第16話 役人との面談




 朝食にしては豪華すぎる食事を済ませ、ビンデは大きなゲップをした。


「失礼……しかし、バランスが悪すぎるよ。昨日は何も食べさせないで、今朝はこんなに豪華な朝食って。旨かったけど」


 空になったテーブル上のお皿を見回した。


「昨日のお詫びとして、用意させていただきました」


 アルフレドはテーブルの横に立っている。


「ありがたいけどさ、大げさにしなくてもいいのよ、普通で。どちらかと言うと小食なんだから、うちは。朝食はいつも、一切れのパンに一品の料理。あと美味しいコーヒーがあれば文句は言わないから」


「かしこまりました」


 アルフレドは相変わらず微笑を崩さない。


「あとは……そうそう、夜はラク酒だ。ラク酒があれば、文句はない。そう言えば、昨晩は久しぶりにラク酒を飲まずに寝たな。そう考えると損した気分になる」


「毎晩、飲み過ぎなんだ。ここにいる時くらい、控えなよぉ」


 セッツが食後のコーヒーを啜りながら、ビンデを見た。


「それより、今晩は会えるだろうね、国王様に?」


 ビンデは話題を変えた。


「最終確認はこののち行いますが、まず今宵で間違いありません」


「まだ決まってないの?もういい加減してほしいよ。なんか、捕らえられているみたいで肩が凝る。別に批判じゃないよ、こういう扱いが合わないだけだから」


「申し訳ございません。何しろ、殿下は多忙でして……」


「多忙?……まあいいけど、あんまり待たせると帰っちゃうよ」


「帰らないようにお願いします、もう少々お待ちください」


 今朝のアルフレドは、やけに素直で気持ちが悪いとビンデは思った。


「夜までは暇だから、宮殿内を回っていいかな?」


「構いません。王の間以外はどこでも通れるように通行証を用意しましょう」


「あたしゃいいよ」


 セッツが間髪入れずに言った。


「どこかに本は置いてありますか?」


 ヤーニャが聞いた。


「二階の奥の部屋に、誰でも入れる書庫がございます。では、通行証を二枚ご用意いたします」


 アルフレドはそう言って、出て行った。


「今朝はやけに従順だな。気持ち悪い」


 アルフレドがいなくなるとビンデがつぶやいた。


「そう思うときは気をつけた方がいいよ。あんた魔法は使ってないだろうね?」


 口をナプキンで拭きながら、セッツが小声で囁いた。


「……う、うん。まあ」


「敵の懐の中にいるんだ。用心に越したことはないよ」


「そうだな」


 ビンデは殊勝に頷いた。



  *        *        *



 十時になり接見審査室の前へ行くと、すでに大勢の市民が一列に並んでいた。


「……」


 リターは一瞬、固まり、次に大きく長いため息を付いた。そして、肩を落とし最後尾に並ぶことにした。


 そこから一時間、多くの市民や、芸人が部屋に入っていき、出て行くときはほとんどの者が暗い顔をしている。不安を押さえつつ順番が来るのを待ち、やっと自分の番が回ってきた。


「次の方、どうぞ」


 入口に立つ案内に促されて中に入ると、大きな机を前に座る役人がジロリとリタ―を見た。


「そこへかけて」


 役人の前に小さな椅子が置いてあり、役人に促され、リターはおずおずと着席した。


「よろしくお願いします」


「国王への接見の理由は?」


 役人が早速、聞いてきた。


「はい。私はオーブンから来たラク酒の製造に関わる者です。決められたラク酒と運送に掛かる税金について、国王様に、なんとか増税の取りやめの願いを致したく、接見を申し出にきました」


「それがどういう事なのは、分かっているのか?」


 鋭い目を向け、役人は聞いた。


「えっ?と言うと?」


「お前の言う通り、増税を取りやめた場合、いったい、どこからその分の税金を徴収すればいいのかと聞いておる?」


「……それは……分かりません」


 役人は椅子にふんぞり返り、フーッと息をついた。


「必ず、どこかから税金は徴収しなくてはならないんだ。そうでなくては国が正しく動いて行かない。これは分かるな?」


「……はい」


「自分の都合で税金を払いたくないと言って済めば、誰も税金を払わなくなる。これも分かるな?」


「しかし、私たちにも生活は現在、困窮しています。これ以上、増税が課せられたら、生きていくことが出来なくなります。だから、国王様には、私たちが生活できるだけの税金に抑えてもらえるように願い出たいのでございます」


 リターは椅子から立ち上がって、必死に訴えた。


「税金をどこから徴収するかは、事前に調査して徴収額は適正に課してある。それに異議を申し立てるという事は、国王様の政策に反旗を翻しているのと同義であると承知しているのか?」


「そんなぁ……私はただ、このままでは自分たちの生活が立ち行かなくなると訴えたいだけなんです。反旗とか考えたこともありません。ならば、今年だけでも、税金の免除はできませんか?去年は原材料のラクの実が悪天候のため……」


「黙れ、そんな態度で国王様に接見させる訳にはいかん。即刻立ち去れ」


 役人は立ち上がり、持っていたペンを振って出口を指した。


「最初から会わせるつもりなんてなかったでしょう?面倒くさい手続きをさせて、あれこれいちゃもん付けて、王様にはなっから会わせる気なんてないんだわ。何が目安箱よ。何が国民の意見を聞く王様よ、嘘ばっかりじゃない」


 リタ―は溜まっていたものが、一気にあふれ出るように言葉が止まらなかった。


「無礼もの。誰かぁ、この者を即刻捕らえよ」


 役人の言葉により、兵士が二人入ってきてリターを捕らえた。


「放してっ」


 リターは兵士たちに両脇を抱えられて、部屋を連れだされる。


 役人は鼻息を荒くして、それを見送るが、被っていた帽子が斜めになっていたのに気づいて直した。


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