第4話 調査結果

 魔王城の麓には迷宮の大森林が広がっており、そこには、地下ダンジョンが多く、魔物がそこから地上に溢れている。

 魔王城に辿り着くには、迷宮の大森林を通過しなければならなく、多くの冒険者たちはそこで命を落とすことが多い。

 大森林に関しては、魔物が多く住み着いているので、他の種族が近寄ることがないのだが、ヴァンの調査では一部の獣人が洞窟に住み着いているらしい。

 大森林は魔族領の中でも、規模が広いため、、迷宮の大森林を管理できる仲間を創ったほうが良いとのこと。

 大森林の魔物は今や、数が尋常じゃなく他の地帯や、人間の国まで押し寄せている状態だということ。

 この魔王城も例外なく、麓の方には何匹か砦を破壊しているらしい。

 中に入られなかったのは、魔物除けの護符が地中に埋められており、その効果が幸い発動されていたからだと。


「周辺はこのような感じですが、魔物除けの護符の効果が若干弱まっているので、替えを買うか、近くにあるダンジョンを攻略し魔物を鎮圧させる他ございません」


 ダンジョン攻略するにも、俺とヴァンの二人だけでは厳しい気がする。

 獣人の方も気になるな。


「うん、わかった、後で大森林の管理をしてもらう仲間を創造して更に調査を行い、精査しようか」

「かしこまりました、次は、人類領の方を」


 現在の国は、南のレグレシップ国、東のシューリング共和国、西のアーゼフ国、北のクテリア国となっており、北のクテリア国は、南のレグレシップ国が領土拡大のため一部地域を植民地化されているとか。

 そして、驚くべき情報として、俺が勇者として亡くなってから、『30年』の時が立っており、現在は南歴866年。


「30年……そんなにも立っていたのか」


 魔王城の状態を見ていた時から、それなりに時が立っているとは予想していたが、ここまでとはな。

 そして、南のレグレシップ国の国王は代替わりしており、今は、カイザー=レグレシップが国王になっている。

 カイザーと言ったら、己の私腹を肥やすだけのクソデブ、あいつには俺の両親を殺したツケが残っている、必ず報いを受けてもらう。


「ちなみに、元勇者パーティの方々も生きているそうですぞ」

「だろうな、たった30年であいつらが死ぬわけがない」


 死んでもらっては困る。

 あいつらにも、それ相当の報いを受けてもらわなければ、死んだ家族達に示しがつかない。

 そして、ヴァンの報告を聞くと、レグレシップ国は30年前と何ら変わっておらず、逆に、富裕層と貧民層の格差は、更に広がっているらしい。

 貴族は権力と金におぼれ、国民は明日生きていくのにもやっとの生活、税を納められない民は奴隷落ち、変態貴族に売られるか魔法の実験材料になっている。

 魔王を討伐したら平和になる?

 勇者を殺せば国の脅威がなくなる?

 それの結果がこれかよ。

 王族や貴族は腐っている、こいつら全員根絶やしにしてしまいたい。

 俺の負の感情によって、体からは膨大な魔力が放出され、周囲は高濃度の魔力で満ちていた。


「キュンキュン!」


 レイが鳴き、我に返ると、レイとヴァンは息苦しそうに顔を歪ませていた。

 しまった!魔力が駄々洩れだった。


「すまない」


 俺は、すぐに魔力を抑え、気持ちを整えた。


「いえ、流石は我主、魔力の渦に息が出来なくなりましたぞ、ホッホッホッホ」


 ヴァンは、なんともなかったように笑っていたが、俺の膝の上でうたた寝をしていたレイはかなり怒っていた。


「すまないレイ」

「キュン!」


 レイは機嫌を悪くしたのかどこかに行ってしまった。


「レイ、ご飯の時間になったら戻ってくるのですよ」

 

 レグレシップ国は領土拡大に向け、北のクテリア国に侵略戦争を仕掛ける話が上がっていた。

 元々、魔王がいた頃は、周辺諸国は魔王が討伐されるまでは、人類不可侵条約が締結されていたのだが、魔王が討伐されたのちに、南のレグレシップ国は、魔物の被害で衰退していた北クテリア国をじわじわと我国に吸収しようと働きかけていたらしい。

 その戦争に向けての準備が着々と行われており、早くて、3カ月後に行われる見込みとなっている。


「その戦争には、元勇者パーティは参加するのか?」

「一名のみ参加します。それは、騎士ダンケン、もとい、今は一部領を貰い男爵となっております」


 ダンケンのみか、小賢しい奴だ、こんな戦争始めから勝者は決まっているのに、確実に功績を残そうとしているな。


「しかし、男爵なのか?仮にも魔王を討伐した勇者パーティだっただろう」

「ええ、元々は伯爵だったのですが、あまりにも問題を起こすそうなので、降格処分になったとか」

「問題?」

「脱税の類でしょうね、没落しかけてからは、毎年納税しているのですが、実態は分かりません」

「いや、逆にこの短時間でここまでの情報を集めただけで十分だ」


 ヴァンはやはり有能過ぎる、こいつを創造して本当に良かった。

 戦闘面でも期待できそうだ。

 そして、今後の方針は大体決まった。


「方針は決まった、3カ月後の北クテリア国との戦争に参加し、クテリア国を勝利に導く、俺達は正体を隠し、クテリア国を第二の拠点として、レグレシップ国を侵略させよう」


 その際に、ダンケンには、戦争に敗北した責任を取ってもらう、どん底に落ちていくまで、あいつは絶対に殺さない。


「ほう、正体を隠すのですか?堂々と魔王の配下として服従させればよろしいのでは?」

「再び魔王が復活したと分かれば、また人類は一時的に結託するだろう、人類を舐めない方がいい、現に前魔王はその人類に負けたんだ」


 しかし、手加減をしていた可能性は大いにある。

 何十年も魔王として命を狙われたんだ、もう大切な人もいない、そんな地獄から解放されたかったかも知れない。

 俺は、王国に復讐するまでは絶対に死ぬわけにはいかない。


「その通りでございますね」

「それに向けてまずは直近の問題の解決と、仲間を増やしていきたい」

「直近ですと、迷宮の大森林ですかな」

「ああ、そうだ、その森を管理できるものを創造していく」

「承知しました、では私は引き続き、調査を行います」

「任せた」


 話がまとまると、タイミングよく、レイが帰ってきた。

 しかし、レイの体は魔物の血でかなり汚れており、口元には透き通った衣を咥えていた。


「おいレイ、何でお前そんなに汚れているんだ!」

「きっと腹いせに大森林で魔物を狩っていたのでしょう」

「キュン!」


 レイの機嫌は直っていなさそうだった。

 まだ怒っているのかよ、全くこいつの頑固さは妹のミレイにそっくりだな。


「おやおや、ご主人様見てください、カーペットがレイの足跡だらけですぞ」


 レイを洗った後に、時間操作クロノスを掛けておくか。

 するとレイは、口に咥えていたアイテムをヴァンの足元に置く。


「おや、これは、どれどれ鑑定」

「ご主人様、これはランクユニークの精霊の衣ですぞ」


 精霊の衣だと、確かに精霊は自然が多いところに生息する。

 まさか、そんな珍しいアイテムを拾ってくるとは、それとも精霊が黄金狐のレイに渡したのか?どちらにせよ、レイの幸運をもたらす者の効果だろうな。


「これは生物創造に役立ちそうですな」

「ああ、かなりな、レイ良くやった」


 頭を撫でようと近づくが、レイはヴァンの足元から離れようとしなかった。


「ホッホッホッホ、これレイ、ご主人様はもう謝罪したのですから機嫌を直しなさい」

「キュン……」


 レイは、とことこと耳を垂らしながら俺の方に近づく。

 まるで、子供みたいだな。

 そうだ、確か、ファイアーバードの燻製をヴァンに作ってもらったんだ。

 俺は次元収納からレイの好物のファイアーバードの燻製を取り出し、差し出した。


「レイ、これで許してくれ」

「キュン!キュン!」


 すぐに食いつき、満足そうに頬張っていた。

 俺と目を合わせると、頭を足に擦り付けてきた。

 良かったどうやら機嫌が直ったらしい。


「一件落着ですな」


 もしかすると、レイも俺に謝りたくて、あのアイテムを持ってきたのかも知れないな。

 こうしていると、家族とのやり取りを思い出す。

父さんと母さんが喧嘩をしたとき、俺と妹で仲直りさせようと間を取り持つが、結局母さんが、父さんの好きそうなお酒を買ってくるんだ。

 父さんも母さんの好きな甘いお菓子を用意しているんだよな。

 でも、今回の場合は明らかに俺に非がある。


「レイ、それ食ったら体を洗うぞ、俺のスキルは生きている物には効果がないからな」

「キュン……」


 嫌そうにするレイをクスクスとヴァンが笑っていた。

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