ローズちゃんのゼロから始める最強無双〜薔薇の騎士が紡ぐ、闘う乙女たちの物語〜

ローズちゃん0歳。初めての実験。

　アレからローズはすぐに目が覚めた。

　部屋には誰も居ない。

　丁度良いとワクワクしながらの行動を開始する。

　さて、実践前の実験と行こうではないか。

　まずは目を閉じて寝たフリだ。

　自然体でしばし待つ。

　む。

　不覚にも思わず眠り姫となるところだった。

　流石は赤子。油断は禁物という事だ。

　ブルリと体を震って眠気を振り払う。

　部屋には変わらず私一人。誰も来る様子はない。

　部屋の外にも気配は感じない。

　良し。

　当分、邪魔は入らない。

　誰か来ても、無理に起こす事はないだろう。

　赤子は眠るのが仕事なのだから。

　目を閉じたままに、神眼を発動する。

　スーーーっと。

　魂が抜けるような感覚で、目の前の視界が開けた。

　フワフワと宙に浮いている、そんな感じだ。

　360°のパノラマ仕様で、この部屋の全てが把握出来る。

　鏡台があるから母上様の寝室だったのか。

　恐ろしいな神眼とは。死角無しだ。

　お、ベビーベッドで私が寝ているな。

　ズームアップして拡大する事も可能だ。

　むむむと眉根を寄せているコレが私か。

　頭を使っているからこんな表情なのだろう。

　ふむ。

　それにしても。

　玉のように可愛いいな。天使か。

　然もありなん。

　超絶な美貌の母上様だからな。

　王族だしな。

　脳筋だけど。

　私もだが。

　私の人格の八割は武人で構成されている。

　優しげで平和主義者のパパには似ても似つかない。

　基本的には、拳で解決してやろう、そういうスタンスである。

　兎も角。

　移動開始と行こうではないか。

　視線を真上に向けて、そのまま進む。

　グーンと屋根を突き抜けて、上空まで一っ飛びだ。

　上空百メートルというところで、ピタリと止まる。

　全方位の確認だ。

　我が故郷だ。興味津々である。

　ほう、我が家はデカくて立派だ。

　まるで砦のような造りである。

　まぁ、それ以上に目を引くのはただっ広い演習場か。

　壮観ではないか。

　チラホラと騎士が訓練をしているな。

　ふむ。

　強者は居ない。

　まぁ母上様が異常なのだろう。

　アレを見た後だとどうしても見劣りしてしまう。

　お、我が街は中々栄えている。人口五万人といったところか。

　治安も良さそうだし、皆んなが笑っている。

　平和そうで何よりである。

　戦争始まったんだけど。絶賛戦闘中なんだけど。

　まぁ国を挟んでの遠い出来事だから関係無しか。

　さて、何処へ向かおうか？

　グルリと360度見回すと、遥か彼方にデッカい森、大森林がある。

　その更に奥には暗雲が立ち込めている高い山が聳え立つ。

　竜が、まるでハエがたかるように飛んでいる、なんとも物騒な雰囲気である。

　アソコは魔境だな。

　とんでもない化け物の気配がする。

　山頂だ。

　私と同等の魔力の持ち主がそこにいるな。

　つまりは神レベルの強者という事だ。

　なんとも楽しそうだが、

　まぁいい。

　取り敢えず今はパスだ。

　今は手前の森にしよう。

　あの山はもう少し肉体が出来てからだ。

　その時は武人として。

　是非に挨拶にと伺おうではないか。

　無論、拳と拳で語ろうではないか。

　いざ出発だ。

　ビューンと空を飛ぶようにして森を目指す。

　道中、鳥が突っ込んできて体がビクッとするが。

　めげずにひたすらに目指し、到達へと至る。

　そのまま森の中へ突入した。

　探索して直ぐ、獲物を発見に至る。

　真っ黒な犬。いや、狼か。

　先人の知識を漁ると、ブラックファングという魔獣だった。

　群れで狩りをするという習性の持ち主だ。

　今は一匹で伏せをしている。

　何かを狙っているようだ。

　さて、どうしたモノかと考える。

　私はこいつを狩るつもりだった。

　ガツンと魔法をかますつもりだった。

　しかし、だ。

　ここでコイツを殺めるのは良いのだろうか？

　仕留めて食べる訳でも無い。

　ただ実験して観察し考察するだけだ。

　遠隔で魔法が使えるかどうかを確認するだけならば適当に放てば良い。

　しかし出来れば念じて直ぐに発動するのかのタイムラグや、どれくらいの威力があるのかも確認したいところだ。

　記憶の中との差異があっては加減しなければならないからな。

　万全を期して戦場に介入したいところなのだが。

　無駄に殺生するのは気がひけるな。

　うーむと悩んでいると、ソイツが動いた。

　ダッと凄い勢いで駆け出したのだ。

　狩りをするのか？

　あ。

　視線を其奴の目標へと移し、ギョッする。

　百メートル先。

　木の実を摘んでいる若い女性がいた。

　近くの村娘のようだ。

　狼に気づいた様子はない。

　呑気に鼻歌を歌っている雰囲気さえも窺える。

　例え気づいても、あのスピードでは逃げられないだろう。

　マジで狩られる五秒前、という事か。

　ほうほう。

　なるほど、なるほど。

　で、あるか。

　お前は人族の敵という事か。

　我が領民を害そうというのか？

　曲がりなりにも、次期領主である。

　それは決して許してはならぬ禁忌というもの。

　ならば情けも容赦もしなくて良ーし！

　ワッハッハッハ！

　ローズ、なんだかワクワクしてきたぞ！

　ベビーベッドの上。

　手をパチパチと叩き、きゃっきゃと笑いだしたローズちゃん０才。

　まさか、マジで殺ろうとしているとは、思えないほどの無邪気な天使の姿。

　頭の中で魔法陣を二つセットする。

　一つは雷の魔法だ。

　もう一つは転移の魔法。

『【転移】』

　転移の魔法を発動して、雷の魔法陣を飛ばす。

　良し、目の前に魔法陣が現れたのを確認した。

　目論見通りだ。

　慎重に狙いを定める。

　間違っても、村娘を巻き込むわけにはいかない。

　その村娘が殺気に気づき、振り返ったところで。

　発動となるトリガーを引いた。

『【電撃（ブリッツ）】！』

　バリバリバリバリ！

　って鳴ったと思う。

　聞こえないからわからんが。

　視界は一瞬でホワイトアウトだ。

　真っ白で何も見えやしない。

　………

　多分だが、

　凄まじい雷が狼を飲み込んだ、と思う。

　手応え的に間違いなく死んだだろう。

　それよりも心配なのは村娘だ。

　想像以上の威力だ。想定の十倍くらいの。

　まさか、巻き込んでしまったのではないかと、産まれて初めてドキドキしている。

　まだ距離があったから大丈夫だと信じたい。

　善良な領民を殺める訳にはいかない。

　一応、回復魔法と転移の魔法をセットしておく。

　お願いします。父なる神さま。

　こんな生まれて直ぐに十字架を背負いたくありません。

　神に祈りながら、審判の時を待った。

　そして、煙は晴れた。

　おお。父なる神よ、感謝します。

　胸を撫で下ろした。

　村娘は無事。

　腰を抜かして尻餅をついているが。

　失禁しているのは見なかった事にしよう。

　膝に擦り傷を負っていたので、驚かせてすまないと謝罪を込めて癒しておく。

　ふむふむと結果を確認する。　

　タイムラグは無しに、狼はチリも残っていない。

　火災は無しで、木々が軒並み消し飛ぶ威力だった。

　よし。把握した。

　後日、植林でもするとしよう。

　まぁ粗方問題無しだな。

　気が緩み、魔法を解除すると同時に私の意識は事切れていた。

　オーバーヒートしたのだろう。

　さて、起きたら参戦といくか。

　どでかいのをお見舞いしてやるぞ。

　悪魔どもの慌てふためく様が楽しみである。

　頼むぞ。死んでいてくれるなよ。勇者ジークハルトよ。