第2話 生物創造

 実験的に、生物を創造しようと、勇者時代の所持品を確認していたのだが、いきなりレジェンド素材マテリアルを使うのに抵抗がある。

 生まれた瞬間に襲ってくるかもしれないからな。

 しかし、これなら、許容範囲内か。


「ユニーク素材マテリアル 黄金狐の毛」

「そして、キングアイテム 息災の護符」


 どちらも地下ダンジョンの下層で手に入れたものだ。

 とくに、ユニーク素材マテリアルの黄金狐の毛に関しては、見つける事自体難しい代物。

 黄金狐は、戦闘能力は皆無なのが、その毛は黄金に光っているため、幸運や金運を呼び込む事で有名な狐だ。

 ある国の大商会のエンブレムにまで使われる程のご利益がある。


「マテリアルとアイテムそして俺自身の魔力が必要なんだよな」


 一応、両手で持って見たのだが、これどうやってスキルを使えばいいのだ?

 魔力をただ流してみるとか?

 そう思い、両手に魔力を放出してみるが、ただ黄金狐の毛が魔力でなびくだけでとくに何も起こらない。


「わからん……」


 いや、待てよ、この世界は言葉というものに左右される傾向がある。

 ならば、神級スキルと言え、今まで同じようにスキル名を口に出した後、魔力を送るのではないのか?

 初めてのスキルを使うときは、何が起きるか見当もつかない。

 俺は、慎重にスキル名を口に出した。


「生物創造」


 すると、空間に薄い板のようなものが表示した。


 クリエイター

『マテリアルとアイテムを入れてください』


「これに入れるのか?」


 その板には文字が表示しており、指示通りにその空間に入れることにした。

 アイテムを近づけると、吸い込まれるように持っていかれた。


 クリエイター

 『手をかざし魔力を流して下さい』


 掌のマークに変わる。

 クリエイターの指示に従い、左手をかざし、魔力を流す。


クリエイター

『準備完了、創造しますか?』


 もういいのか。

 魔力はそこまで必要じゃないらしい、現に1割にも満たない量を注いだ。

 これに同意すれば、もう始まるのか。

 結構簡単なんだな。


「ああ、やってくれ」


クリエイター

『承認しました』


 すると、クリエイターに入れた黄金狐の毛と、息災の護符が細い毛糸のように、解け、一つの生物のように糸で創られていく。

 クリエイターを中心に、神秘的な光を発していた。


 魔王城に光が差さないせいか、より美しく見える。


「これが、神級スキルか……」


 みるみる狐の姿かたちになっていく。


クリエイター

『完了しました』


 黄金狐はその名の通り全身が黄金色に輝いた狐なのだが、生物創造で生まれた狐は、真っ白な毛に覆われ、瞳は透き通るサファイヤのようだった。

 そして、何より驚いたのが、その7ある尻尾から、それそれ違う虹のような淡い色になっていた。


「キュン!」


 その狐は、俺に一言挨拶するように鳴く。

 愛くるしい見た目だな、妹のミリヤなら絶対気に入るだろうな。


 しかし、こいつの見た目からして、黄金狐ではないよな。


「とりあえず鑑定!」


 名前  なし

 種族  黄金狐(亜種)メス

 スキル『光魔法』『状態異常軽減』

 称号 幸運をもたらす者 幸運を招いてくれる。


 一応、黄金狐なのか、にしては全然違う気がするが、キングアイテムの『息災の護符』の影響もあるのだろうか。

 それと、光魔法とは驚いた。

 光魔法は、教会でも上級聖職者が持っているレベルの代物だ。

 聖職者が使う浄化魔法は、アンデット系モンスターのみにダメージを与えるが、光魔法は全てのモンスターに有効なのだ。

 浄化魔法の超上位互換。

 状態異常軽減は、自分や他人に付けることが出来るバフスキルのようだな。

 これは、『息災の護符』の効果が出ているかもな。



「キュン!」


 俺は、腰を下ろし、床に胡坐をかいて座る。


「そういえばお前、名前なしになってたな、よし、俺がつけてやる」


 というか、俺は生みの親だから当たり前か。


「キュンキュン!」


 黄金狐(亜種)は、俺の言葉を理解しているのか、嬉しそうに飛び跳ねていた。


 そうだな、黄金狐だからゴールドとか?でもこいつ黄金要素皆無だしな。

 尻尾が七色……ニジ……。


「よしお前は今日から『レイ』だ!」

「キュンキュン!」


 名前を気に入ったのか、レイは俺の足の上に乗り、お腹を撫でてほしそうに腹を見せていた。 

 俺は、自然とレイを撫でていた。

 このモフモフ感たまらんな、つうかこいつメスだったことすっかり忘れていた。

 男っぽい名前を付けてしまったがまぁいいだろ。

 俺が、レイを撫でていると、天空から一羽の鳥が落ちてきた。

 埃がまってしまい、レイは咳払いしていた。


「何だなんだ?」


 そこで頭を打って死んでいるのは、ファイアーバードと呼ばれる食用鳥だった。


「おい嘘だろ、こんな事あるのか?ものすごい運だな」


 運?もしかしてもう、レイの称号の効果が発動されているのか?

 俺が、携帯食料で飽き飽きしていたから。

 ファイアーバードは火山地帯にしかいないはずの鳥なのだ、それに、火山地帯も魔 王城からずっと西の方に離れているファイアーバードが魔王城の上空にいること自体おかしい。

『幸運をもたらす者』計り知れないな。


「レイ、ありがたや」


 拝まれたレイは、俺の見様見真似をするように、両手を俺に向けていた。

 キュン、これはレイの鳴き声ではない。


 俺は、ファイアーバードをすぐに絞め、次元収納に入れておいた。


「キュンキュン!」

「すぐには食わないよ、貴重な肉なんだから」


 レイは悲しそうに耳を垂れていた。

 可愛い奴め。

 とりあえず、レイをしばらく観察する事にした。

 強力な生物を創造する前に、レイで色々と調べておきたいのだ。

 

2日後


 俺に向かってレイの光魔法で創り上げた槍が四方八方に向かってくる。

 それを空中に避けると、それを待っていたかのように、正面から光の矢が飛んでくる。

「剣聖スキル 十字斬滅クロスアナイアレイション!!」

 光の矢を十字型に飛ばした斬撃で撃ち落とす。

 その斬撃の勢いは止まる事なく、魔王城の内部を貫通し、遥か彼方に飛んで行った。

 レイと俺の戦闘は1時間弱続いた。

 その度、元々半壊だった魔王城は更に破壊され、玉座の間だけでも天井はなくなっていた。


「うー寒いって、おい!レイ、魔王城を破壊し過ぎた!もっと加減をしろ!」

「キュンキュン!キュン!」

「何だよ、お前もな、見たいな目しやがって……」


 いや、まさにその通りである。

 剣聖スキルがあまりにも使い勝手が良いもので、つい乱発してしまい、近くの山だけでも何個か吹き飛んでしまった。

 俺は、今の体を馴染ませるため、レイに戦闘訓練を付き合ってもらっていたのだ。

 そして、同時にレイを観察して分かった事がある。


1.俺の魔力を使っているため、使役のような形になっていること。

2.言葉を発さずとも思念が伝わり、命令を聞いてくれること。

3.急に暴れ出すことはない

 

 レイの光魔法は中々の物で、様々な形に変幻自在、攻撃のパターンもレイ次第では無限にある。

 さすが、浄化魔法の超上位互換。


「キュン」


 レイは、俺の傍らまで近づき、自分の頭を俺の足に擦り付けてきた。

 レイを抱きかかえると、魔力枯渇を起こしたのか、すぐに寝付いてしまった。

 長い事戦闘していたからな、俺も加減をしていたとはいえ、剣聖スキルの攻撃が掠りでもさえすれば、致命傷になるからな。

 元々戦闘能力が低い、レイには荷が重かったようだ。


「色々と実験は終わったことだし、そろそろ」


 俺は次元収納に入れていたレジェンド素材を手に持つ。

 創造してもいいかも知れない。

 ぐっすり眠るレイをジッと観察する。


「俺も休むか」






 

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