第4話オッサン観察

ラージスロープ学習塾講師の石神純子と、その同僚の林久美子は千代のカウンター席に着き、ハイボールを飲んでいた。

2人共結婚願望はあるが、恋愛が苦手で男がいない。

飲み屋のカウンター席の隣にいい男が座ればいいのにと、石神は妄想する。

しばらくすると、サラリーマンが座った。

石神はドキドキしたが、2人共中年のオッサンだった。

おしぼりで顔を拭き、首周りを拭いていた。

「久美子ちゃん、隣のオッサン達、おしぼりで身体中を拭いていりよ」

「あ〜あ〜、清拭してる。やだな、オッサンって」

2人のオッサンは、生ビールと枝豆、ヤッコを注文した。

そして、2人てクスクス笑いながら話している。

「ねえ、純子ちゃん。オッサンに話しかけてみたら?」

「えっ、何で?」

「運が良けりゃ、奢ってもらえるよ」

「……分かった」

石神は隣のオッサンに声を掛けた。

「あのう、私はラージスロープ学習塾の石神と言いますが、一緒に飲みませんか?」

2人のオッサンは不意を突かれた様子で、

「お姉さん達と?。いいよ。僕ら名古屋トランスコーポレーションの森田と隣は前田君」

英語講師の久美子は驚いた。自分が入社試験受けて落ちた会社なのだ。

英語が使えないと仕事にならない。英語講師でも、落ちる程のスゴい会社なのだ。

「僕は船舶課の係長で、前田君は総務課長なの。同期でね」

「名古屋トランスコーポレーションってスゴい会社ですよね。ウワサで聴いています。私は入社試験落ちたので、塾講師を選びました」

森田は、ニヤリとして

「船舶課の事務員に欠員が出てね、人を探しているんだ。君も入社試験もう一度受けないかい?」

と、言われた久美子は考えた。

「ぜひとも、受けさせて下さい」

4人はLINEの交換をした。

「純子ちゃん、名古屋トランスコーポレーションの給料は学習塾の3倍はあるのよ。あの2人はそこの管理職だから、奢ってもらえるね」

「久美子ちゃん、必死だね」

「男より、お金よ」

「よし、石神さん、林さん、一緒に次の店に行こう。次の店は奢ってあげる。ここは、自分達の分は払ってね」

「……はい」

4人は、ハシゴした。

久美子は入社試験を受けたが、見事に落っこちた。

その代わり、フジ合同輸送株式会社を紹介されて、久美子はラージスロープ学習塾を退職して、フジ合同輸送株式会社は名古屋トランスコーポレーションの下請けだが、そこの社員となった。石神は、今でも学習塾で働いている。

4人はたまに集まり、酒を飲む仲間になった。

カウンター席に座る客に声をかけたのは、これが、最初で最後だった。

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居酒屋 羽弦トリス @September-0919

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