第20話
晩御飯を食べ終えて、シャワーを浴びたあと、藁の上にポフンと乗っかります。う〜ん、身体を沈めると温かいです。
隣をむくと、羽を手入れしている紗雪ハトさん。
「あの、紗雪さん。ちょっと質問なんですけど……」
「なに?」
「紗雪さんは、どうして退魔の射手になったんでしょうか?」
ピタッと毛づくろいをやめて、広げていた翼をたたんだ。じっと見られてます……聞いちゃ駄目だったのかな?
「どうしてそんな事を聞くの?」
「それは―――」
さっき姉御肌のハトさんと会話した事を伝えました。どうやって神社に就職したのか、それは私と同じように神様に誘われたのか。
「私もあなたと同じように呼ばれたわ。ミコト様にね、それだけよ」
「そうなんですか……」
「そもそも、結界が張ってある敷地内に入ってくる人は見たことないわ。あり得ないって思うかもしれないけど、それが事実なの。だからセンスみたいなのがあるみたいよ」
やはり神様の張ってある結界って、不思議な力なんだな~。弓道が好きな人が、射手になる条件っぽいのは分かりました。
「じゃあ、射手守になる人も呼ばれてくるんでしょうか? その、亮介さんとか」
「いや、違うわ。詳しい事は知らないけど、射手守の人は中間世界から来た人だから」
「ええ!?」
背筋がピンと伸びたような気持ちになりました。中間世界からって……じゃ一度死んだ人が蘇ってきたって事?
じゃあ亮介さんは、なんでゆり子さんと夫婦なの??
紗雪ハトさんは首を横に振ると、目を閉じた。
「射手守の人は普通の人間と同じ、私はそう思う。ただ違うのは―――」
退魔の射手になるためには、念を浄化する力を持つため、使い魔との絆が必要なんだそうです。射手守の人は使い魔との絆がなくても、最初から念を裂く武器を持っているし、身体能力も並外れているそうです。
そのせいか、射手守の人が使い魔を連れている姿は見た事がないそうです。
「射手守は、退魔の射手として経験豊富な凄腕、
「それって……」
「そう。つまり少数の射手にしか射手守はつかない。もちろん助けてはくれるけど、優先順位は契りを交わした女性。………私が知ってるのはそれくらい」
紗雪ハトさんは目をあけると、再び毛づくろいを始めました。
私はその時、頭の中がグルグルしていて……。もし射手守が人間じゃないとしたら、子供とか作れるのかな??
「うーん。うーん」
「考えても答えは出ないわ、聞いても何十年もまえの事は覚えてないって言うし。それに記憶がないみたい」
「え、記憶がない? 亮介さんがですか?」
「ええそうよ。それに私があの神社に誘われたとき、もうすでに神谷さん達は夫婦だったしね。ゆり子さんも秘密って言うし」
紗雪ハトさんが呼ばれていた時には、もう夫婦でいたんだ。はるか昔……え?
でもそれだと――ゆり子さんは、お婆ちゃん?
「じゃあ、みんな何歳なんでしょうか?」
私のほうを見て、紗雪ハトさんはため息をついた。
そんな事聞く? と言わんばかりの表情であります。
「私は吉備の神社に呼ばれて3年がたった。不思議な事に、私の容姿が老けたって感じはないわ。まるで、時間が停まったかのようにね」
「え……え?」
「だから時々思うの。もう、人間じゃないのかもって」
もう人間じゃない? 時間が……だから現世の世界が懐かしく感じたんだ。
うーん、そっか。どうりで髪が伸びないな~って思ってたのは、そうなんだ。
もう昔の生活に戻れない……でも逆にそれは、若いままずっと過ごせるって事なんだ。うんうん、それは素晴らしいであります。
紗雪ハトさんはこっちを見て、首を傾げました。なんだか不思議な様子で。
「なんでそんなに嬉しそうなの? もう、人間じゃないかもしれないのに」
「その〜。私は歳をとらないってのが、いいな~って思うんです。ほら、ずっと若いままって事じゃないですかぁ!!」
「そう……ふふ。羨ましいわ、その思考がね」
その言葉に、紗雪ハトさんは笑ってくれた。ファーストスマイルだ! ハトの姿だけど、嬉しいです!!
「そうね、そういう考え方もあるのね。少しだけ見直したわ、その明るい考え方」
「あはは。ありがとうございます!」
「さ、もう寝るわよ。明日は朝ご飯を食べたら、すぐに出発するわ」
「わかりました、おやすみなさい」
「ええ、おやすみ」
紗雪ハトさんは藁にズボっと埋まり、頭だけ出して目を閉じました。可愛いハトさん。
私も同じように埋もれると、静かに目を閉じた。藁の温もりを感じながら、過去の事を考えながら。
おやすみ――――なさい―――。
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