第12話
飛んでいった矢が、的の手前にまた刺さった。うぅ……。
天気はいいけど、私の心は今日も雨って感じです。
私の袴と
今ではもう28メートルの距離で稽古してます。これは射場から的場までの距離で、これが正式な距離なんだって。
それは嬉しいんだけど……全然的に当たりません。
―――カシュ―――――バスッ。
(うぅ……また芝生上に刺さって的まで届かない…なんでぇ〜??)
視線を前にむけると、黒い袴姿で弓を引く紗雪さん。
結んだ紺色の髪が振れ、顔を的にむけた。
左斜め前に構えた弓を打起して、引分け。反り返っていく和弓。
会になってから数秒後――――離れ。
―――カシュンッ――――パァンッ!!
静かな空間に鳴り響く、
私よりも飛んでいく矢の速度が速いし、射形もカッコいいです!
(紗雪さん上手だな〜……なにが違うんだろ??)
紗雪さんは弓を倒し、両拳を腰に添えた。引き終えたみたいです。
射場の弓立てに弓を戻して、座って右手の弽を外しはじめました。
私の視線に気がついたのか、顔をしかめた。そんな表情も、美人でクールです。
「なに?」
「いや……その、上手いな~って……」
「その言葉、昨日も聞いたわ。矢取りいくから、戻ってくるまで引かないで」
「………はい」
畳に射ってた練習から、的場にある的を狙う練習になって、私はまだ一本も当たってません。
ゆり子さんは再び中間世界に行ったし、この距離での稽古になってからは「しばらく自分1人で稽古しててね」って言うし。
紗雪さんに聞いても、あまり教えてくれません、なんでぇぇ??
クールな先輩が矢取りに行ってる間、私も弓立てに弓を置いた。ちょっと休憩しよう。
「弓……弓が違うのかな?」
隣にいくつか並べてある、弦が張っていない弓の一部に、番号が書いたシールが貼ってあった。
考えたことなかったけど、この番号でなにか違うのかな〜。紗雪さんの弓をチラっと見ると16だ。
(同じ番号なら、同じになるかな?)
私は座ってかけを外すと、座布団の上に置いた。同じ16と書かれたシールが貼ってある弓を手にとると、弦を張ってみる。
いつものやり方で弓をしならせるため、左手をグッと押したときだった。
「お、おもぉ!? え?」
弓があまりしならず、弦の輪がはめれなかった。再チャレンジしてみるけど………ぐぬぬ。なんとか張れた。
(重かった……これ、引けるのかな?)
試しに素手で弦を引っ張ってみる。
重い……腕が、プルプル震えて―――。
「なにしてるの?」
「ふぁい!?」
突然の声にビックリして、思わず手を離した。バシンッとビンタされたような痛み。勢いよく弦が戻って、顔面をダイレクトアタック! 超痛い。
「や、矢取りありがとうございます」
「ええ」
矢取りから戻ってきた紗雪さんにお礼を言って、右頬を抑える。ヒリヒリします。
矢立箱に矢を戻しながら、紗雪さんは何事もなかったかのように座ると、こっちをじっと見た。
なんだろうこの視線。なんかめっちゃ聞いてオーラが………。
「紗雪さんあの……この弓めっちゃ重たいんですけど。どうしてですか?」
「やっと気がついたみたいね」
「へ?」
紗雪さんは立ち上がると、こっちにきて並べてある弓からなにかを探しはじめた。
やがて一本の弓をとると、それに弦を張った。右手をモシモシするみたいな形にして、弦と弓の間隔を測りはじめた。
親指と小指だけピンと伸ばして、なんかちょっと意外かも。
「弓にはそれぞれ反り返る強さがあるの。だからこれで引いてみて、説明はあと」
「はい!」
私は座って弽をつけます。まずは下がけ、白い布をはめて、次に茶色いかけをハメます。
親指の上に人差し指と中指を添えたまま、紫色の帯びをクルクル巻いていく。装着完了!
「ありがとうございます」
「ええ」
立ったまま待っている沙雪さんから弓を受けとると、矢立て箱から矢を一本取り出し、射場にある札を目安に立ちます。
「そこ、本座よ。射位は前でしょ?」
「あ、そうですね……」
なんか緊張してるのかな……射場にある射位って書かれた札の位置へ移動。この札が的から28メートルの位置にある目印です。
弓に矢をつがえたら、弽の親指にある溝に弦を引っ掛ける。人差し指と中指をくっつけて、弦を挟むように握ります。
弓構え―――。え? なんか重い。
そのまま打起し、引分け――。
(重い。弦を引っ張るのに、いつもより力がいる。でもなんとか引けるって感じ)
矢を右頰に添えて―――会。的を狙う。
離れ―――カシュ―――ポス。
私が放った矢は、的の横にある安土に刺さりました。
「あ、届いた」
それに、矢の速度が少し速くなりました。
持っていた弓の番号を見ると、13と書いたシールが貼ってある。私が以前引いてた弓は11だった。つまり―――。
「そう。弦を引くのが重く感じたでしょ? それが弓の強さの違い。弓が反り返る強さの違い」
「あ、ありがとうございます!!」
そうか、そうなんだ。この番号が大きくなれば、より飛びやすくなるんだ……。
紗雪さんは頷くと、弽が置いてある場所に向かった。ゆっくりと正座をして、そしてこう言った。
「いきなり強い弓は引けない。徐々に筋力をつけて、そこから段階的に弓を強くする。いい?」
「はい。紗雪さん、ありがとうございます!!」
「的に当てる技術は自分で考えて。人から教えられた知識よりも、悩み考えた技術のほうが身につく。だから最初から答えは教えない。ただ―――」
その時、フッと笑った気がしたんだ。
「ヒントはあげる。だから技術は見て盗んで。あの中間世界で生きていくには、そう言った心構えが大事だから」
紗雪さん、やっぱり弓が好きなんだなって、そう思った。
いつもはクールだけど、弓を語る時の沙雪さんの表情。
「楽しそうです!」
「なにが?」
「紗雪さんの表情です。やっぱり弓が好きなんだなって、伝わってきました!」
紗雪さんはため息をつくと、弽をつけ始めた。やがて弓を持ち、矢立箱から矢を取り出す。
「今日の矢取りは、あとは全部あなたがやって」
「はい! って、ええ!?」
*
空が薄暗くなってきたところで練習は終わり。今日の稽古は大収穫です!
何本か的に矢が当たって、それが凄い嬉しくて。もっともっと練習したいなって気持ちです!
紗雪さんが射場にモップがけをしている間、私が的場の手入れをするため、安土に散水しているときだった。ミコト様がピョコんと現われて、緑の芝生上に座った。私のほうを見て、白い尻尾をパタンと振る。
「弥生や、明日は中間世界じゃ。お主にやってもらいたい仕事がある。よいな」
その言葉を聞いて、胸がバクバクと音をたてた。ついに……いくんだ。
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