ある屋敷に雇われたヌード専門の画家の話

如月千怜【作者活動終了】

第1話 出会い

 私はこのトリスト共和国の首都、ラーホルスにてずっと画家をしている者である。

 私の博物館での役割は、ヌード画家だ。

 この仕事を花形と呼ぶべきか、汚れ仕事と呼ぶべきかは、私にはわからない。

 そんな私だが、ある金持ちの方から腕を買われて、しばしの間専属で絵を描くことになった。




 だが、この仕事を受け持って私はすぐ後悔した。普段の仕事ではありえないギャラに目がくらんだがばかりに、依頼人から感じる違和感を見逃してしまった。

 というのも、その男性ユークリッドは、私を屋敷の客間につれてくるや否や、開口一番にこう言った。


「君の腕はたしかに一流だ。モデルの女性が偏っていることを除けば」


 博物館で出会った時は、館長に遠慮して黙っていたのか、彼はいきなり褒めるふりをしながら私の絵に対する不満を言い出した。


「俺は君に、もっと絵の幅を広げてもらいたいと思ってね。それで君を雇ったんだよ」


――モデルの女性が偏っている、考えたことがない話だった。博物館に展示してもらった絵は全て、全部別々のモデルにしてもらったはず。

――意味がわかりません、素直に答えた際の返事は、驚愕のものだった。


「――展示していた絵は、どれもふくよかな子達ばかりだったろう」

「……?」

「俺はねえ、もっと痩せている子達の絵も飾りたいんだよ」


 確かにモデルの人達は、私と違って全体的に肉付きの良い女性ばかりだ。その方が喜ぶ客が多いからと館長は言っているが、この人は違ったみたいだ。


「報酬は弾むぜ。頼むよ」


――こうして私は、この偏屈な男の下、絵を書くことになった。

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