第2話 自慢の母です

「素敵なお母さんですね」

 そう言われて僕は一目散に車道へ駆け出した。


 六歳の秋、父母が死んだ。実感が湧かなかった所為か涙は出なかった。

 それから母方の祖父母が代役をしてくれた。悪くはなかった。

「丈夫に育つんだよ」そう言われて頭を撫でられたことを覚えている。

 二十の春、その祖父母が死んだ。散々泣いた。けど涙は枯れなかった。


「素敵なお母さんですね」

 そう言われて、僕は何か証明したくて、違う? 理由は兎も角一目散に車道へ駆け出した。そしてバスに撥ねられた。

 けど無事だった。丈夫に育ったよ。母さん。

 そして僕は血みどろになりながら、唖然とする大衆を横目に青年の方へ歩いていき

「ええ、自慢の母です」

 そう笑顔で答えた。

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口十短編集 口十 @nonbiri_tei

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