第6話(最終話)

 聖魔法で魔物達を一掃した翌日、帝都は突如として時計台に現れた『聖女』の話題で持ち切りだった。

 そんな中、出勤早々院長に呼ばれた私は、目の前に座っている銀髪でアイスブルーの瞳を持つ見目麗しい青年に冷や汗が止まらなかった。



「へぇ、この子が噂の聖女様ねぇ」

「っ!?」



 なぜ、正体がバレてる!?

 あの時、姿隠しのローブを羽織っていたから、誰だったか分からないはず!!


 手汗が酷いまま白衣を強く握り締めた私は、恐る恐る顔を上げる。



「あっ、あの……」

「あぁ、ごめん。自己紹介がまだだったね」



 いやいや、自己紹介しなくても分かりますから!


 内心でツッコんだ私に、ソファーでくつろぐ青年は、姿勢を正すと紳士的な笑みを浮かべた。



「初めまして、聖女アリサ……いや、アリア・キャンベラ侯爵令嬢。私は、フリージア帝国の王太子、リオネル・フォン・フリージアだ」





「っ!? どっ、どうして私の名前を?」



 それも、ギルドしか知らない名前まで知っている!!


 恐怖で手も声も震わせる私を見て、リオネル殿下は優しい笑顔で答えた。



「実はね、聖女に関する情報は、日夜世界中で共有されるんだ」

「えっ!?」



 そんなこと、ゲームでも語られなかった設定じゃない!



「だから、君が無実の罪でチューリップ王国から国外追放されたことも、治癒師として我が国に来たことくらい知っているんだよ」

「そこまでご存じだったのですね」

「当然だよ。だって君は、世界に数少ない聖女なのだから」

「そっ、そうでしたか……」



 思わぬ事実を聞かされ驚いた私だったが、殿下を見てふと疑問に思った。



「でしたら、どうしてわざわざこちらに来られたのでしょうか?」



 そうだ、私がこの国にいると知っているのならば、騎士に命じて私を城に連れ来させれば良かったはず。



「コラっ、アリサ! 殿下に対して、なんて失礼な……」

「構わないよ」



 院長の言葉を遮ったリオネル殿下は、そのまま引き攣り顔の私に視線を戻した。



「君が疑問に思うのも無理はない。僕としても、君が治癒師としてこの国に住むのなら、それで良いと思っていた。けどね、そう言っていられない事態が起きてしまったんだよ」

「えっ?」



 一体、何が起きたというの?



「あの、もしよろしければ、聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」

「もちろんさ。むしろ、聖女である君にどうしても聞いて欲しいからこうして来たんだ」



 紳士的な笑みを浮かべていたリオネル殿下が、突然その笑みを潜めた。



「実は、君の祖国にいる聖女様が、『私のハーレムに入れば、国に巨大な聖魔法の結界を張ってあげる♪』なんて理解不能なことを全世界の王族や皇族達に対して言ったんだよ」

「はい!?」



 何考えているのよ、あのビッチ!

 聖女になってヒーロー達と逆ハー作ったんだから、それで満足しなさいよ!


 調子に乗ったビッチの発言に怒りを覚えていると、真面目な顔をしていたリオネル殿下が心底呆れたため息をつくと、背もたれに体を預けた。



「でも僕は、国のためとはいえ、あの娼婦のような聖女の仲間になるのは嫌なんだよ」

「娼婦……」



 まぁ、間違ってはいないけど。


 辛辣な言葉に苦笑いを浮かべた時、殿下の目に光が灯った。



「そんな時にスタンピードで見せた君の力! 君自身、帝都を救うために使ったのかもしれないけど、僕にとっては正に、天に遣わされた聖女の光そのものだったよ!」

「はっ、はぁ……」



 正直、嫌な予感しかしない。


 王子様スマイルのリオネル殿下がソファーから立ち上がると、私の傍に来て跪いた。



「リッ、リオネル殿……」

「だからさ、僕のためにこの国の聖女になってくれないかな?」

「はいっ!?!?」



 リオネル殿下の突然の申し出に、この時の私は言葉を失うしか無かった。


 そして、この申し出をきっかけに、リオネル様やその側近の皆様と共に復活した魔王を倒すことになるとは想像もしなかった。

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悪役令嬢が救った世界でヒロインに転生していた私は、国外追放されたので隣国の危機を『聖女』の力で救います 温故知新 @wenold-wisdomnew

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