多重地球

コンパスで円を一つ描く。

次に、中心を一ミリだけずらして同じ大きさの円を描く。線の色は薄めに。


右に左に、上に下に、ちょっとずつずらして円をいくつも描けば、最初に描いた円が震えているように見えるだろうか。


そんなふうに輪郭のぼやけた地球が夢に出てきた。


ひとつひとつの地球は似ているけれど違う地球で、今はだいぶ重なっているけれど、しだいに離れて、これから辿る歴史もそれぞれ隔たっていくという。巻物に書かれた年表は、分岐していく歴史を記していた。


「さあ、どの地球に住みたい?」


と、後ろから誰かに質問された気がした。


これはただの夢の話で、べつにこれが真実だとかなんだとか言うつもりはまったくない。未来を記した年表も、どんな出来事が書かれていたのか一つも覚えていない。


「なんだ、選べるんだ」


と、気持ちが軽くなったと、それだけの話。


誰も彼もが好きなことだけやって生きて、それでうまく社会がまわっている世界に住めたら最高だなと、そう思ったっていう話。

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月の背中で太陽が笑ってる(随筆) 晴見 紘衣 @ha-rumi

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