水無瀬 静香

第31話

 紗雪の様態は正直きつい。あのまま看病してたら……でも優先するのは化け物の浄化だよ。

 念を喰らい、現世と往来できる射手を喰らい、蓄えた力であの化神はやがて現世の世界へいくだろうねぇ。弥生ちゃん、そうだい、あの時もそうだ―――。

 2年前の事件。あたい達がのんびりしすぎて不甲斐なかったから、多くの犠牲者を出しちまった。数多くの射手は死ぬし、化け物は取り逃がすし、まぁ平和ボケしてたんだろうなぁ。

 アマテラス様が死なれたあの事件。ウジャウジャ化け物が現れて。あたいが戦ってたあの神……ありゃ自然の法則から反してんな。

 現世の世界で憑依した念も、なんか結局死んじまったし。ま、不幸中の幸いか。

 糞みたいな神の連中めが。どの神の仕業か知らねぇけど。大神クラスの神だよなぁ。

 使い魔にのり、陽の光のない空を飛びながら、あたいは後ろにいる弥生に声をかけた。


「弥生ちゃん、弓は握らなくていい。ただ落とさないようにしがみついときな」

「……は、はい!!」


 ホント明るい子だよなぁ。使い魔ハトの姿で出会った時にはもしかしてと思ったけど………。

 サンジョ様も口そろえて嘘つくし。理由がなんかあるんだろうなぁ。わざわざ異形狩りに連れてくる必要なんてないのになぁ。のくせに、一つしかない転移のお守りも渡しちゃってさ。よっぽど死なせたくないんだね。


「つがえ!」


 弓を構え、矢を装填。まずは弱点を探さねぇとな……ん?

 ふと気配を感じた。視線を動かすと、遠くには使い魔に乗った2人の男女の姿。あいてさんもこっちに気がついたのか、手を振ってきた。


(神谷夫婦かい……これで射手守を持つ神楽の射手はあたいをいれて2人)


 たぶん他の場所でも化け物が出てんだろうなぁ。ここに来るのは練度の低い射手ばっかりだし。まるで2年前と同じような……いや、考えるのはやめよう。まずはこの牛鬼を浄化する!!


「――あ! 周さんだ!」

「言ったろ? あたいの旦那は強いのさ!」


 牛鬼の周囲には鳥の使い魔を持つ射手が3人。

 海面には紗雪の使い魔に乗る周と、馬に乗る射手が2人。

 牛鬼め……海に浮かび、波を荒立てるように足踏みをしてやがる。海面にいる射手達じゃ無理だなこりゃ。こいつらは無駄死にするだけ、その前に浄化させなきゃなぁ!!

 まっ黒い大きな巨体に、4本の足。いたるとろにある牛頭。身体中からボコボコとイボみたいにはえてやがる……変に近付いたらやられるなこりゃ。


「――――――。」


 化け物の咆哮。波動のように生ぬるい風。そして荒れたように波がたつ。


「えらい賢い化神だなあぁ!!」

「―――――うわぁ!?」


 海面に向かって急降下、スレスレで低空飛行しつつ。まずは右側面に!!


「しゃぁぁぁ!!」


 弓から放たれた2本の矢は、つがいのように飛び、波動を突き抜け右側面の顔を一つ狙う。だが―――。狙う右の頭と、前方の頭から合計2つの咆哮。勢いの無くした矢は海中に落下する。その隙に―――近くにいる周を助けるよ!


「周!!」

「はぁ……はぁ……」


 だいぶ疲れてんな……まぁ無理もない。

 弥生は使い魔の背中から片手を伸ばす。タイミングを見計らい、周は牛の背中からジャンプ。ちっ、次の咆哮かい!!


――――キイイン―――バシュン―


 その時、ベストタイミングで矢が飛んでくる。右側面に残るもう一つの頭は咆哮。波動は、その矢を弾くために向けられた。


「つがええ――――シャア!!」


――――キイイン――――バシュン―――


 あたいが放った矢は、右で咆哮する牛頭に命中。それは一つを潰した。

 周を掴んだまま急旋回、一旦距離をおく。

 暴れるように悶える化け物。憤怒したようにこっちに突撃してきやがった。でもおせぇ!!


「つかまれぇぇ!!」


 身体を垂直にして急上昇。切り裂く風がぬるいなぁ、全然涼しくねぇ。同時に視界は光の点滅、他の射手達からの援護射撃かい?


――――バシュンバシュン!!


「よし、なんとか避けたなぁ」

「大丈夫ですか! 周さん!!」

「ああ…君の手は美しい………」

「へ?」


 こんな時にかい。まぁいいか、それにしても……紗雪の使い魔が逃げてくね、間に合うかい……それより。

 海面に近づき、先程の射をしたであろう馬に乗っている射手のもとへ。すると金髪のお嬢ちゃんも気がついたようだ。言葉が聞こえてる程度の距離まで近づいた。


「やるじゃん。金髪のお嬢ちゃん」

「神楽の射手様ですわね? そちらの射手守の方に、救われましたの」

「そうかい。アイツ化神とやれるかい?」

「あたりまえですわ。奴の弱点は矢を弾く咆哮中。間違いありませんわ」


 へえ、少しは戦える射手がいたねぇ。託してみるかい、金髪ドリル頭のお嬢ちゃんに。


「あたいが隙を作る。右、左、前の順だ」

「わかりましたわ―――せぇや!!」


 二手に別れるように散ると、空へと飛翔した。弓を構え、矢をつがえる。


「弥生さん。この戦いが終わったら、僕と麗しい時間を過ごしませんか?」

「えぇ!? こんなときにぃ!?」

「はっはっは! あたいからも頼むよ。ま、そんときゃあたいも同席するさぁ!」


 徐々に近付いていく、醜い咆哮へ。生ぬるい風が、肌に触れている。でも、希望がみえたね。


「いくよ! 周!!」

「わかったよ、静香!」

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