私があげた毒杯と、もらった嘘について

貧しい移民の子として育ったナーゼルは、事件を起こして死刑囚になった。
これはナーゼルとの日々を綴った、刑務官リシャルトの手記。

寡黙なナーゼルはリシャルトに心を開き、日々の対話にも饒舌に応じるようになっていた。
凶悪な殺人犯とは思えないほど、健やかな心身を持っているように見えるナーゼル。彼が殺したのは、彼にとって恩人とも言える存在。裁判では認められなかった、「恩人の罪」をナーゼルはリシャルトに語る。

ナーゼルとの交流を通して、抱き続けてきた疑問と葛藤がリシャルトの胸に去来する。すべては仕方がないことなのか、それとも間違っているのか。

そしてついに、免れることのできない「その日」がやって来る。

「五分後には、おれはもういない。この世のどこにも。あんたの目の中からも。あんたはおれが最後におぼえた人間だ」