第一章

第1話 永久呪縛


 あれ?どうなったんだっけ……。

 そうだ、家族が殺されて、その後は……。

 そういえば、死ぬ間際に永久呪縛のスキルを使ったはず。

 光に飲み込まれて……その後の記憶が曖昧だ。

 意識が朦朧としている中、俺の目の前で黒い靄が蠢いていた。

 おもむろに、その靄の方に向かう。

 触れてみてもいいのだろうか?


 手を伸ばし、その黒い靄に触れた。

 

 すると、あの光の世界から一転、どこか見覚えのある部屋に移った。

 ここは?

 広々とした空間だが、かなり廃れている。

 この建物はいたる所が破壊されており、風穴が空いていた。

 寒い季節なのか、凍えるような風が吹き抜けていた。

 見覚えがあるような……。

 半壊しているのは、戦闘の跡なのか。

 あれ?この禍々しい作りの玉座、見覚えがあるぞ。


 もしかして?ここは!


 ここは、魔王城の玉座の間であった。

 俺が座っている場所こそ、その玉座だったのだ。

 どうりで見覚えがあるはずだよ。

 俺は、自分の体とサイズの合わない玉座から降りた。

 その際に、玉座と床の高さに驚き、転倒してしまった。

 思ったより高かった……。

 起き上がろうと両手を床に付くが、すぐにその違和感に気づいてしまった。


「え!?」


 地面に付いた俺の手を見て声が出てしまった。

 その手は、灰色に染まっていたのだ。


「何だよこれ!それになんか小さくないか?」


 明らかに、手も体もだいぶ縮んでいた。

 俺は、鏡替わりになるものを探し、周囲を模索すると、大人一人分の高さのガラスを見つけた。

 何か歩きにくい……。

 すぐにガラスの方に向かい、今の自分の姿を見てみた。

 

 その姿は、14歳程の体つきで、体全体は灰色の肌に覆われ、紅く鋭い瞳、そして頭には魔族らしいき4本角が生えていた。


「おいおいおい、これ明らかに魔族だよな」


 自分の姿形に驚愕した。

 勇者の頃の姿とは、全くの別人つうか、ちょっと怖いぞ。

 というか何で俺、裸なんだ。

 さっきから異様に寒いなと思っていたが、素っ裸だとは。

 周りに誰もいなくて安心した。


「アイテムボックス」


 ん、ついアイテムボックスを唱えてしまったけど、今の俺は、勇者ユニスじゃないよな。

 流石に、スキルも無くなってるか……。

 と思っていたが、なんと俺の真正面からはアイテムボックスらしき空間が現れた。


 「って使えるのかよ」


 アイテムボックスの中に入っていた、貴族服に腕を通し、また玉座に座る。


「とりあえず、状況把握をしたいところだが、まずはこれを見てみるか」


 転んだ時に気が付いたのだが、玉座の傍に古い書物が落ちていたのだ。

 見た目からして、誰かの日記帳のようだが、勝手に読んでしまってもいいのだろうか。

「うーん」


 しかし、これ以外に手がかりになるものなんて近くにはなさそうだし。


「 誰のかは、知らないがすまん」


 俺は、その角が綻んでいる書物を慎重に開いた。

 その本に書かれていたことは


南歴633年

 私は、2代目魔王として復活してしまった。

 まさか、勇者として、初代魔王を討伐したというのに、その仕打ちがこれかと呆れてしまった。

 だが、次世代のため、私はこの書物に私が知るすべての事を記述しようと思う。


 永久呪縛、これは他者に掛けねば、一生拭えない呪いのようだ。

 この呪いに掛けられた者は、次の魔王ということになる。

 魔王になってから何度も自害しようとしたが、やはりすぐに生き返ってしまう。

 私を殺して……そして、その者が次の魔王にならない限り、私は何度でも復活してしまう。


 俺は、この本に書かれた事に、驚嘆してしまう。


「これが本当なら……」


 俺は、恐る恐る次の面を捲った


 南歴637年

 俺の前に、二代目勇者が現れた。

 彼と交渉しようと思ったのだが、仲間の偉そうな奴らが邪魔をしてきた。

 加減してやろうと思ったが、魔王になってから度々、殺戮衝動に襲われてしまう。

 強い精神力がない限り、自分でもコントロールできないようだ。すまなかった。


 南歴667年


 ・・



 俺は、本の続きに恐怖を抱き、閉じてしまった。

 この書物には強い精神操作が組み込まれているようだ、これを読み上げるには時間がかかる。

 気が付けば、俺はひどい汗を掻いていた。

 しかし、この文章と自分自身の体験を照らし合わせると現実味がある。


「もしかして、俺と戦ったのは、また別の時代の勇者様だったのか……」


 確か、あの時魔王は死ぬ直前に、『アンジェ』という名前を発していた。

 この名前を調べればすぐにわかりそうだが、優先順位的には後だな。


「ということは、俺も魔王になったのか?」


 調べてみるか、勇者時代に獲得していた『鑑定』のスキルがあるはず。

 俺は、右手を胸に当て、鑑定を発動させた。


「鑑定!」



 ユニス=ド=アーガネス(14)

 種族 魔人族

 スキル 『生物創造』『時間操作クロノス』『剣術(進化可能)』『鷹の目』『身体強化』『鑑定』『アイテムボックス(進化可能)』

 称号  勇者 戦闘時に全能力パラメータ100%上昇

     魔王 戦闘時にスキル発動時無敵効果。

 状態  永久呪縛 この呪いを掛けられた者は自害不可能、そして自分の命と引き換えに任意の相手にかけることができる。



「何じゃこりゃ!?」


 おいおい、色々と追加されてるし、進化できるスキルもあるな。

 魔王の称号、やはり獲得していたか。

 で、戦闘時にスキル発動時無敵効果!?なんだ、このぶっ壊れ効果!!

 でも、あの時の魔王は無敵化になっていたのか?

 魔王との戦闘の際、彼が無敵化になっているようには俺の目からは見えなかった。

 それか発動時の一瞬だけ無敵化になるとか?

 身体強化のように継続されている物には効果がないとか?

 考えれば考える程、謎が深まってくる。


「ん?生物創造?」


 スキル効果が俺の頭の中に情報として流れてくる。


 生物創造 素材マテリアルとアイテムと契約に必要な魔力を融合させることで、生物を創造できてしまう、魔王のみが持てるスキル。


「こんなもの最上級とは別格の、神級スキルじゃないか」


 生物を創造する、そんなもの創造神が持つ力に等しい。

 新たな生命を俺の手で生み出せる……。

 自分が新たに手に入れたこの強大なスキルに、固唾を呑んでしまった。

 しかし、生物を創造したとして、そいつが俺に従うのか限らないし、素材マテリアルが必要ってことはモンスターっぽい生き物ができるってことだよな。

 このスキルをどう扱うか迷ったが、とりあえず、後回しだ。

 今は、確実にできることをしよう。

 まずは進化可能なスキルを進化させるか。

 進化に関しては、何度か見た事があるから、やり方は覚えている。

 俺は、目を瞑り、魔力の貯蔵庫となっている心臓に魔力を集中させた。

 たしか、あの言葉を言うんだっけな。


「スキル進化の権利をここに宣言する」


 女神から頂くギフトは、既に進化されたものを受け取るのだが、自分で会得したスキルに関しては、熟練度などで、進化が可能になる。

 今回の場合は、人間から、魔人族になったことによる影響が高いだろうな。


『―承認しました』


 俺の脳内で『世界の言葉』が鳴り響いた。


「なあ、あんた何者なんだ?」


 この『世界の言葉』は、一体何者の仕業なのか、未だ判明していない。

 女神みたいに、姿を現してくれれば、わかりやすいんだけどな。


 俺の中の魔力と世界の魔力がリンクする。

 膨大な魔力の渦に飲み込まれそうになる。


『―進化を始めます』

『―剣術を剣聖に進化』

『―アイテムボックスを次元収納に進化』

『―成功。以上で終了します』


 魔力のリンクを外された。


「ぷは!!」


 初めてやったが、結構きついな、まるで、水の中で息を止めているような感覚だった。

 これで本当に進化したのか?


「鑑定」


 ユニス=ド=アーガネス(14)

 種族 魔人族

 スキル 『生物創造』『時間操作クロノス』『☆剣聖』『鷹の目』『身体強化』『鑑定』『☆次元収納』


「剣聖か、まさか、剣術が進化すると剣聖になるとはな」


 試しに使ってみたいが、胃の中が空っぽで空腹状態になっていた。

 魔王になっても腹は減るのかよ。

 俺はアイテムボックスに入れていた、なけなしの携帯食料を取り出そうとした。


「アイテムボックス……」

「……」


 おかしい、発動しない。

 そうか!これも進化していたな。


「次元収納!」


 すると、アイテムボックスとは違い、空間に黒い渦ができていた。

 これに手を突っ込んでもいいのだろうか?吸い込まれないのか?

 すると、また俺の脳内に情報が流れ込んできた。


 次元収納 その収納は無限に入れることが可能で、真空状態になっている、一応、生物も入れることを可能としている。


 生物も入れることが可能って真空状態だから多分死ぬよな。

 俺は、早い事この空腹を満たすために次元収納から携帯食料を取り出した。


「何で俺、いつもこればかり、食べてるんだろうな」


 味のしない、たいして栄養価もない、まずい。

 俺は、最後の一口が終わると、生物創造を使ってみることにした。

 次元収納には、勇者時代に集めたランクのある素材マテリアルとアイテムがいくつかあった。

 まさかこんな形で使うことになるとはな。

 勇者時代にいつかは使える、いつかは使えるとずっと考えていたが、やはり売らなくて正解だった。


 素材マテリアルと、アイテムにはランクが存在する。

 ノーマル エピック レア ユニーク キング レジェンド ワールド。

 レジェンド素材マテリアルになると、国一つが優に買えてしまう程だ。


 そして俺は、そのレジェンド素材マテリアルを何と二つ所持している。

 ・吸血鬼王ヴァンパイアロードの血液。

 ・世界樹の枝

 懐かしいな……、大変だったな~あの地下ダンジョン。

 吸血鬼王ヴァンパイアロードは、影移動で素早いし、生命力も甚大だったから長期決戦で辛かった。

 世界樹に関しては、妖精王が多種多様な精霊を召喚するもんだから、付け入る隙がなかったんだよな。

 ボロボロになって戦ったな……。


「しかし、これを使うのは流石に、スキルで生まれた生物に理性があるとも思えないし」


 俺は、眉間に皺を寄せ、手を組む。

 10分ほど悩んだ挙句、今は、やめとく事にした。

 そういい、次元収納の中に返すと、一つだけ目に止まる素材マテリアルを見つけた。


「これなら……」

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