第2話 生真面目なメイド長

 初日に描くことになったのは、彼が雇っているメイド達のリーダーであった。短い金髪にヘッドドレスをした彼女は、衣服を脱ぐ前から激しく緊張していた。


 ユークリッド氏の注文通り、ヘッドドレスだけは外さず、絹のない姿になった彼女。

 その姿はまるで、翼を持たない戦乙女ヴァルキュリアのようだった。瘦せ型でありながら、下半身の筋肉は程よく発達した美脚を持ち、へそのまわりにも美しさを両立させながら鍛えられた筋肉を形成していた。


「お、お願い……します!」


 年齢の割に精悍な顔を、真っ赤にさせながらも、礼儀正しく大きな声を発した彼女――自分の屋敷のデッサンを描かせるとは……と言い出したい気持ちはやまやまだが、金を貰っている以上はやむを得ない。


 普段は書かない体格の女性の絵だが、そこは問題なく進んだ。

 顔に関しては悩んだが、少しばかり勇ましい表情に脚色しておいた。ついでに筋肉の描写にも手を加えることにした。

 後から聞いた話だが、彼女はフェンシングの達人であるそうだ。翼を持たない戦乙女というイメージが、ふと降りてきたのは、これのためだったのだろう。


 ユークリッド氏の注文は奇妙なものだが、これほど面倒なのは初めてだった。しかし、金を貰った以上は約束通り描かねばならないのが職業というもの。

 そんなことを考えてシャワーを浴びていたら、気がついたらさっきより平気な顔をした彼女がそこにいたのであったが、私に気づくなり勇ましい顔は赤くなった。

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