ローズちゃんのゼロから始める最強無双〜薔薇の騎士が紡ぐ、闘う乙女たちの物語〜

ローズちゃん。生後６０分経過。

「あ〜う〜あ〜あ〜」

　うむ。

　喋れないな。全然だ。

　まあそれもそうだろう。

　産まれたばかりだ。

　生後６０分ってところか。

　そう。そうなのだ。

　私には産まれたばかりにも関わらず自我があるのだ。

　青天の霹靂か。

　しかし確たる事実。

　言葉も理解できる。喋れはしないが。

　それというのも、私は産まれた直後に死んでいたらしい。

　心臓が止まってしまったようだ。

　元々弱かったらしい、心臓だけが。

　他はびっくりするくらいに強靭なようだが。

　それを神が癒し、その代償に使命を下された。

　人族を救済せよ、との仰せだ。

　今現在、人族が大変な窮地に陥っているようだ。

　悪魔とやらが攻め込んできているらしい。

　魔王を超える大魔王がボスらしい。

　絶滅の危機だと言われた。

　それを何とかしなければならないのだ。

　次いでに脆弱な人族の進化も促された。

　この世界では人族は多種族から搾取されている。

　対抗出来るだけの力を蓄えろとのことだ。

　責任は重大である。

　人族の命運は私一人にかかっていると言っても過言ではない。

　はっはっは、望むところよ。

　まぁ、それを成す為の叡智と魔力を授かっているが。

　チートってやつか。

　蘇生して直ぐ、数多の英雄たちの半生を経験した。

　神の魔法で時間を止めて、ダイジェスト版だ。

　そこで今の自我が形成されたのだ。

　聖女に聖騎士やら魔法使いやら剣聖に商人やらと、男女問わずに色々と活躍した名だたる英傑たちの人生だった。

　悪役令嬢なんてのも経験したな。

　アレが一番刺激的だった。

　面白かった。

　大興奮のどんでん返しというやつだ。

　上げて上げて上げて、最後に落とされたよ。

　断罪された時は悪事はいずれ返ってくるという事を悟ったよ。

　まぁ王子という奴が大嫌いになったが。

　あんな大勢の前で婚約破棄と断罪って正気の沙汰ではない。

　ちょっと意地悪しただけではないか。

　冤罪も突きつけられて、最後に追放処分ってどうなっているんだ？

　機会があれば探し出してぶん殴ってくれるわ。

　必ずだ。コレだけは譲れない。

　この正義の心に嘘はつけないのだから。

　必ずざまぁを成し遂げてみせる。

　まぁしかし。

　どうやら私は良いところの令嬢らしいから、口調は悪役令嬢でいこうと思う。

　お気に入りだしな。

　早く

「おーっほっほっほっほー」

　って、笑いたい。

　シーンとする静寂が生まれて。

　皆が唖然と此方を見る中で。

　私の高笑いだけが鳴り響くのだ。

　とっても気持ちが良さそうだ。

　考えただけでゾクゾクするぞ。

　あ、シッコだった。失礼。

　まぁ一度は死んだ身だ。

　精一杯に面白おかしく生きてみようと思う。

　それはともかく。

　飯にするか。

　腹が減っては戦は出来ぬからな。

　喋れないというのはなんとも不便なものだ。

　良し、我が演技を披露しようではないか、

　まずは表情からだ。

　真顔から、くしゃりと歪ませるイメージ。

　むむ、難しい、が、こんな感じかな。

　お、お産婆さんも唖然とする表情らしい。

　ならば正解だ。

　次だ。

　お腹に力を入れる。

　ムムムムム。

　あ、シッコ出た。

　失礼しました。赤子だから許しておくれよ。

　気を取り直して仕上げといこう。

　よーし、いくぞ。

　息を吸って〜、か〜ら〜の〜。

「ふぇぇ………ふぇぇぇ〜ん……おぎゃあ……おぎゃあ」

「はいはい、ローズちゃん、お腹が空いたんでちゅか〜」

　ふふふ。どうやら上手く伝わったようだ。

　泣くのはこれで完璧だろう。まさか演技とは思うまい。

　先程はちょっと棒読み気味のおぎゃりようだったからな。

　汚名返上だ。

　さぁさぁ母上様よ。早くお乳を献上するのだ。

「よしよし、今オッパイ出しますからね〜」

　そうそう、ぺろ〜んとさらけ出すのだ。

　思い切って、一息に。

「あらあら、満面の笑み、ご機嫌ね」

　おお！

　母上様超絶美人。

　しかもボインではないか。

　うほほほほほ。

　興奮してきた。

　思わず赤面してしまうほどの美貌にデカメロンぞ。

　男女の人生を経験しているからなのか、どちらもいけるな。

　右手に彼氏。左手に彼女か。

　ふははは。

　人生二倍楽しくなりそうだ。

「まぁまぁ、ローズちゃん、御満足かしら〜」

　きゃっきゃと無邪気にはしゃぐローズちゃん。

　母譲りのビジュアルは完璧なので、邪（よこしま）な心が読まれる事は皆無だ。

「あらまあ」

　そんなローズ百面相をガン見しているベテラン産婆さんのラニは思った。

　―――凄いな。こんなに表情をコロコロと変える産まれたての赤ん坊、初めて見たよ。コイツは大物になるよ。

　そして、泣いて直ぐに、むふぅとドヤ顔を決めるローズの理解を深める。

　―――あ、もう既に大物だったわ。こんなドヤ顔をする赤ん坊なんて何処にもいない。世界に一人だけだよ。生まれながらにしての大物という事か。

　奇しくもそれは的を得ていた。

　彼女は人族を進化させてしまうのだから。