第3話

 あと、農業指導の際の感想文も、冊子化して渡されました。


 色画用紙を表紙にして、リボンを用いて綴じてありました。


 中身はお礼の言葉から農業体験を通じて感じた事を、これでもかと原稿用紙にびっしり書き込まれており、どうやら農業に関心を持ってもらえたのだと確信いたしました。


 こう言う積み重ねこそが“食育”の醍醐味であり、食べ物がどうやって自分達の下へとやって来るのか、どうやって作っていくのかを知っていけるのです。


 当たり前のようにある食べ物が、“当たり前”である事がどれほど素晴らしい事であるのかを、知ってくれたことでしょう。


 それが文筆からにじみ出ていました。


 それと、やはり感じた事は、“漢字の少なさ”と“鉛筆で書かれている”、この二つでしょうか。


 漢字が少ないという事は、まだ学びの途上である小さな学童が必死で書いたという事の証です。


 語彙力も乏しい。


 しかし、熱意は感じます。


 鉛筆で書かれている点にも通じますが、普段の自分の文章作成はと言うと、デスクトップの前に座り、キーボードをカタカタ鳴らし、プリンターにポンッで終わりです。


 漢字変換されていないからこその漢字の少なさと、鉛筆ゆえのプリンターの不在が味を出しています。


 やはり、直筆だからこその温かみと必死さ、熱意、それが改めて感じる事が出来ました。


 そして今、完成した感想文集を読んでいます。


 物書きの一人として、いずれ自分の作品が世に出て書店に並べばいいかなと思っておりましたが、自分が題材となって劇の演目や冊子になるというのは、なんとも貴重な体験をさせていただきました。


 今回の一連の小学校との交流も、互いに触発される点が多く、引き受けてよかったと考えています。


 もちろん、自分もその一助になれればと考えていますので、機会があればいつでも再び講師を引き受けるつもりでいます。


 あと、自分をモデルにした設定になっている“謎の白ねぎ職人”ですが、ガチ有能です。


 羽生に的確な助言を与えるだけでなく、他二人の兄弟も引き込み、三人の仲を取り持つばかりか、伝説のねぎ畑の正体をも見出してしまいます。


 あれ? 自分ってこんな有能キャラだっけ?


 などと真剣に考えてしまいました。


 リスペクトし過ぎじゃないかな、これ。


 あと、劇中に登場した名前、『名月一文字』、『関羽』、『龍光』、『羽生』は全部、自分が育てている白ねぎの品種です。


 こちらもちゃんと覚えていてくれたので、嬉しい限りです。


 報酬はプライスレス。農家冥利に尽きる達成感こそ、最高の報酬です。


 一人でもいい。あの『伝説のねぎ畑』をリアルで作り出せる事を願って止みません。


 学び得た事を忘れず、白ねぎのように大きく真っ直ぐに育ってくれることを!


 一人の白ねぎ農家として、あの子供達がすくすくと成長し、白ねぎを担いで畑を駆けている様を想像すると、興奮冷めやりません。


 是非そう言う未来があって欲しいなと、想いを馳せてしまいますね。


 さあ、、若人達よ、あの白ねぎのように、天に向かって伸びていき、太陽のごとき輝きを掴んで欲しい。


 頑張れ、未来ある希望の種よ、しっかりと芽吹け!


 そして、大きくなるんだぞ!



                  ~ 終 ~

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