第11話 亜人の救出(上)
南歴667年
月日がたち、また新たな勇者が誕生したらしい、また数年もたてば攻めてくるのだろう。
この姿になって34年もたってしまった。
生物創造のスキルで仲間も増えたが、勇者の前では無力な存在だ。
勇者は人類にとっての破壊兵器、使い物にならなければすぐに壊されてしまう。
現世の勇者は会話のできる相手で会ってほしい。
お互いに歩み寄ればきっと……。
ここは、魔王城の執務室、部屋の真ん中には、机と腰かけ、窓際には魔王サイズの椅子と机が置かれており、今の俺には全くサイズが合っていないので持て余してしまう。
魔王城での従者や仲間が増えることを見越して、各代表の報告書を受けとる場としても使う予定になっている。
そして今は、フィーに頼んで、先代魔王の日記に掛けられていた強力な精神魔法を解除してもらい、それを読み終えた所である。
難なく読めるようになったものの、次の面は、白紙のままで、何も書かれていなかったのだ。
「魔王様~どんな感じ?」
「ああ、読めるようにはなったけど、次の面に何も書かれてない」
「前の魔王様は飽き性なんじゃない?まぁってことであたしは、獣人達の様子でも見に行くわね」
フィーは日記に興味がなくなったのか、窓の方から出て行ってしまった。
飽き性ねー。
先代勇者様がそんな人とは思えないな、精神魔法が付与されていたぐらいだ、この書物には、何か仕掛けがあるはず。
しかし、鑑定を使った際には、『古い書物』としか表示されなかった。
書物を上下左右と様々な角度で調べてみるが、それらしい物は目には付かなかった。
すると、ドアの方からノックの音が聞こえると、ヴァンが紅茶を持ってきてくれた。
「ご主人様、紅茶をお持ちしましたぞ」
トレイから、紅茶が置かれる姿には、一切の無駄がなく、研ぎ澄まされた熟練の執事と遜色のないものだった。
「ああ、ありがとう」
「しかしながら、紅茶と言ったらメイドに入れてもらう方が醍醐味ですが、メイドがいないのでこの老いぼれが入れた紅茶でお許しください」
「老いぼれって……」
ヴァンって生まれてからまだ一か月もたってないだろう。
見た目だけなら確かに、長年勤めた執事だけども。
淹れてもらった紅茶を啜る。
上品な味わいだ。どこかの国の姫様が嗜んでいるような、そんな一品だな。
「それで、獣人の皆はどうだ?」
結局あの後、獣人達を魔王城に移住しないか提案したもの、恐れ多いと言いせめて、魔王城の麓辺りに住まわせてもらいとのことだった。
今は、魔王城の砦の中で生活してもらっている。
獣人達は、キャベルの栽培だけだと手に余るらしいので、砦の入り口の門番をやってもらうことになった。
獣人の兵士長は、イングルに任命し、キャベル栽培の責任者はアウグル族長にやってもらっている。
「ええ、彼らの生活水準も上がりまして、今は生き生きと働いておりますよ」
「そうか」
彼らには仮住まい用の、ウッドハウスに住んでもらっている。これはフィーの植物操作で作り上げた仮家だ。
そのうち、住民が更に増えれば、魔王城周辺に新しく都市作り上げよと考えている。
そのためには、色々な種族の協力を得る必要があるのだ。
「それで、一つ報告したいことがございまして」
「なんだ?」
「実は、騎士ダンケンの周辺を調べてみると、どうやら、亜人達を誘拐している情報が入りまして」
「何だと?」
亜人とは、人間以外の種族を指す名詞であり、そのような言葉を使うということは、様々な種族が誘拐、監禁されていることが推測できる。
「しかし、何故誘拐を?あいつも人類絶対主義者だろ?」
わざわざ誘拐なんて、手間もコストもかかることを、あのダンケンがするとは思えないな。あいつなら見つけ次第、殺害するように思えるのだが。
「ええ、何というか……他の貴族に横流ししているとかで」
「……人身売買か」
人身売買は、国の法律で禁止されており、大昔に奴隷法などの類は撤廃されている。
しかし、その法律は人間にのみ適応されるため、亜人に関する規制は全く行われていないのだ。おおよそ、亜人を使った実験や、変態貴族の玩具として売られているのだろう。
本当に貴族というのは、悪辣で非道な生き物なんだ。
「それでして、ダンケンが住む屋敷は北のクテリア国を侵略した際の土地でございまして、まだしっかりと要塞や町が整備されていないのですよ」
「侵入するなら今という事か」
どちらにせよ、亜人は今や俺の同胞、助けに行かなければならない。ヴァンがそのように誘導しているようにも思えるが、獣人達をあの森から助けた時点で、他の亜人達も同じように救う、それが魔王もとい英雄の役目。
「よし、ならば、侵入するための計画を練って、決まり次第、皆に集合を掛けてくれ」
「承知しました」
個人的には、ダンケンに遭遇した際、俺はあいつを殺さないで見過ごすことが出来るかが気がかりになっている。この感情を抑制しなければならない。俺の復讐と亜人達の救出を混合してはいけない。これは俺だけの話だからだ。関係のない彼らを巻き込むわけにはいかない、それは、俺が創造した仲間達も同じだ。
ヴァン達は仲間であって道具ではないからだ。
◇
腰掛には、ヴァン、フィー、ライカ、アウグル族長、イングルが座っており、レイはライカに無理やり抱っこされていた。
ライカは黄金狐のレイの事が気に入っており、出会ってからほぼ毎日一緒にいる。過度なボディタッチにレイはうんざりして、俺の所に逃げてくるが、結局ライカに捕まっているため、もう抵抗する気力がないらしい。
「して、我々も呼ばれましたがよろしかったのですか?魔王様」
「ああ、二人にも関係のあることかもしれないからね」
「関係のある事ですか?」
「実は、北の貴族に亜人達が誘拐され、監禁されているんだ」
「!?」
俺は、ヴァンに報告を受けたことをそのまま説明し、ダンケンの屋敷に侵入し、亜人達を救出することを伝えた。
アウグル族長が前に話していた村の出身も、もしかしたら捕らわれている可能性がある。
説明を終えると、族長は心当たりがあるようすぐに答えてくれた。
「我々は逃げるのに必死でしたので、当時の事をはっきりと覚えてはいないのですが、殺されず、連れていかれた者達も何人がいた気がしますな……」
「ああ、俺の友達も何人か連れ去られていたぜ……クソが!」
イングルは自分の太ももを強く叩き、まるであの日の悲劇を思い出しているような、悔しさとやるせなさを織り交ぜた表情をしていた。
「そうか、すまない酷な話をしてしまって」
「いいえ!そんな!同族を救ってくださったあなた様のためでしたら、これぐらいのことは」
アウグル族長は怒りを抑えるように強く拳を握っていた。
配慮が足りなかった。
彼の仲間は何百人と殺戮された話を知っていたというのに。自分自身だけが不幸になっていると思っていたせいか、周りを見えていなかった。
「なぁ旦那、その救出作戦、俺も同行していいか?もしかしたら知り合いや友達もいるかもしれねぇ」
イングルはまっすぐな姿勢で俺に申し出た。その瞳は曇りが一切なく、命を懸ける覚悟をも感じさせた。
「何勝手な事言ってんのよ!これは魔王様が決めることで!」
「フィーは黙ってろ」
「何でよ!?」
元々イングルは参加させる予定でもあった、俺とは違い彼は、数十年間、同胞たちの死を目の前で見てきたはず、それをここで待機なんて命令してしまえば、彼の中の気持ちは晴れないし、俺に対する忠誠心もきっと薄くなる。
「いいよ、イングルも参加で」
イングルは俺の許可に笑みが零れ、腰掛からおり、跪き忠誠を誓った。
「俺はあんたに一生ついていくぜ!」
うんうん、付いてきてくれ。
「ま、まぁ、あんたが役に立つとは思わないけど、せいぜい足を引っ張らないことね」
「フィー、お前は行かないぞ」
「え!?何で!」
こいつ自分が選ばれる気満々だったのかよ。今回は侵入だから少数部隊で行こうと思っているし、そもそも妖精のフィーはある意味目立つんだよ。人里に姿を出せばすぐに騒ぎになるだろうが。
「行くやつは決まっている、そのための作戦を今から伝える」
◇
メンバーは、俺、ヴァン、イングル、そしてライカだ。
俺とイングルは、後に、フィーに幻影魔法で人の姿にしてもらうことになっている。
メンバーの役割をそれぞれに伝え終わると、各々が準備に取り掛かろうとその場から立ち上がる。
話に置いてきぼりにされていたフィーは、俺の真正面に飛んできて、抗議し始めた。
「ちょっと待ってよ!何勝手に話を進めているのよ」
「何だよ、フィー、お前には、大森林の管理があるだろう」
「そうだけど!」
「それにお前、自分に幻影魔法掛けられないだろ」
「うう……」
幻影魔法は、術者本人には掛けられないスキルになっており、フィー自身姿形を変えられないのだ。だからこそ、フィーは連れていけない。申し訳ないが、レイと一緒にここを魔王城を守ってくれ。
落ち組むフィーを見ていたライカはスタスタとフィーに近づき頭を撫でる。
「フィーお姉ちゃん、ドンマイ」
「ライカ~」
ライカがフィーを励ますと少し機嫌を戻し、ライカの頬をペタペタと触る。
あいつら、いつの間に仲良くなったんだ?
「屋敷の侵入は、今日の夜中に決行する、各々準備をし、今からクテリア国に向かうぞ」
今回の目的はあくまでも救出、ダンケンとの接触はしない方向で行くつもりだ。
アウグル族長は、俺たちの成功を願うように祈っていた。
ダンケンお前のようなクズ野郎は、必ず地獄に落としてやる、お前の好きなようには絶対にさせない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます