第2話

 自分は独り身で子供がいないので、小学校とはあまり縁のない日々を過ごしています。


 年一の地区運動会に駆り出されるくらいでしょうか。


 そんなわけで、農業体験の講師を引き受けた際は、地元小学校の校舎内に久々に入りました。


 懐かしい雰囲気だなと、30年は昔の学童時代を思い出しつつ、あれこれ農業について話しました。


 そのリスペクトとして、今回の演劇が催されるという事でしたが、まあ、楽しかったです。


 笑いを堪えるのに必死なレベルの自分へのリスペクトでした。


 演劇のタイトルは『伝説のねぎ畑』だ。


 うむ、これだけで強烈なインパクトである。


 なろうの長タイトルを見慣れている分には、この短くドンッとくるタイトルが逆に新鮮だ。


 白ねぎ農家としては、何がどう伝説であるのか、気になるところである。


 知り合いの方とワチャワチャ話していると、開演のブザーが体育館に鳴り響く。


 さて、どんな話を見せてくれるのかと、「鑑賞仕る!」と姿勢を正した。


 今回の劇を演じるのは、3年生の子供達だ。


 2クラス総勢45名。まあ、田舎の小学校ならば、こんな人数であろう。


 その45名の学童がズラッと雛壇に並び、スクリーンに映し出された畑の映像をバックに、まずは縦笛リコーダーで演奏。


 小学校に通っていた時は、良く吹いていたな縦笛リコーダー。 などと考えつつ、その音色に聞き入りました。


 体育館にはよく練習したであろうその笛の音が響いており、今後の展開の想像を膨らませるのに、程よいアクセントとなりました。


 で、演劇の内容だが、想像の斜め上を行っていた。


 以前の農業体験では、畑でのねぎ掘りや機械の説明、農業の面白さや苦労話を実体験を踏まえながら解説していた。


 演劇もそれに沿ったものを、みんなで面白おかしく解説しながら劇をするのだろうと思っていた。


 だが、さにあらず。


 とんでもない魔改造が、“良い意味”で施されていた。


 ストーリーの骨子は以下のとおりである。



                   ***



 代々白ねぎ作りに勤しむ豪農『名月一文字めいげついちもんじ家』。


 現当主がそろそろ跡取りを決めようかと考える。


 そこで3人いる子供、『関羽かんう』、『龍光たつひかり』、『羽生はにゅう』を白ねぎ作りで競わせ、一番出来の良かった者に家督と家宝である『伝説のねぎ畑』を譲る事を決めた。


 かくして、3人による白ねぎ作り対決が始まる。



                   ***



 君達さぁ、マジで面白いよ!


 よくもまあ、あの農業体験からこんなストーリーを捻り出して来たね。


 物書きの端くれとして、この想像力は素晴らしいと思う。


 小学3年生の構想力を甘く見ていましたとも。


 ちなみに、自分 (がモデルの)キャラクターは、末っ子・羽生の師匠として登場します。


 謎の白ねぎ職人にして、主人公を鍛え上げる師匠ポジです。


 関羽と龍光の失敗を見て不安になり、ねぎ作りに詳しい人を探して行きついたという感じですね。


 なお、関羽の失敗は「白ねぎの種の発芽は、暗室で行う事」という禁を破ったためです。


 これも農業体験の際に説明したのですが、白ねぎは日光が大好きな植物なのですが、発芽の際には暗くないと上手く発芽しない、という指導の内容をリスペクトしていましたね。


 一方の龍光の失敗は、「夏場の草取りは絶対に怠けない事」に反したからです。


 夏場は草の伸び方が尋常でないので、少し油断するとすぐに草に埋もれて、大きく太くなりません。最悪、栄養を吸われ過ぎて消えてなくなります。


 しかし、夏場の暑さに加え、抜いても抜いてもキリがない草の処理は、心身ともにゴリゴリ削られる思いです。


 これを成し遂げてこそ白ねぎが良く育つのですが、それをやらなかったがために、良く育たなかったというわけです。


 羽生は二人の失敗を見て、どうにかしなくてはと考え、謎の白ねぎ職人に助言を求めるというわけです。


 いや、ちゃんと話したことを聞いて、劇の設定に活かせているなと感心しました。


 その後も、白ねぎの育成に必要な“暗室での発芽”、“畝上げの必要性”、“収穫の手順”を丁寧に踏み、見事に立派な白ねぎを作り上げていく感動のストーリーでした。


 そして、スクリーンに映し出されるスタッフロールっぽいやつ。


 まあ、農業体験した際の映像を次々と映していましたが、最後の最後でやってくれました。


 そう、自分のアップ画像がデカデカとスクリーンに出てきました。


 これには自分も周囲もたまらず大爆笑。


 いやほんと、我ながらいい笑顔になっていましたよ。


 しかも、来賓席で座って観ていた自分に、舞台の上から手を振ってくる有様。


 こういうの、いいですよね。


 農業指導を請け負った甲斐があったと言うものです。

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