第23話 まだ生きてる?

 さて休み時間が終わって、授業に入る。


 いつも通りの授業だ。ただ赤点を取らない程度に聞き流すだけの平和な授業。


 席替えがあったからと言って授業内容が変わるわけでもない。そう……いつも通りのはずなのだ。


 なのに……なんか変だ。全く集中できない。いや、そもそも授業に集中なんてしてないけれど……それでもいつもより他のことに気を取られてしまう。


 隣の席に好きな人がいるというのは、こんな気分なのか。


 自分の行動一つ一つに緊張してしまう。変なところはないかとか、笑われないかとか、雨霖うりんさんを傷つけないかとか……そんな事ばかり考えてしまう。


 雨霖うりんさんの動作一つ一つが気になってしまう。彼女のあくびだけで心臓が高鳴ってしまう。ちょっとした動作だけで目線が動いてしまう。


 稀に目が合って微笑まれて、それだけで顔が赤くなってしまう。


 ……これが恋か……我ながら気持ち悪いと思うが、胸の高鳴りが抑えられない。表情に出さないようにするだけで精一杯だ。恋は盲目とはよく言ったもので……


 そうこうしているうちに、昼食の時間になった。当然雨霖うりんさんと一緒に……なんてことがあるはずもない。


 僕たちはまだ他人だ。一緒員昼食なんて遠い未来の話だろう。未来にも待ち受けていない話かもしれない。


 いつものように1人で昼食を食べる。お弁当なんて用意してなくて、適当に購入した安いパンである。


 そして以外にも……雨霖うりんさんも1人で昼食を食べるようだ。雨霖うりんさんなら友達も多そうだし、誰かと一緒に食べるのだと思っていた。


 なんで1人なのだろう……聞いてみようか。いや、失礼だな。それにいきなりチャットを送るのは自意識過剰な気がする。


 結局何もできないまま、昼食を食べ終えた。雨霖うりんさんは……1人でもちゃんと「いただきます」と「ごちそうさまでした」を言うタイプだった。礼儀正しいと思った。


 さて昼食を終えて、その後の授業も問題なく終了して……放課後になった。


 それまでに気づいたことなのだけれど……雨霖うりんさんは1人でいる時間が長い。そりゃたまに友達に話しかけられてたりするけれど、ちょっとしたあいさつみたいな感じだ。


 ずっとグループの人間とベタベタしているのだと思っていたが……どうやらそんなこともないらしい。案外孤独が好きな人なのだろうか。


 そんなことを思いながら下校の準備を進めていると、雨霖うりんさんからチャットが届いた。


『今日の約束って、まだ生きてる?』


 今日の約束……一緒にゲームをして遊ぶというやつか。オンラインでパズルゲームを教える約束になっていたな。


『殺すこともできますよ』

『じゃあまだ生きてるんだ』遠回しな表現も汲み取ってくれる。『オンラインでだったよね。じゃあ、準備ができたら連絡するよ。たぶん6時くらい?』

『承知しました』


 6時なら問題ない。僕はいつも7時くらいに夕食を食べているので……まぁ大丈夫だろう。どうしても気まずくなった場合、夕食を理由に断ることもできる。


 ……ああ、暇で良かった。これで今日の僕の用事がぎゅうぎゅう詰めだったら困っているところだ。365日暇で良かった。バイトも休みで良かった。


 問題は……


 僕が雨霖うりんさんと楽しく遊べるかどうか、である。

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