第7話 新たな能力“ジャッジメント”

早速“ハヤブサ”の台を回し始めた秋。

しかし、ここである事に気づく。


『ディス、この台全然球が入らないんだけど...』


もしかして釘に細工がされているのか?

しかし、見た感じはヘソの釘も風車も、現世のパチ屋よりは非常に良い感じとは思われる。


『それはあくまで練習台じゃ。スタートに多く球を入れる事、魂の消費を調整する事が必要な訳で、球が入れやすい台なんて練習にならんじゃろ。儂が台に、ちと※細工をした。


※本来はパチンコ台への細工等は法律で禁止されています...。異世界なので大目に見て下さい。


ある程度の念が無ければヘソに球が入らない様にしておる。球が入らないと言う事は、今の秋の打ち方が悪いという事じゃな。


補足すると、魂の消費はしないが、魂の消費に見合った体力が削られる。

今は余裕じゃろうが、200回転近くになるととてつもない疲労に襲われるじゃろう。


消費を抑える為には、ヘソに入れた際の魂の大きさを小さくするのじゃ。これは、入れる瞬間に秋の念を球に集中させて、余計な魂の大きさを抑える。これは、かなりの集中力が必要になる。雑念を捨て一つ一つの球に、研ぎ澄まされた秋の念を込めるのじゃ。』





ディスのその言葉に、秋は気づいた。





今までの自分の台への接し方は怠惰そのものだったと。

ただ、当たりを引く為の屍になっていた。

本当に大切なのは、一つ一つの球に対しての愛情であり、労りだったのだ。

球は物であるが、物ではない。少なくともこの世界では自分自身だから。







秋は自分の魂の怠惰さをここで断つ。




『ここで大切な事がわかったよ、ディス。

球は自分自身だ。自分自身を大切に出来ない奴に、魂の消費は抑えられる訳がねえ。

俺は前世で自分自身を怠惰にした。自分に見切りを付けて傷つけてたんだ。



だけど、ここでもう断ち切る!』



その言葉にディスは目を丸くした後、ニヤリと笑った。



『ほぅ、それに気づくとはさすが秋。儂に勝った男なだけあるよのう。


さぁ、秋!その答えを得たのであれば、

後は球にお前の愛を打ち込むのじゃ!!』




『おうよ!俺はもっと強くなる!!

前世の俺を超えるんだ!!』



秋はハンドルに念を込めた。そして打ち出される球、一球一球に感謝の言葉を投げかける。


『ありがとう、俺。俺は俺自身をもっと信じて強くなる!だからお願いだ!俺の気持ちに応えてくれ...!!』




すると先ほどまでは殆どヘソに入らなかった球が、秋の気持ちに応えるように入っていった。



秋はその様子を見て、心が満たされる思いだった。球が入った事もそうだが、自分自身のキャパシティが広がった事も嬉しかったのだ。



『秋、お前はもう前世の自分を超えておるぞ。

後はどこまで自分の限界を越えられるかじゃ...。』





秋は順調にヘソに球を入れていき、回転数も順調に重ねていく。



しかし...







『だあぁー!!やばい、疲れた!

なんだこのランニングでかっ飛ばしすぎて、胃痙攣起こしてるみたいな感覚はよ...。』




『これが魂の消費の代わりじゃよ。相当きついじゃろうなあ。今の回転数で300回転。

魂の消費を抑えて球は打てておるから上出来じゃ。だが、大当たりがまた来ておらん...。

お前の能力も発現していないのが気になる。

今日の大当たり目標は100回じゃよ、忘れてはおらんよな...?』



『わかってるつぅーの!!

ああ、球は入るのに、激アツ演出絡まない赤保留は外すわ、激アツ演出来ても保留がノーマルで当たりに繋がらねえし、現世と一緒の演習過ぎて辛すぎるわ...。』



秋は、なぜ“エストライセプス”が発現しないのかが気がかりだった。


球の入れ方はもう自信を持って出来る。より研鑽していくつもりだ。



ディスはそんな秋を不憫に思いアドバイスをした。


『うーん、儂自身も能力発動を自由自在にするのにはかなりの時間を要したのぉ。

けと、能力を発現するにはこれだけは大事な事がある。それは“能力で得た成果を元に何を成し遂げたいのか”を明確にする事じゃな。


能力もまた自分自身の中にある。秋がこの能力で一体どうなりたいのか、何をしたいのかを強く願わないといけないのかも知れないのぉ。まあ、魂の消費を抑える事に集中しておったから、“エストライセプス”の発現が念頭から落ちておったのかもな。

秋、今はもう魂の消費は十分抑えられておる。今度は“エストライセプス”で、秋はどうなりたいのかを強く願うのじゃ。そうすれば自ずと能力自体もそれに応えてくれるはずじゃ。大丈夫、この世界はもうお前に手を差し伸べておる。』




ディスのそのアドバイスに、秋は今の自分が成し遂げたい事を思い出した。


『俺は、この世界のラスボスを倒して...



来世は養分から卒業するんだー!!!



良い会社に入って、パワハラ上司ぶっ飛ばせるくらいの地位に就いて、綺麗な女抱きまくって、家族にこれでもかってくらい贅沢な思いをさせて挙げられる...


この世界で一番良い男になるんだよー!!!!』



すると、叫んだ事に呼応して秋の体が光り始めた。


『んだよ...眩しいっ!』


秋はその光の強さに目を窄める。

すると、“エストライセプス”発現時に聞こえた声がまた秋に語りかけてくる。



『こんにちわ。流石だね君。

君の願いは凄く人間味というか、欲に塗れてて、煩悩の塊って感じだよね。

だけど、僕は凄く好きなんだ。だってこの能力は煩悩が強ければ強いほど、連鎖反応を起こして能力も強くなるからね。



“エストライセプス”は今から使えるよ、でもね、僕は君が望むのであればもう一つ能力をあげる。それは“ジャッジメント”。


これは大当り終了後にST(確変)か時短の振り分け時に使える能力。


その能力を使えばST(確変)は濃厚だ。

さらに、連チャンも1/319であれば20連、

1/199であれば50連まで確約してくれる、

それはもう素晴らしい能力だよ。



ただ、“ジャッジメント”を使うには願いの強さはもちろん、根本的な運の良さも関わるから、“エストライセプス”と同じように発現のタイミングは不定期だ。だけど、君なら研鑽を積んでいくだろうから、タイミングも自ずと操れるようになるよ。


頑張ってね。僕は君を応援してるからね。』






その言葉を最後に、また光の中の声は消えていった。


続く

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