第3話学校の先生たち

居酒屋千代は今夜も大忙し。

今夜の予約は、6名の高校教諭の団体さん。金曜日の部活を終わらせた教諭が19時に予約を入れていた。

予約を入れたのは、坊ちゃん。

数学の教諭でこの店の常連だ。坊ちゃんは、夏目漱石の小説から生まれたあだ名だ。

他に、ヤマアラシ、マドンナ、赤シャツ、たぬき、キャサリンの5人がいる。

赤シャツは教頭で、たぬきは校長先生だ。

坊ちゃんはこのメンバーで飲むのは嫌いだった。

赤シャツ、たぬきがパワハラ、マドンナにセクハラをするのだ。

また、料理の指示が細かいのでりんはこのメンバーが来ると憂鬱になる。取り分け、赤シャツがうるさいのだ。

前回は鶏刺しの炙りにいちゃもんを付けて来た。

火が通り過ぎて食えるモノでは無い。だから、鶏刺しの値段を引いて勘定しようとした。

その時は、亭主で板長の凛の相方が説明して、全額支払う事になった。その時も、赤シャツはブツブツ言っていた。

赤シャツとたぬきは、このメンバーの嫌われ者だと知ったのは最近。

坊ちゃんはヤマアラシと2人で飲みに来た時に、凛にその話しを聴いた。

何やら赤シャツとたぬきは、教科書購入本屋の接待を受けていて、近々、その証拠を掴み、学校から追い出そうと考えているらしかったが、来年の春に坊ちゃんとヤマアラシは異動の話しになっていると言う。

19時の10分前に、団体さんが現れた。


凛はこの先生達を、奥の座敷席に案内した。

坊ちゃんは、取り敢えず生を5杯ねと凛に言って、座敷席に向かった。

「いや〜、校長先生。今夜もご馳走になります。校長先生の後輩の可愛がり方は他校でも類を見ない優しさですよ。さぁ、皆んなも校長先生に感謝しなさい」

と、赤シャツが言うと、

キャサリンが、

「何なら、ここ自腹でもいいですよ。奢って貰いたくて来た訳じゃないんですから」

と、言うと、

「久保田先生。その言葉、聞き捨てなりませんな」

「久保田先生の言う通り、我々は自分の分は払いますから。ね?小薗先生」

と、ヤマアラシが坊ちゃんに言うと、赤シャツは慌てて、

「感謝を強要したわけではないから、さっ、乾杯しますよ」

この赤シャツと言う男、完全なる校長の腰巾着であった。

今夜の料理は、まず、オバケが出てきた。

オバケとは、クジラの皮下脂肪だ。

ヤマアラシはこれが好物で、酢味噌をたっぷり付けて食べた。満面の笑み。

マドンナはオバケが苦手なので、ヤマアラシに自分の分をそのまま渡した。

続いて、ナスの揚げ浸し。

これは、全員が唸った。

生のお代わり第1号はキャサリンだった。続いてヤマアラシ、坊ちゃん。

赤シャツは、ビールを舐める様に飲んでいる。この男、酒がとても弱いのだ。たぬきは焼酎のロックに切り替えた。


マドンナは、キレイにホッケを食べていた。

ここのホッケは肉厚で、大きい。だが、1人でペロリと食べ終えた。そして、キャサリンと2人でハイボールを飲んでいた。

坊ちゃんとヤマアラシはつまらなさそうに、生を飲み続けている。

2人で少し話しては飲み、飲んでは食べての繰り返し。

たぬきが自分が若い頃の教師時代の話しをしていたが、相手するのは赤シャツだけだった。

この会は、23時にお開きになった。


数ヶ月後。

坊ちゃんとヤマアラシが2人で千代に来店した。2人はにこやかにビールを飲み、凛が近付くと、赤シャツとたぬきが教科書購入本屋の接待がバレて学校から追放された!と喜々として話していた。

その現場の盗聴に成功し、レコーダーで録音していたのが、動かぬ証拠となったらしい。

だから、春以降も坊ちゃん、ヤマアラシ、マドンナ、キャサリンは仲良く千代を利用していた。

ある日、マドンナはキャサリンから花束を渡された。

その夏、マドンナは寿退職する事になったからだ。

高校教諭も1人の人間。

好きな人は出来る。

マドンナは嬉しいのやら、寂しくなるのやらで、涙を流した。

それを見た、凛ももらい泣きした。

今でも、坊ちゃん、ヤマアラシ、キャサリンは仲のいい客としてこの店を利用している。

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