人生を変える邂逅

ナナシリア

人生を変える邂逅

 とある大きなショッピングモールの片隅、小さな本屋の文庫本コーナーに置いてある本を眺めていた。


 次々とタイトルだけで小説を判断していると、一つの小説が流し読みしていた俺の目に留まった。


 中身をぺらぺらと確認して、少なくともつまらない作品とかではないという判断を下し、俺はその小説をレジへと運んだ。




 なん十分もの時間をかけてショッピングモールから自転車で家に帰る。


 わざわざこんなに遠くまで自転車で来ようと思ったのは、せっかくの休日だったから時間を贅沢に使おうという思いからだった。


「じゃあ、あれ読むか」


 ぺら、ぺらと定期的にページをめくる音だけが静かな室内に響き渡る。


 休日の夕方の暖かな光が、カーテンを開いた窓から差し込み俺の身体を温める。


 そして何より、手に持ってぺらぺらとめくった本から伝わってくる熱々の興奮が、世界の他の情報を薄める。


 まるで自分だけを見ろと言っているかのようで、眩しくてたまらない、一言でいうなら神作。


 読み終わったころには、すっかり作者様の他の作品が気になっていた。


 末尾のページにある宣伝すらも、暗記しそうなほどに読み込む。


 その中にある、『コラボ小説』という字を俺はまじまじと見つめた。


「……気になる」


 その作品は、どうやら俺が今買って読んだ作品とジャンルが近い、青春もののようだった。


 今日はもう遅いので、その作品は来週の休みに買いに行くことにして、まずはその小説とコラボしているらしい楽曲を聴いてみることにした。


 小説に書いてある文字を一文字一文字確認しながら丁寧に入力し、表示されたサイトを開き、再生ボタンを押した。


 痛々しいほどの未熟さを嘆く声。


 諦めそうになる自分の押し壊す音。


 そして、俺が求めていたようなあまりにも青い青春。


 それらすべて、歌詞を構成するすべての要素が俺の心に手を付け、一気に押した。


 あまりの感動に、その曲の投稿者のアイコンをクリックする。


 幻想的ともいえるサムネイルたちが表示され、『3週間前』『1カ月前』『1カ月前』と等間隔で表示された文字が見える。


 何から聴こうか、考えると同時に、最新の、『3週間前』と表記された動画のサムネイルをクリックした。


 三分半後、次の曲を――




「……書ける」


 俺は新しいブラウザを開き、カクヨムを立ち上げる。


 何カ月ぶりだろうか、と頭の片隅で思うが、その考えと裏腹に、カーソルを動かす手は動き続ける。


 迷いなく『ワークスペース』をクリックし、『新規作成』から『新しい小説を作成』を選択する。


 文字を打ち込む俺の手の動きは、それから二時間ほどの間は止まることを知らなかった。


 それから、俺の小説の作風は明らかに変わった。


 長編の連載作品がほとんどだった小説の欄に、ショートショートのタグをつけられた短編たちが立ち並ぶ。


 タイトルも青春真っ只中かのようなものばかり。


 そして俺は今日もまた、公開ボタンをクリックし、今すぐ公開にカーソルを動かした。

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人生を変える邂逅 ナナシリア @nanasi20090127

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