1人の冒険

「う………あああああ、」


燐の意識が戻る。曖昧な記憶の中で喉を震わして自分の身体があることを確認した。

そして、体を起こす。全身に痛みが走ったが、倒れる前よりはましだと、燐は回復薬が効いたことに安心した。

偶然だったが、燐が手に取った回復薬は『中級回復薬』だった。

それが、死にかけた燐の命を救ったのだ。


「―――ッ!トロールは!?」


燐は慌てて周囲を見渡した。急な動きに全身が悲鳴を上げるが、それに取り合う余裕も無い。小さなルームの中には何もなかった。砕かれた岩と冷たい石の床と壁だけ。

ほんのわずかな光苔が薄くルームを照らしている。

燐は神経質にルームの隅にまで目を細めて、自分一人しかいないことを確信して息を吐いた。


「とりあえずは、大丈夫か」


燐は動くようになった手で、ポーチの中に手を突っ込む。だがもう無事な瓶は無かった。どれもガラスの破片に変わり、中の溶液はポーチにしみ込んでいた。


「………仕方ないか」


燐はポーチを顔の上に持ってきて、それを絞った。ぽたぽたと滴り落ちる雫を口で受け止めて飲み込む。

少しは疲労が癒えるような感覚があった。それが本当かどうかは分からないが、燐はそういうことにしておいた。


「アリス、いるか?」


燐はアリスに問いかける。燐がアリスを見たのは、橋が最後だ。

アリスからの返答はなかった。

だが、胸元の紋章は残っており、意識を集中させればアリスとも繋がった。

だがそれも弱い。


「肉体が無くなって回復中か………」


妖精は不死の存在だ。宿主が生きている限り死ぬことは無い。だが肉体が破壊されれば、再構築までに時間がかかる。恐らく今アリスは肉体を再構築しているのだろうと、燐は推測した。


燐はバックパックを下ろして中身を見る。今日の収集品と食料と水。

日帰りの予定だったので数は無いが、燐はそれを取り出して食べ始める。

大きなけがを負い、再生した燐の肉体は栄養を欲していたのだ。


燐は生き残るための準備を始め得る。


「武器は、全部ある。回復薬はもう無い。今の居場所は、分かる」


詳しい通路は不明だが、大体の現在地は分かる。橋から遠い場所に逃げてはいないので、大体の方角に向かえば、正規ルートまでたどり着ける。


「ここは二階層だ。下に行くようなレベルの高い冒険者に会えれば、生きて戻れる………」


燐が今いるのは、二階層の西だ。中央部を両断するように走る正規ルートに向かえば、他の冒険者と会える可能性が高くなる。

救出を依頼すれば大金を取られる可能性が高いが、死ぬよりはましだと燐は判断した。


燐は時計を見る。時刻は、燐の記憶よりも2時間進んでいる。

燐は2時間の間ここで倒れていた。その間、ゴブリンやヘルドッグに襲われなかったのは奇跡と言ってもいい。

だがその幸運もいつまでもは続かない。早急に動かなければ、燐は襲われるだろう。


(アリスの復活を待つ時間はない、か)


どれぐらいの時間がかかるか分からないため、アリスは待てないと判断する。

だが、燐にはアリスの索敵なしでダンジョンを進んだ経験が無い。

角を曲がればモンスターと鉢合わせをして、戦いになる可能性もあるのだ。


燐は自身の右足を見る。

触れれば、僅かに痛みが走る。完全な治癒は出来ていない。歩く分には問題ないが、大きな動きや戦闘で負荷をかければ、動けなくなるだろう。モンスターとの戦闘は避けなければならない。


自分が一人であることを意識すると、割れ目の先のダンジョンが、急に重苦しく感じてきた。


「……行くしかない!」


燐は頭を振るい、両手で顔を挟み込むように叩いた。

気合を入れた燐は、装備を確認して出口へと向かう。


『ギイイイイイイイイいいいいいい!!』


あと一歩で出口、というところで、燐はその叫びを聞いた。

響く大音量により、燐は蹲り衝撃に耐える。


(―――ッッ。さっきのトロール………すぐそこにいるっ!)


トロールは、小さなルームを出た先の通路にいる。それが大音量の叫びから分かる。

そして燐がよくよくルームの入り口を見れば、砕こうとしたような痕跡があった。

すでに大部分の壁や床は、修復されている。ダンジョンは破壊されても一定間隔が空けば再生するのだ。

2時間経っても消せ切れない痕跡が、トロールも燐への執着を示していた。


(ルームを破壊しなかったのは、出来なかったからか?)


壁や床の石は、橋よりも頑丈に出来ている。それはダンジョンの基幹を支える構造物だからだ。トロールでも、入り口を破壊して広げることは難しかったのだろう。


そして燐はどうして自身がモンスターに襲われなかったのかを知った。

それはトロールがルーム前に存在することで、モンスターが逃げ出した結果だ。


燐は出口の隙間から、血走ったトロールの瞳を見た。


「ッッ………!」


ドンッ、と棍棒が入り口に叩きつけられる。燐はその威圧に押されて、尻もちをついた。

口からは空気を抜くような悲鳴が出る。

燐が慌ててルームの奥まで戻ると、トロールもまた、ルームの入り口から離れた。


トロールの目的を燐は悟る。

トロールは燐に二択を迫っている。

ルームの中に籠ったまま、死ぬのか、出てきて死ぬのか。


その絶望的な二択に、燐は腰を抜かしたまま頭を抱えた。

なにも選び取ることが出来ないまま、時間だけが残酷に過ぎていった。


多くの時間が過ぎた。数十分か数時間か。それを確かめる余裕すらない。


「行くしかないのか………」


燐は震える声で呟いた。

トロールがいなくなるか誰かに討伐されるのを待つという選択肢はない。

それがいつになるかも分からないし、燐の手持ちの食料も水も薬も尽きた。

時間が経てば傷を負った燐の身体は弱っていくだけだ。


燐はその現実に、ようやく思い至った。現実逃避をやめて自身がしていることは緩やかな自滅だと悟る。

生きるためには動くしかない。それが分かっていても、燐の身体は動かなかった。


恐怖に体は震えていた。


「―――ッ。クソ…………。俺はこんなところで……終われないのに。強くならないと………!」


気丈に揺れる心。意思に反してその身体は動かない。

微かな勇気はすぐに、迷宮の闇に呑まれて消えていく。

心中を占めるのは、悲観的な絶望。

出て行っても、残っても死ぬ。ならここで死んだ方が楽なんじゃないのか。そんな考えが頭をよぎる。

餓死するのは怖い。だけど、これなら―――

燐は腰に刺した『石蜻蛉』を見る。鋭い刃先は人の喉ぐらい簡単に貫ける。

刃に自身の顔が映る。恐怖に歪み、戦意を失った敗者の顔だ。


燐は愚かではない。それは時に窮地を救い、時には勝てない相手に挑む蛮勇を奪う。

頭で様々なことを考える。トロールのこと、自身のこと。

走馬灯のように今までの全てを思い返す。


だが不思議と、全ての記憶は真っ赤に染まっていた。

誕生日の思い出も、小学校での悲しい出来事も、家族で行った旅行も、全てはあの日の赤に染まっている。

両親を焼いた劫火の緋色に。


「――――――ッッ!終われるか!!こんな所で、まだ何も分かってないのにッ!?」


深紅の劫火が燐の心を焼いた。

両親を失った悲しみ、それを成した何かへの憤怒。

自分が原因だったらと思う罪悪感。

宿痾の劫火は燐の心を焼き続けた。

例え恐怖で陰っても、それが消えることは無い。

恐怖で忘れていた事実が、こらえきれずに口から零れる。


「奥に、奥に行かないと!………そうしないと、俺は……!」


燐は立ち上がった。その声は震えていた。落ち窪んだ瞳には、ただ純粋な決意があった。

体は衝動に突き動かされた。痛む足は黙り込んだ。

燐は迷いなくルームの入り口に手をかけた。

執念に突き動かされる姿は、悍ましかった。


一気に広くなった視界、映る破壊痕に佇むトロール。その巨体を揺らし、現れた得物を笑う。

燐もその瞳を見据えて、笑った。

今にも心を折りそうな恐怖を忘れるために、狂気に理性を委ねて笑った。


「ははははっ、はははははははははは!食い殺してやるよ!出来損ないがあぁあッ!」


燐は死という現実を乗り越えられるほどの覚悟を持つ者ではなかった。

だが、自分の『執念』のために命をかけられる程度には、狂っていた。


「――――勝負だ」


燐は駆けた。真正面からひねりの無い特攻を仕掛ける。


『グオオォオオッ!』

「――――!」


燐は大きく横凪に振られた棍棒を屈みながら躱す。


「―――らあああああっ!」


前に転びそうになる体を足を一歩踏み出すことで立て直し、短槍を振るう。

腹部に大きな傷を刻む。

血しぶきが舞い、トロールの表情に大きな驚愕が現れる。

トロールからすれば、棍棒に影に入り、見えなくなった燐が突如懐に現れて攻撃を喰らったのだ。


燐はトロールの視界すら読み、足元の死角をうまく活かしたのだ。


だが、燐の表情は優れない。


(硬いし、遠いんだよッ!)


燐の狙いは『魔石』だ。だが燐の武器では立ったままのトロールの胸元には届かない。

それに加えて、トロールの硬さも燐の想定外だった。


トロールの肉体は、筋肉の上に脂肪の鎧をまとっている。

その肉は、分泌される油もあり、酷く刃が立ちにくい。


(まずは、膝をつかせないと………)


燐は痛む右足から目を逸らして、思考する。


『ギイイイイイイィイイイイッ!』


頭上から拳がふり下ろされる。燐はそれをさらに懐に入り込むことで躱した。


「はははははははっ!とろいぞ、豚が!」


すでに槍を触れる間合いでない。燐は『石蜻蛉』を取り出して、膝に突き立てた。

汚い悲鳴と鮮血が噴き出す。燐は今までの恨みを晴らすように、ナイフをねじ込んだ。

だがトロールも反撃に出た。

手を振るい、膝の側にいた燐を払いのけようとする。

燐の視界は、緑の手のひらに占められた。


「――――ガッ!」


肺の空気が吐き出され、無様な叫びが漏れる。

燐は何度も地面を転がり、通路の壁に叩きつけられた。


「ああああああッ、があっ、はあッ、はははははっ、」


燐は痛みを振り払うように笑った。

真っ赤になった視界は、燐の眼球がいかれたのか、あるいは血で染まっているのか。

そんなことすら燐にはどうでもよかった。


「お互い、片足だな」


燐は足を引きずるトロールを見る。

そして再び、槍を構えて走り出した。


先ほど吹き飛ばされたことへの恐怖は無く、再び懐に潜り込もうとする。

そんな異常な生物に、トロールは恐怖を感じた。

そしてそれを振り払うように棍棒を振り上げた。

だが燐は棍棒の間合いの外で立ち止まった。


虚を突かれたトロールは一瞬動きが止まる。

燐は腕を突き出した。


「【呪い】!」


燐の手から放たれた淀んだ空気がトロールに当たり、そしてトロールに倦怠感を与えた。

燐は大きく短槍を振り払った。トロールはそれを棍棒で受けて、手に伝わる衝撃に叫びをあげた。


『gggggggッギイイイイ!』


「全ステータスダウンの魔法だよ!遅いし魔力食うから実用性はないがな!」


だが燐は、トロールを騙すことで魔法が当たるまでの時間を稼いだ。

トロールのステータスは大きく下落した。

燐を虫のように潰せるステータスは消え、その瞬間、燐は攻勢に出た。

大きく引いた腕を突き出し、棍棒と打ち合う。

石と黒鉄の穂先がぶつかり合い、大きな火花が散った。


「はああああッ!」

『ぎぎぎっギイイイイイイイイ!』


漆黒の穂先が空気を切り裂く。訓練で身に付けた刺突が、斬撃がトロールの防御を躱して肉体に斬撃を刻んでいく。

トロールも負けじと棍棒を振る。

巨大な柱が大地に突き刺さり、何度も恐ろしい破壊音を響かせた。

ひたすらに頑丈な黒鉄の短槍は、轟音を響かせる衝突に耐え、燐の命を守る。

燐は棍棒を必死で躱しながら何度も攻撃を繰り返したが、決定打はない。

トロールもまた捕えきれない燐に対し、苛立ちを募らせた。


(クソがっ!もう策は無いぞ!!)


足を潰すことで体格差による移動速度の差を潰し、何とか【呪い】を当ててステータスを低下させる。燐が考えていたのはそこまでだ。

【呪い】の効果は永続ではない。そして燐の体力の限界は、それよりも先に訪れる。


燐の攻撃はトロールの肉体を刻む。だが深手はない。

トロールの攻撃も今のところは躱しているが、何かのミス一つで終わる。

不平等な綱渡りが、延々とも思える時間続く。


(これじゃ、ダメだ)


血と汗が舞い散る。知らない内に傷を負ったのか。体を巡る熱が、痛みすら吹き飛ばしていた。

意識が研ぎ澄まされて、行き着いたのは嫌悪だ。


(どうして俺はこうも弱い)


執念の炎は燐から恐怖を奪い去った。だが燐の全てを使ってもトロールと死闘を演じることしかできない。


(強くならないと)


眼前の敵を打ち倒すために。ダンジョンを攻略するために。

父と母の死の真実を知るために。


加速する。加速する。黒鉄の穂先がうなりを上げて、柱の棍棒と打ち合う。


「うおぁぁあああああああああああッ………!」


大地を踏みしめ、腕を振るう。

短槍が柱を押しのけて、トロールの指を切り落とした。


『グォオオアアアア………』


燐とトロールは互いに一歩距離を取った。燐は体力の限界を迎えて、トロールは指に刻まれた痛みに耐えかねて。


「はあ、はあ、はあ、はあッ………ふうッ!」


燐は必死に肺に酸素を送り込む。倒れそうになる足を気合だけで支え続ける。

対するトロールは、腕の傷を忌まわしそうに眺め、棍棒を捨てた。


(何のつもりだ………)


わざわざ武器を捨てたトロールへと燐は怪訝な眼差しを向ける。

恵まれた巨体と武器を扱える手は、トロールの厄介な武器だ。そのうちの一つを自ら捨てたトロールの行動は愚策だと感じた。

だが続くトロールの行動を見て、燐は表情を青ざめさせた。

トロールは深く姿勢を下げて両手を大きく広げた。

まるで誰かに抱き着くような姿勢だ。


「………こいつッ!」


トロールの行動を察した燐は、慌てて腕を突き出した。

トロールは歪な笑みを浮かべて地面を蹴った。


『ギイイイイイイイイイッツイイイイイイ!』


地面を揺らしながら燐に向けて駆けだす。

広げられた両手は燐の退路を阻んでいる。

トロールは気づいたのだ。燐の攻撃は一撃でトロールを殺せないと。

そのため、捨て身の特攻。

一撃を喰らっても、確実に燐を殺せる方法を本能で選び取った。


「【カース・バインド】!」


地面から生えた紫の魔力で構築された鎖がトロールの足に絡みつく。

だが一瞬でちぎられ、燐は正面からトロールの巨体を受けた。


「――――――――――ガッ」

『グオォォオオオオオオオオオオ!!』


燐を肩に担いだトロールは巨体を生かして走り続け、壁に燐を叩きつけた。

壁面に蜘蛛の巣のような亀裂が走り、燐の口から大粒の血が吐き出される。


燐は【カース・バインド】により、僅かながら勢いを殺していたお陰で即死は免れた。だが肋骨は何本も折れ、内臓も多く損傷した。

それでも燐は、歪な笑みを浮かべた。


「くはッ。はは………ッ」


それは、勝利を確信した笑みだった。


『ギ、ガァ―――ッ』


トロールは訳が分からないという悲鳴を上げた。

そして次の瞬間、灰となった。

燐の手には、血に濡れた解体用のナイフが握られていた。

そこから砕けた魔石の欠片がぱらぱらと散っていった。


なぜトロールが死んだのか。それは燐に魔石を砕かれたためだ。

燐はトロールが突進の姿勢を取った時に回避を諦めていた。

そして身を低くしたトロールを見て、これが唯一の魔石を狙うチャンスだと思い浮かんだ。


―――突進を喰らい、壁に叩きつけられた衝撃を利用して、魔石を砕く。


常軌を逸した策であり、常人なら思いついても決行できない。

誰が迫りくる死の壁を見て冷静に死の覚悟を決めてナイフの切っ先を胸に合わせられるのか。

だが燐には、『執念』があった。燐にはトロールに敗北して死を迎えるよりも、『執念』を果たせないことの方が恐ろしい。

正気のままそんなことを考え、実行したからこそ燐は勝利した。



トロールの巨体が灰になって消えた。その結果、燐は地面へと投げ出された。

大地を両の足で踏みしめる。

己が勝者だと示すように燐は手に持っている解体用のナイフを掲げた。


巨体が変じた灰が通路に降り注ぐ。

それはまるで新たな英雄の誕生を祝福する賛歌の歌のようだった。

だが英雄というにはその男はあまりにも無様で汚れていて痛ましかった。


「………は、はは。俺、の勝ち、だ」


だが、そこまでだった。燐はトロールに勝利したが、もう体は動かない。

体がふらりと地面に倒れる。

ごぽり、と口から零れた地の塊が石の地面を濡らした。

迫りくる死の気配が燐の背に重くのしかかった。


だが燐の瞳は死んでいなかった。


「あ、あああああああ、うっ」


燐はうめき声を上げながら、腕の力で身体を動かす。

地面に血の奇跡を描きながら、燐は眠っていた小さなルームに向かう。

少しでも生き残る可能性を上げるため、燐は意識の消えかかったまま、自分が今何をしているのかも分かっていないまま進み続けた。


「【ヒール】」


そんな燐の身体に柔らかな光が降り注いだ。


「――――――――ん、燐、燐!起きて、燐!」

「………アリスか。意外と早かったな」


声にもなっていないようなうめき声で、燐は笑いかけた。

その間もアリスは回復魔法を使い続けた。

燐の身体に刻まれていた傷が癒えて行き、体内の痛みも多少は引いた。


「馬鹿!待ちなさいよ!なんで目覚めたら死にかけてんのよ!」


アリスは小さな瞳から大粒の涙を流していた。

アリスは目覚めてすぐ、燐の中から出てきた。

だがそこで見たのは傷の無い場所は無く、全身真っ赤に染まった燐だった。


「いつ戻るか知らないんだから、待てないだろ………」


アリスは燐の側に降り積もった灰の山を見る。

燐の傷と灰を照らし合わせれば、この場所で何があったのかはすぐにわかる。


「―――ッ。馬鹿!」


燐の口に回復薬の瓶が突っ込まれた。アリスが妖精魔法【ポケット】で保管していた予備の回復薬だ。

中位回復薬が燐が立てるまで肉体を癒した。

燐は短槍を杖代わりにして立ち上がる。


「普通こういう時って近くの冒険者が来て助けてくれる、とかじゃないのか」


窮地に駆け付ける冒険者、とか物語の定番だ。

燐も正直期待していたが、戦いが終わっても周囲に人の気配は無い。


「あっても燐には来ないわよ。運無いんだから」


否定できない暴論を吐かれた燐は口をへの字に曲げて歩き出した。


「帰りは遠回りするわよ」


そんな燐の後を、アリスが楽しそうに追いかけた。

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