は小さな神社の敷地内にいて。そこにはゆり子さんと、白い馬に乗った人が一人だけだった。
顔を横にむけたら、少し離れた場所に大きな蜘蛛が、体から綿のように光をだしていた。
真剣な表情をしたお姉様が、周さんにこう言った。
「転移のゲートまでどのくらいある?」
「飛んで20分くらいだ」
「そうかい。ゆり子」
お姉様の言葉に、ゆり子さんは頷いた。え、どういうこと??
金髪の女の人も、理解出来ないような様子だった。
次の瞬間、牛鬼の咆哮が聞こえてくる。それと同時に、牙をむき出し共喰いのように化け物を食い散らかす黒い大蛇。海は荒れ狂うように波がたち、蛇は3匹―――5匹と増えていく――――。
この場所の真横に、大きな黒い影が這った。長い長い影だった。それは鬼蜘蛛を喰わえ、海中へと飛び込んだ。
これで――――7匹。蛇はまるでご馳走を食べるかのように、はしゃいでいるように思えた。
遠くにいるはずなのに、血の匂いや異臭がする気がして。バリボリと砕き咀嚼するような音が聞こえてくる気がして――――違う、聴こえてる―――匂ってる。
後ろから嘔吐する音。金髪の女の人かな?
「大丈夫か? ここは結界の中だ。心配するな」
背中から亮介さんの声がしたけど、そっちを見れなかった。見たら―――私もでちゃいそうだったから。だから必死に堪えた。
ゆり子さんと静香さんが前に立ち並んで。私も鳥さんから降りた。周さんがそっと横に立ってくれて、少しだけ安心できた。
「あたい、やっと理解したよ。なぜ神楽の射手があたい達だけなのか。なぜ練度が低い射手しかいないのか」
「他の射手達は逃げたようだけど、たぶん駄目ね。アレに喰われたと思うわ」
「2年前の再来かい? いや、ちょっと違うね」
「………来るわ」
異形を食べ終えた蛇が、散り散りになったままこっちを見た。そこに、海面からゆっくりと現れた、一匹の大きな蛇。黒い蛇と同じような大きさ、でも目は緑色で。まるで知恵があるかのように、7匹の蛇を従えているかのように、そんな目で。
「なんで……なんであの蛇だけ――――白いんですか?」
7匹の黒い蛇と白い蛇。合計8匹の蛇。
【
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