第3話 吸血鬼王の有能執事 爆誕 


「キュン!」


 横になって仮眠をとっていると、レイが俺の顔にお腹を乗せる。

 暖かくて高級毛布のような触り心地に、もう少しこのままでいたいと思ってしまった。

 レイは、俺を起こしているつもりなのか、鶏のように鳴く。


「キュンキュンキュンキュン」

「あーわかったよ、起きるよ」


 魔王城に朝はない、ゆえに、どのくらい寝たか体感でしかわからない。

 絨毯の上だからか、体がカチコチになっていた。

 俺の傍らには、また、ファイアーバードの死体が置いてあった。

 また落ちてきたのか……。

 レイは早く食べさせろと言わんばかりの瞳で俺の方を見ていた。


「腹減ったか?」

「キュン」

「了解」


 料理したいところだが、魔王城は半壊しているので、厨房らしき所も瓦礫の山になっている。

 しかし、冒険者にとって大人気を誇るファイアーバードは料理する必要がない。

 こいつは、体が火で覆われているので、体の中は常に高温状態、病気の原因になる微生物は死んでいる。

 この鳥の生命が尽きると覆われた火も消える、つまり、羽をむしればそのまま食す事のできる代物なのだ。

 俺は、モモ肉を頂こう、レイは胸肉が好きそうなので、モモを取れば後は骨ごとあげている。

 食事をするときは、神に祈りをしていたが、俺の中で、神に対する信仰はもう消えている。


「今日もレイに感謝を」


 俺の中の神は、黄金狐のレイになっていた。


 肉を食べ終わり、レイは骨をカジカジ噛んでいた。


「さてと、体力も英気も養ったし」


 レジェンド素材マテリアルを使った、生物創造を行う。

 レイを観察した結果、俺の魔力を注がれている故、奴隷契約と同じで、服従関係になっていることが分かった。

 ならば、どんな生物が創ったとしても、俺に危害は加えないだろう。


「知的で有能な奴が欲しいな」


 魔王に転生してから、まだ魔王城の外に出ていないので、何も情報がない。

 どうみても魔族っぽい俺が安易に人間の土地に入るわけも行かない。

 そこで、比較的人間の姿に近い、吸血鬼を創造しようと思う。

吸血鬼王ヴァンパイアロードの血液』これがどうなるかはわからんが、きっと強力な仲間ができるはず。

 戦闘になった時は……まあ何とかなるだろう。


「キュン」


 骨をかみ砕き、もう遊ぶものがなくなったレイは、俺の足元まで近づいてき、肩まで飛び乗る。


「キュウン!」


頭上に魔法陣が現れ、レイは状態異常軽減のバフを掛けた。


「ありがとう」

「キュン!」


 レジェンドランクの吸血鬼王の血液と、アイテムは、ユニークランクの賢者の書を使おう。


「生物創造」


クリエイター

『マテリアルとアイテムを入れてください』

 レイを創造したときと全く同じ手順のようだ。

 すぐに取り込まれた。

 すると、前回と違い、追加説明が記載していた。


 クリエイター

 『手をかざし魔力を流して下さい、なお、その際にどんな生物を創造するかイメージすることでそれに近いものが再現されます』


 イメージか……。

 とりあえず、知能の高く、情報収集が得意そうで、何でもこなしてくれそうな執事をイメージしてみる。

 それを思い描くと、前世の筆頭執事のセバスを思い出すな。

 掌のマークに変わり、左手をかざし、魔力を流す。


クリエイター

 『準備完了、創造しますか?』


「ああ、頼む」


クリエイター

『承認しました』


 すると、クリエイターに入れた吸血鬼王の血液は瓶から血だけ抽出され、賢者の書は細い毛糸のように、解けた。

 みるみると、人間の形をした生物に創造される。

 そういえば、レイは動物に近い姿だから気にしなかったけど、裸で現れるのか?

 俺の心配は無駄なようで、紳士服を着用していることがわかった。


クリエイター

『完了しました』


 雰囲気は、どこにでもいるどこかの屋敷の長年勤めてきた執事のような風貌だ。

 しかし、それは、人間とは異なり、紅い瞳に、髭で隠れてはいるが、鋭い八重歯、そして、夜空を駆け回れる漆黒の翼は、吸血鬼そのものだった。


「あなたが私のご主人様ですね」

「そうだ、それでお前の名は?」


「私にはまだ名がございません、どこにでもいる吸血鬼かと思っていただければ幸いですぞ」


 吸血鬼がどこにでもいて堪るか。

 この吸血鬼の佇まいと状況判断に知性を感じる、賢者の書を使っただけはあるな。


「嫌でなければ、俺がつけるけど」

「それは、願ってもない事ですぞ」


 膝を突き、俺に首を垂れるその姿勢、服従関係とはいえ、俺に敬意を払っているのか。

 俺を主として認めている?

 まぁ、いいや、こいつが有能な部下であれば何でも。


「名前は、ヴァンだ、今この時からそう名乗れ」


 ヴァンパイアから取っただけなんだが、安直過ぎたか?


「ヴァン……なんと良い響き、ありがたき幸せですぞ」


 本人が喜んでいるみたいだから良しとするか。


「キュン!」


 レイは、ヴァンの元に寄り沿い、鼻を近づけていた。


「おや、あなたは?」

「こいつは、黄金狐(亜種)のレイだ、お前に挨拶をしてんだろ」

「そういう事でしたか、これはこれはレイ殿よろしくお願いしますぞ」


 ヴァンは、レイの鼻に人差し指を当て挨拶をする。

 しかし、ヴァンの見た目、俺のイメージの影響か、前世の頃に長らくアーガネス家に仕えてくれた筆頭執事のセバスにそっくりだな。

 髭の形から、体格も……。

 とりあえず、鑑定しといて、何ができるか見ておくか。


「ヴァン、鑑定してもいいか?」

「もちろんですぞ」

「鑑定」


 名前  ヴァン

 種族  吸血鬼ヴァンパイア 男

 スキル『血液操作』『超回復』『眷属召喚』『影移動』『吸血』『鑑定』『隠密』

 称号 吸血鬼王ヴァンパイアロード・・太陽無効化


 これは、天災級モンスター並みの化け物だな……。

 しかし、隠密と影移動を持っているのであれば、魔王城外の情報収集に尽力してくれそうだ。

 そして何よりすごいのが、称号の吸血鬼王ヴァンパイアロードだ。

 その効果が太陽無効化、つまり生命力に特化した吸血鬼の唯一の弱点を克服しているということ。

 太陽の下でも活動できるとか、もう弱点ないじゃん、こいつ。


「どうですかな、私は役に立てますかな?」

「ああ、ものすごくな」

「では、早速ではございますが、魔王城周辺と人間の国の情報を集めますぞ」


 そういうと、ヴァンの陰から無数のコウモリが現れる。

 これは、ヴァンのスキル、眷属召喚のコウモリなのだろう。

 しかし、それ以前に何故ヴァンは俺の考えを読み取れたんだ?

 読心術の類のスキルは無かったはず。

 困惑していると、その様子を見ていたヴァンが口を開く。


「僭越ながら申し上げると、ご主人様に創造されたときに、記憶の一部共有しております、私を召喚した理由、ご主人様の前世の記憶」

「そうなのか!」

「はい、しかしそれは一部のみで、全てではございません、この世界の常識や、印象に残っている記憶のみですぞ」


 そうなのか、だから、俺が主だとすぐに理解していたのか。

 生物創造、まだ他に隠されている力がありそうだな。


「してこの眷属達は、情報収集に長けております。私と魔力が繋がっているので、すぐに情報の伝達ができますぞ」

「それは頼もしいな、情報を探るついでに、人間の国から食料を買ってきてほしいだ、出来るか?」

「略奪では駄目なのですかな?」

「ああ、駄目だ、人間でも殺していい奴と殺してはいけない奴がいる」

「そうですか……では、人間の姿に近い眷属を呼びますぞ」


 コウモリ以外にも眷属がいるのか。

 ヴァンの陰から、次は、人型の眷属が現れる。

 見た目は、ほぼ人間だが、これも吸血鬼なのか?


「こいつらは、下級吸血鬼ですぞ」

「下級か……」


 吸血鬼にも上下関係があり、それは下級、中級、上級と別れており、吸血鬼王ヴァンパイアロードはその更に上の存在になる。


「ご不満でしたら、上級吸血鬼を呼びますぞ」

「いや、こいつらで十分だ」

「では、お前たち、適当なモンスターの素材を売って、その金で、食料を買ってきなさい、その際に、正当防衛以外で、人間を襲ってはいけませんよ」


 ヴァンの命令を聞くと、すぐに影移動で姿を消した。


「一応言いますと彼らは、私と魔力がリンクしているので、太陽無効化が適応されますぞ」

「ハハ、そうか、恐ろしいな」


 こいつに理性があって本当に良かった。

 こんな最強の吸血鬼軍団を何体も出せる奴と戦いたくはなかったからな。

 しかし、こいつかなり有能だぞ。

 俺が今何を必要かすぐに読み取り、行動する、知性も高いから俺よりも情報の吸収率が早い。


「して、情報が集まるまで暇ですな、何をしましょうか」

「キュン!」


 レイは、ファイアーバードの上腕骨を口に咥え床に置き、尻尾を左右に振っていた。


「おやおや、ではレイ殿一緒に遊びましょうか」

「キュンキュン」


 ヴァンとレイが遊んでいるので、俺は、しばらく横になることにした。

 驚きつかれた……。


 ◇


 食料はすぐに届き、俺とレイは、ヴァンの腕を振るった料理を堪能していた。


「ヴァンは料理も得意なのか」

「キュンキュン!」


 情報を待っている間にヴァンの眷属達にもう一つ必要な素材を取ってきてもらった。

 それは、鉱石地帯に住み着いているゴーレムの素材だ。

 これの用途として、半壊している魔王城の修理をするためゴーレムを創造する必要があった。

 実験的に、生物創造で素材と魔力のみを入れてみると驚くことに、ゴーレムを創れてしまったのだ。

 その上、俺の指示通りに動いてくれる。

 今は、瓦礫の撤去を数十体のゴーレムに任している。

 その際に、ヴァンの強い要望で、厨房から優先的にやってほしいとこのこと。

 ほんの数分で厨房は使える状態にした。

 劣化していた部分は、俺の時間操作クロノスで新品の状態まで時を戻した。

 その際に、ヴァンは、『主婦にとっては最高のスキルですな、ホッホッホッホ』と高らかに笑っていた。


「玉座の間もかなり綺麗になったな」


瓦礫や埃がないだけで、かなりそれっぽくなる。

しかも、ずっと魔王城の地下で眠っていた、この大理石で造られたテーブル。

玉座の間に置くと、若干雰囲気が台無しになってしまうが、まぁいいだろう。

 食事を終わると、すぐに食器を下げら、水を置かれる。


「しかし、ご主人様にお聞きしたいことがございますが」

「ん?」

「その魔王城をご主人様のスキルで修復されないのですか?」


 ヴァンの疑問はごもっともだ。

 俺の、時間操作クロノスがあれば、半壊された魔王城なんて一瞬で元の綺麗な状態に戻せてしまう。

 しかしそれをやってしまえば。


「では、元々半壊だった魔王城が突然、元の綺麗な状態に戻ったら、人間たちや周辺の種族達はどう思う?」

「……魔王が復活した」

「そうだ、今はまだ復活したばかりで、力がない、もうちょっと仲間を増やしてからの方がいいだろう」

「なるほど、主は用意周到なのですな」


 用意周到か、単純に憶病なだけなんだがな。

 すると、ヴァンは、どこからか持ってきた世界地図をテーブルに広げた。


「して、ある程度情報が集まりました」

「ああ、説明してくれ」


 ヴァンはまず、魔王城周辺について説明を始めた。

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