最終回 踊るアワビ

 最終回に満を持して登場するのが、アレルギー中のアレルギーエリート。

 アレルギーを調べる特異的IgE抗体検査をすれば、引っかかっていない項目がほぼないというエリートっぷりだ。

 それが奴である。本稿の旅行時のスペックがこれだ。


 ばばーん。


 ●エントリーNo.03 タル型生物


 卵、小麦、牛乳、大豆、ソバ、イクラ、サケなど一部魚類。イチゴ、りんごなどバラ科果物数種類。動物各種。ハウスダストに花粉症。



 何食って生きているのだと言われれば、コメも野菜も肉もたんとある。豊かな国で良かったと言うべきか、豊かな国ゆえの病か。


 とりあえず、この小さき生き物をタルコフスキーとでも呼ぼう。

 賢明なる読者の諸君は、ウェルシュ・コーギーでも想像してくれたまえ。コーギーの可愛さは正義、ジャスティス!




 さて、今を遡ること数年前。

 ダマリャーノ一家三人は仕事の関係で、とある日本最小県に招かれていた。ピンクのポケモンが愛嬌振り撒く、うどん県である。ぼかす気は全然ない。だって、讃岐うどん美味しい。


 その日のお泊まりは滅多にこれぬ高級温泉宿とあって、我らはテンションアップしていた。もちろん、アレルギー情報は事前に詳細に伝えた上、対応するとの回答をもらっている。


 まずは展望大浴場へGO!

 と思ったが、部屋にタル用の浴衣がない。子ども用浴衣ありとホームページに書いていたのにと、フロントに問い合わせたが、そもそも子ども用はないという。


 うん、目の前を旅館の浴衣着て歩いているお子様がいるんだけど? 

 すぐにバレる嘘をつく意味がわからない。まあ後回しでいいかと、風呂へ向かっていたら、何故か階段の片隅にどーんと小さい浴衣が積んである。どうみても放置……­。

 通りすがりの仲居さんに言ったら、一組渡してくれた。立派な旅館なのに、少々残念と思いつつ、気を取り直して風呂へと我らは向かった。



 ばばーーん!


 自慢の展望大浴場!

 高台より見晴らす絶景!

 絢爛豪華なお花!


 ……­お花?


 ええ、背中にお絵描きした方々が、何人もおられましてな。

 マナー違反ですにゃと思いつつ、さっさと忘れて温泉を堪能した。猫代さんの方にも数人いたらしく、そちら方面の方々の集いでもあったのかと。

 翌朝、もう一度風呂に行ったら、入り口を塞ぐように、お絵描き装備の方ご遠慮看板が立っていた。そりゃ苦情も来たことでしょう。



 さて、お花畑の人々の件は置いておいて、お楽しみの夕飯だ。

 アレルギーはあるが、好き嫌いは少ない我らは、山海の御馳走をご機嫌に楽しんだ。

 そこへ仲居さんがお待ちどうさま!と、誇らしげな笑顔で持ってきたのは巨大アワビ×2。思わず、後ずさるダマリャーノである。なんせ、いちご煮で作った炊き込みご飯ですら、呼吸困難を起こすのだ。


「あの、アワビは断ったはずなんですが」

「え、そうなんですか。でも新鮮ですよ」


 駄目だ。会話するだけ無駄なタイプだと、我は即時撤退を決めた。自腹なら苦情を述べるのだが、今回は招かれた身なので無駄に荒立てるわけにもいかぬ。


「食ったら、死ぬ」

「やれやれ。ワタシ、別にアワビ好きじゃないんですけどねえ」


 しかし、アワビに罪はない。

 結果、一人でデカいアワビを二個も食べる羽目になった猫代さんだ。ちゃんと断っていたはずなのに何故だと首を捻りながらも、我らはたらふく飲み食いして早々に寝た。




 翌朝、ちょっと驚く量の朝食が出てきた。和朝食とあって、基本安心である。

 それにしても、夕飯かという量である。大量の皿を前に旺盛に食事していた我らのところへ例のアワビ仲居さんが、再びあの笑みを浮かべてやってきた!

 

 もう嫌な予感しかしないぞ!! その笑顔。


「はい! お子様への特別サービスです♪」


 仲居さんの手にある湯気立つ、ほかほかの二段ホットケーキに我らは固まった。

 もう十分に食べ物は並んでいる。そして、小麦牛乳卵の合体した魅惑の物体は、タルが口に出来ないものの塊りである。

 なんで、旅館の朝ご飯にホットケーキ出てくんの?


 我らの微妙すぎる反応に、やはり首を傾げながら仲居さんが出て行ったあとで、我と猫代さんはカロリー爆弾のホットケーキを死ぬ気で食った。朝からぱっつんぱっつんである。お残しは心が痛いのだよ……­。ふわふわ系食べ物が嫌いなタルは、甘い匂いをさして気にしていなかったのが幸いだった。

 

 

 うどん県とお宿の名誉のために大きな声で言っておこう。 

 大変に美味な料理といいお湯でしたと。

 あと、うどんだけじゃなくてラーメンも名店が多い。



 しかし、アレルギー情報が完全にまるっとスルーされていたのには、恐怖すら感じた。ホテル系だと、まずもってあり得ない対応だ。


 アレルギー持ちの自衛は必須なのだが、せめてアレルギーが命や健康に関わることぐらいは学んでほしいとの願いを込めて、本編を終わりにしたい。



 それでも、温泉も海鮮料理も大好きにゃ!

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アレルギー×温泉!-別館ダマリャーノ- 沖ノキリ @okinokiri

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