第14話 メイド

 次に目が覚めると、そこは、俺が利用している魔王の寝室だった。持て余してしまう程に、巨大なベッドになっている。

 確か、ダンケンの屋敷から亜人達を救出して、ダンケンと戦って、えーと、そうだ疲れて寝てしまったんだ。

 何時間寝たかわからないな。

 体を起こすとお腹のあたりに妙な温かさと重さを感じる。恐る恐る布団をめくると、人化したライカが一緒に寝ていたのだ。


「ライカ、何やってんだ?」


 涎を垂らし俺の腹に蹲る。頭を撫でてやると、目が覚めたのか、背中に手を回し、抱きついてきた。


「お父さん、おはよう」

「おはよう、って、何でここで寝てんだよ」

「ここが一番あったかい」


 くっついて寝れば、そりゃ温かくなるだろうけどさ。後いつまで俺の事お父さんって呼ぶ気なんだ。

 ライカを無理やり剥がそうとするが、中々引き離せない。


「ライカ離せ」

「いや、もうちょっと寝る」

「一人で寝てろ」

「いや」


 もし俺に娘が出来たら、こういう感じだったんだろうか。という事は、そこそこ成長したら反抗期が来るのか?

 余計なことを考えるのはやめよう。


「ヴァンは?」

「いつもの所」


 ライカがいつも愛用しているお肉の抱き枕が傍に転がっていたので、それを使い俺から抱き枕にライカを移した。こいつ抱きつければ何でもいいのでは?

 二度寝をするライカを置いて、身支度をした。


 ◇


 俺が寝た後は、どうなったのかを知らないので、執務室でヴァンが来るのを待つ事にした。

 今は、フィーがニマニマと口角を上げ俺の前でパタパタと飛んでいた。

 鬱陶しいな。


「何だよ?」


 俺が口を開くと、フィーは食い気味で反応した。


「やっぱりあの獣人は使い物にならなかったそうじゃない」

「誰の事だ?」

「イングルよ!やっぱりあたしの言う通りだったじゃない!」


 それでずっとニヤニヤしていたのか、幻影魔法をイングルにも掛けたが、まさかそれのせいで亜人達に、イングルが獣人だと認識されなかったんだよ。これなら、イングルだけは、獣人の姿のままでダンケン領に行くべきだったと俺もその時に反省した。

 この妖精め、幻影魔法をかける時にそれに気づいていたくせに、何も言わなかったのか。

 性格の悪い奴だ。

 すると、ドアからノック音が聞こえた。

 ヴァンとメイド服を着用した猫人族の女の子が入ってきた。


「ご主人様お待たせしました」


 ヴァンの腰程の背丈の女の子は、トレイに乗せた紅茶を溢さないように慎重に支えていた。


「お茶をお持ちいたちま……」


 噛んだ。

 猫人族の子は、その場で固まり顔を真っ赤にさせていた。

 ヴァンがコホンと咳をすると、猫人族の子に顔を寄せた。


「ほら、ミュー、ご主人様の所に」

「あ、はい!」


 拙い様子で紅茶を俺の所まで運ぶ。

 猫人族の特徴的な耳と尻尾、セミロング程の黒髪、目が大きく、愛らしい見た目の子だ。

 この子は、あの時一緒に監禁されていた子だな。


「ご主人様、お持ちいたしまち……」


 噛んだ。

 今度は固まらず、プルプルと手を震わせて、机の上に紅茶を置いた。

 一同全員、それを見守る感じになってしまった。


「初めまして、ミューと申します、昨日からこのお城のメイドで働くことになりました」


 年齢は8歳ぐらいだというのに、しっかりしているじゃないか、見た目はまだ幼いが、美人になる素質はある将来が楽しみだな。

 ん?待てよ、今何て言った?


「昨日って言った?」

「はい、そうですが……」


 確か救出したのは昨日の深夜だったよな。

 眉を寄せていると、ヴァンがまた、コホンと咳をした。


「ご主人様は、2日間お眠りになられておりましたぞ」

「え!」


 そんなに寝ていたのか……。多少スキルの使い過ぎだったかもしれないが、そこまで疲れていたとはな。この体は勇者時代とは違うから気を付けなければ。


「そうか……じゃあ報告を頼む」

「はい、救出した亜人達は魔王城を気に入っておりまして、それで故郷も家族も離れてしまったのでここに移住したいとの事で、メイド、狩り、護衛、門番、栽培、それぞれ能力に合ったものと、希望に基づき、配置致しました」


 それは良かった、亜人達をここに連れてきたが、故郷に帰りたいと言われる可能性があった、しかし、亜人達は故郷を人間達に襲撃されていたんだ。

 仮に帰りたいと言っても、もう無いのだ。

 魔王城は現状人手不足、仲間が少しでも増えるのはありがたい事だ。飢えで死ぬことも、襲撃されることもない、この魔王城なら安心して暮らせるだろう。まぁ現状は、だがな。


「そうか、では、あの人間の子供は?」

「人間達は狩り希望の物が多かったので、まずは体を鍛えるべく、イングルの指導の下、訓練を実施しております。窓辺から、ちょうど走りこみをしているのが見えますね」


 スキル『鷹の目』発動


 執務室は魔王城でも上の方にあるので、麓まで見るのに、スキルを使わなければ、はっきりとは見えない。

 鷹の目で見てみると、魔王城の周辺を数人の子供たちが走っていた。

 先導しているイングルのすぐ後を追いかけていたのは、あの道端で倒れていた少年だった。

 元気になったのか、あれだけ痩せこけていたと言うのに。


「彼らはかなり、衰退していたので、そこの妖精の生命譲渡で回復させました」

「全く、私のスキルを人間なんかに使うなんて!どういうことよ!」

「フィーは黙ってろ」

「なんでよ!役に立ったんだから、文句ぐらい言わせなさいよ!」


「ちなみに、獣人達からしてどういう反応だった?人間を入れることで不平不満は募らなかったか?」

「全くですな、文句を言っているのは、そこの妖精ぐらいでしょう」

「あんただって口には出さないけど、嫌そうにしているじゃない」

「しておりませんな、変な言い掛かりは止めてほしいですぞ」

「だってそうじゃない!こんな顔してたじゃない」


 フィーは手で顔を引っ張りヴァンの真似をする。


「何ですかその顔は、バカにしているのですか?」

「『バカにしているのですか?』なんてね」


 フィーの全く似ていない声真似に、ヴァンは眉尻をピクピクと動かす。

 ヴァンとフィーの恒例の喧嘩が始まり、それを見ていた猫人族のミューは慌てふためき、オロオロとしていた。

 吸血鬼王ヴァンパイアロードと妖精王が一触即発で、すぐにでも戦闘になりかねない状況をみれば誰でもそういう反応になるよな。

 ミューは俺の方に避難すると、机の影に隠れる。


「ああ、あのご主人様!止めなくていいのですか?」

「いいかミュー、あれはな、喧嘩する程仲がいいという奴だ、ほっとけばそのうち治まる」

「そ、そうは思いませんが!」


 大分震えており、嵐が去るのを待つように、縮こまっていた。

 すると、目をこすりながら寝起きのライカが入ってきた。


「朝からうるさい」

「もう昼ですぞ」

「もうライカ!どこに行ってたのよ!探したのよ!」


 ライカの登場でヴァン達の喧嘩がピタリと止まる。流石、末っ子、人気者だな。

 ミューは喧嘩が終わった事に気が付かず、耳を抑え蹲っていた。


「ミュー、もう終わったぞ」


 肩を叩き教える。机から恐る恐る顔を出し、喧嘩が収まっていることがわかると胸を撫でおろした。

 ミューは、ヴァンとフィーの間に行き、怒った表情で顔を膨らませた。


「もう喧嘩はやめてくださいね!仲良くしないとダメです」


 子供に怒られるって、こいつら出会った当初はかなりまともな奴らだったのにな、いや、フィーはそうでもないか。


「すまないミュー」

「だってこのエロ執事が!」

「フィーお姉ちゃん」

「う……」


 ライカとミューの仲裁で二人の喧嘩はこれで幕を閉じた。


 ◇


 ミューは通常業務に戻ってもらい、俺はダンケンとの戦闘についての共有をした。

 3カ月後の戦争の前にダンケンに接触したのは不幸中の幸いだったかもしれない。戦争中に余計なことを考えないで済むからだ。

 話終わり、ヴァンが一番に口を開いた。


「混血種ですか、何かの細胞を移植した可能性がありますね」

「年を取らないか~、もう何でもありね~」

「怖い」


 一体どういった方法でそれを実現できたのかはわからないが、賢者ソーレイが関わっている事は間違いない。そうなると、ダンケン以外にも混血種になった奴がいるかもしれない。


「ヴァン、ソーレイの居場所は分かるか?」

「申し訳ございません、賢者ソーレイに関しては、大した情報は集められないのですぞ」


 さすがに、厳しいだろうな、あいつは賢い、見つかったとしてもそう簡単に尻尾を出さないだろうな。賢者のスキル、一体どんな知識を授かったんだろうか。それを悪用するかは、その者に委ねられる。


「そうか。ならお前は引き続き、3カ月後の戦争の調査と、レグレシップ国の動向を探っていてくれ」

「承知しました」


 今回の救出で分かった通り、やはり、魔王がいなくなっても世界は平和にならない。何なら魔王がいた頃より酷くなっている。人類には魔王という共通の敵が必要なのだ。

 3カ月後、3カ月後の戦争で俺の存在を明らかにしていけば、新たなに人類は一致団結するだろうな。

 それまでは囚われえた亜人や生物創造で仲間を増やす、そして、ダンジョンがあれば攻略する。現状の動きはこんな所だな。


「ああ、そういえば、レレさんが心配しておりましたぞ」

「レレ?」

「あのうるさい猫」


 うるさい猫?ああ、ライカにずっとしがみ付いていた猫人族の娘か。しかし、ライカはフィーの影響を受けたのか口が悪くなっているな、成長期は身近なものが一番影響を受けやすい、フィーをライカに近づけさせるのは止めた方がいいのだろうか。


「フィーお姉ちゃん、森に探検しに行きたい」

「もーう、ライカはしょうがないわね、お姉ちゃんに任せなさい」


 フィーはライカの頭の上に乗ると、嬉しそうに部屋を出て行ってしまった。

 仲良いな。あいつら。


「我々も、森に行きますかな?」

「行かないよ、レレはどこにいるの?」

「厨房におりますぞ、待っていればそのうちに来ますよ」


 どうやら、レレの希望は料理人らしい。料理自体は好きで村に生活していた頃は、よく子供たちに振舞っていたそうだ。

 意外な一面だな。

 そういえば、俺はレレ達には特に正体を明かしていなかったな。魔王とか、魔王とか、魔王とか。しかし、ヴァンから説明をされているか。

 まぁ、紅茶もあるわけだし、気長に待つ事にするか。

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時空の勇者は魔王を討伐した後、王国を滅します。 人類無敵 @nekojirou03

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