プロローグ5 勇者ユニスの最後の家族 


 王城を脱出したユニスは、王都の街並みを疾風の如く駆け抜けた。


「おい、あれ、魔王の手下のユニスじゃないか?」

「本当よ、王城で監禁されていたんじゃないの?」

「皆!脱走だ!危ないから、離れるんだ!」


 国民は化け物を見るような目でユニスを見る。

 女共は悲鳴を上げ、男共は家族の盾となっていた。


「何で、皆……」


 馬車の中で窓掛けをしていたのは、こういう理由だったからか。

 すべてが賢者ソーレイの思惑通りに進んでいる。

 王都を囲む砦、その北口に大柄の男2名が立ちふさがっていた。

 それは、以前から門番を通るたび、わきへだてなく俺と話をしていた。

 カトリフ兄弟だった。


「魔王の手に堕ちた者よ!今すぐ止まれ、ならば命だけは助けてやる!」


 カトリフ兄弟は、自分の背丈以上に伸びた槍を持ち、俺に向けていた。

 こいつらまで、俺の事!

 こんなところで、戦闘をしている暇もないし、止まってる場合でもない。

 俺はそのまま、まっすぐ門の方に進んだ。


「止まらぬか?ならば死ね!!」


 俺に武器が効かないのは知っているだろうに、男共の槍を剣で受け止め、時間操作クロノスを発動。

 ボロボロになる槍を間近で見るカトリフ兄弟は、全く動揺していなかった。


「やはり流石だな、なぁ弟よ」

「そうだね、兄者」


 カトリフ兄弟は俺の目をまっすぐ見ていた。

 それは、魔王の手下と風評された俺ではなく、勇者時代に、この国を出る際、俺の背中を強く押していた時と全く同じ目だった。


「お前ら……」

「俺たちは門番だ、様々な悪人を見てきたが、お前はどこまでも善人な奴だ」

「ここは我と兄者で足止めしておく」


 すると、カトリフ兄弟は、隅に立てかけていた、自分の達が使っている『本当』の槍で、出口に立ち塞がる。


「「ここは我ら、カトリフ兄弟に任せろ!!」」


 カトリフ兄弟は、長年門番を任された立派な兵士だ。

これまで、彼らは多くの悪人を見てきた。

貴族だろうが何だろうが、この街の危険になると思えば、門を通すことはなかった。

 彼らこそ、権力に負ける事のない騎士道精神を貫いた本当の騎士だ。


「お前ら……ありがとう」


 俺は、カトリフ兄弟の背中にお辞儀をし、すぐにアーガネス領に向かった。

 

 向かう道中豪雨が降りそそぐ。


「クソ、地面がぬかるんで、走りにくい」


 近道に山を越えようとしたが、その山に住む、ウルフの集団が俺に襲い掛かってきた。


「!?」


 真正面から二匹、茂みから10匹、俺を挟んで襲い掛かる。

 身体強化を足にかけ、木の上まで跳躍した。


「あれは?」


 白い毛皮に獰猛な牙、狼とは思えないほどの連携、そしてその知能の高さ。

 白狼ホワイトウルフか。

 見たところ30はいるな、あいつらから逃げるのは困難だ。


「これでも食ってろ!」


 俺は、アイテムボックスに入れていた、大量の野ウサギの肉を置いた。

 白狼ホワイトウルフ共はそれに食いつき、俺の興味を失くした。

 だが、一匹を除いて。

 それは、白狼ホワイトウルフの長、 白狼王キングホワイトウルフだけは 俺から目を離さなかった。

 勘弁してくれ、お前と一線交える暇はないんだ。

 そもそも白狼ホワイトウルフは内の領と近隣の領との境にある山の守り神だ。

 こいつらは、滅多なことがなければ人間を襲わないし、村人被害を起こしている猪と熊を餌として駆除している。

 何でこいつらが俺を襲うんだ?


「俺は、お前らと争うつもりはない」


 白狼王キングホワイトウルフは、俺を見定めているのか、じっと見ていた。

 そして俺の思いが伝わったのか、警戒を解き、他の白狼ホワイトウルフと共に、その場を去った。


 俺は山を越えた。

 アーガネス領が少しずつ見えてきた。

 アーガネス領は作物が豊か土地なのだが、その畑は何者かに荒らされており、野菜は踏みつぶされていた。

 おかしい、住民の気配が全くない。


「ミリヤ!どうか無事でいてくれ!」


 すると、畑の傍で倒れている住民を見つけた。


「おい!大丈夫か?」


 その者は、藁の帽子を首にぶら下げており、畑仕事用の作業着を身に着けていた。

 よく屋敷に野菜を分けてくれる老人だった。

 触れてみるが、すでに冷たく息をしていなかった。


「これも、王国のやつらがやったのか……」


 屋敷に向かうが、また同じような死体を数十人見かけた。

 死体の住民を見かける度、俺の心に黒い何かが積もっていた。

 屋敷の方から黒い煙が上がっている。


「あそこか」

 

 屋敷の方にたどり着くと、一人の隊長らしき人物を筆頭に20人弱の兵士たちがいた。

 兵士たちは、次々と死体となった住民を炎の中に入れていた。


「お前ら一人残さず殺せ!ここの住人も屋敷のメイドもだ!決して逃がすんじゃないぞ!」


 燃やされている死体の山は、あたり一面を赤くしていた。

 こいつらが、やったのか……。

 こいつらが、何の罪のない住民や、使用人を殺したのか。


「お前たち、屋敷にも火を付けろ!」

「隊長!あそこに生き残りがいます!」


 一人の兵士がユニスの方に指を指すが、それが勇者ユニスだとは気が付いていなかった。


「ほー、まだ生き残りがいたのか、そのまま隠れていれば、良かった者の」


 この部隊の隊長が腰に付けた剣を抜かず、余裕な表情で近づいてきた。


「潔く出てきた褒美に、この私、第二騎士団長ノルド=ドロフィカルが直々に首を刎ねてやろう、光栄に思うが良いぞ」


 そう言いながら、ノルドは腰に付けた剣を抜く。

 その剣は、新品のように全く使われた形跡がなかった。

 この者は、親の権力だけで、この地位に上り詰めたのであろう。


 剣の構え、佇まい、どれをとっても三流以下。

 弱いものにしか威張れず、逃げるものには容赦なく剣を振り下ろす。

 これが騎士団長?

 この国はどこまで腐っているんだ!


「私に怯えて声も出ないか?」

「お前たちがこれをしたのか?」

「はぁ~?何々?き こ え な い~」


 小馬鹿にした態度で顔を近づけてきた。


「お前たちがこれをしたのかと、聞いたんだ!!」


 ユニスの殺気が周りに伝わる。

 間近で食らったノルドは、腰を抜かし、尻を地面に打ち付けていた。


「おま、おま、お前!」


 ひどく動揺したノルドは、ガクガクと口を開けていた。

 暗い豪雨の中、雷の光で、ノルドを見下ろしていたユニスの顔が見えた。


「お、お前!!勇者!?」


 ノルドは、目の前の人物がユニスだということに気が付き、更に驚愕した。


「あ、ありえん、勇者は今頃王城で殺されているはず!」


 ノルドが慌てている最中に一瞬で、左足を切り落とした。


「ギャー!!!俺の足が!!!」


 兵士の方に左足が転がる。

 悶え苦しむノルドを、ただ呆然と見る兵士たち。


「妹はどこにいる?」

「俺の足!俺の!俺の!!!」


 質問に答える余裕のないノルドを、容赦なく蹴り飛ばした。


「ふうー!!苦しいぃぃぃ!!!」

「もう一度聞く妹はどこにいる?答えなければ次は右足を切る」

「ふうー!ふうー!うぅー」

「仕方がないな」

「こ!こたえる!!!ミリヤ=ド=アーガネスは、もうここにはいない!あのクソ執事と一緒に南の山に逃げちまった!俺の兵士たちが探しに行ってる!」


 ということは、入れ違いか。

 あの山で白狼ホワイトウルフが暴れていたのは、こいつらのせいだったのか。

 早く引き返さなければ。

 踵を返し再び山の方に戻ろうとすると、兵士たちに囲まれた。


「お、お前!!私をこんな目に合わせておいて、この場から逃げられると思ったのかぁ!?」


 必死な反抗だな。

 そもそも、このアーガネス領の大切な住民や使用人を殺している時点で、こいつらの死は確定している。

 ユニスを囲んでいる兵士たちは、雨の冷たさのせいなのか、ユニスの殺気に当てられたなのか、ガクガクと体を震わせていた。


「お前らの相手は後でちゃんとしてやる、だから、今はそこをどけ」


 殺気に耐え切れなくなった兵士たちは、すぐに道を開けた。


「おい!お前たち何をしている!!早くそいつを殺さんか!!」


 兵士達は、ノルドの命令より、自分達の生存本能を優先してしまったのだ。



 すぐに山に戻り、ミリヤが逃げたであろう痕跡を確認しようとしたが、この豪雨のせいで、すべて消えてしまっていた。

 俺は、大声で呼びかけ、山の中を駆け回った。


「ミリヤ!どこだ!!」


 この広い山で探すのは難しいか。

 雨のせいで、音さえ掻き消される。

 ならば、目で見つけるしかない。


「身体強化!」


 身体強化で森の上を突き抜けるほどの大樹に登る。

 枝と枝の間を飛び越えすぐに頂上まで辿り着く。


「鷹の目!」


 スキル鷹の目、空から地上を見渡すように、3000m先の小動物の動きまで観察できるスキルだ。

 森を見渡すと、森林がバタバタと切り落とされている箇所が見える。

 そこには、後から追ってきた。騎士ダンケン率いる兵士たちと、白狼ホワイトウルフの群れとの戦闘だった。


「もうあんな所まで追ってきたのか」


 それよりも、もっと何かミリヤの手掛かりはないのか?

 俺は、更に目を凝らして見渡した。

 小動物の動き、雨の一粒、風の流れ、五感を研ぎ澄ませろ。


「ん?あれは?」


 ダンケンの戦っている場所から数キロ離れた個所で、強い風が吹き抜けている事がわかる。

 あれは風魔法の類、セバスの魔法か!


 魔法が放たれた場所に向かう。

 兵士たちの声が聞こえてきた。


「この爺!さっさと死にやがれ!」


 セバスがいる場所まで辿り着いた。

 そこには、満身創痍のセバスと、その後ろには車椅子に座っている妹ミリヤがいた。


「セバス!!」


 俺の顔を見るや否や、セバスは安心した表情で倒れる。


「私の役目は果たしましたぞ、旦那様」

「いやよ!セバス!」


 ミリヤはセバスが目の前で倒れ、泣き叫ぶ。


「ミリヤ!」

「お兄様!?」


 ミリヤのところまで駆け抜けようとするが、王国の兵士たちは、俺の方に突撃してくる。


「邪魔だ!」


 全身に身体強化!

 目では追えないスピードで、兵士たちの間をすり抜ける。

 その時に、強化した拳で数十人の兵士を一蹴した。

 倒れる仲間を見て、何が起きているのか理解できていない。


「助けてくれ!!!!」


 一人の兵士が叫び声をあげ、その場を離脱してしまう。


「おいおい、任務を放棄する気かてめぇ」

「え、いえ、そんな、お許しを……」


 逃げていった兵士の首が切り飛ばされる。

 茂みの方から、大剣を掲げた大男が現れる。

 騎士ダンケンだ。


「案外すぐに見つかったぜ、なぁユニス!」

「ダンケン……白狼ホワイトウルフはどうした?」

「ああ、こいつのことか?ほらよ」


 片手に持っていた白狼王キングホワイトウルフの生首を、俺の前まで投げ飛ばした。


「結構強くてな、でも、仲間の狼が傷つきそうになると守るんだわ、このデカい奴、バカだよな~」


 あの白狼王キングホワイトウルフがこんな奴に負けるなんて、悔しかっただろうな、俺が、お前の仇をとってやる。

 生首となった白狼王キングホワイトウルフの瞳から紫色の血が流れていた。


「自分の子や、仲間を守るのは強者の務めだ、お前みたいに仲間を平然と殺すような奴は騎士でも、強者でもない」

「おいおい、ソーレイみたいに俺を説教するのか?この裏切り者がよー!」

「裏切ったのは、お前らだろが!」


 左足を思いっきり踏み込みダンケンの懐まで近づく。

 それにすぐに反応し、向かい打つダンケンは、竜をも一刀両断してしまう大剣で、俺の脳天を狙いにいく。

 それを紙一重で避ける。

 そして、地面に沈む大剣に触れ、時間操作クロノスを発動させた。


「おいおい、いきなりかよ!」

「!?」


 ダンケンはすぐに大剣を放し、その拳を俺の頬に直撃させた。


「グハ!!」

「お兄様!」


 妹の近くまで吹き飛ばれてしまった。

 歯が何本か砕けた。

 口の中に溜まる血と欠けた歯をすぐに吐き出した。

 初手を貰ってしまったが、ダンケンの大剣は崩壊させた。


 すると、ダンケンは右指に魔道具らしき指輪を嵌める。


「おいおい、俺がお前と何年一緒に冒険してきたと思ってんだ」


 ダンケンの指輪から魔法で作られた大剣が現れる。


「!?」

「驚いてんなユニス、俺が無策でお前に挑もうと思ったか?」


 なんだ?あの剣は、あの指輪の効果か?


「これは、魔力を収縮させ、イメージの剣を再現させるものだ、それにこれは固体じゃないから、お前の時間操作クロノスの影響も受けない」


 俺の戦闘スタイルは、相手の武器を無力化させてから攻撃することが多いが、あれでは、無力化は難しいな。

 ここからはお互いの技量だけで勝敗を分けることになる。

 

 ユニスの野郎のスキルはこれで封じた、あいつとは長年冒険した中だ、俺より力は圧倒的に下!さっきの殴りだけで、もうふらついている。

 スキルさえ封じれば、あんな奴そこらへんにいる平民と大差ない。

 絶対に勝てる!


「死ね!!ユニス!!」


 ダンケンは、ユニスの方に近づこうと、足を一歩踏み込んだ。


「身体強化……」


 その瞬間、ダンケンの左腕が吹き飛ぶ。

 雨の一粒一粒を視認できぬように、ユニスの姿は気付いた時には消えていた。


「ダンケンお前は、力はあるが、遅すぎる」

「はあ?あれ?」


 ユニスは、ダンケンの背後に回り込んでいた。


「!!!!」

「ダンケン、お前たちは俺から奪いすぎたんだ、こうなる事は承知の上だろ」


 ダンケンは、切り落とされた左腕の痛みが遅れてきたのか、その場で、膝を突く。


「ま、待ってくれ!俺はソーレイに脅されているんだ!あいつの言う事を聞かねぇと、俺の一族全員が殺されちまう!!」


 急に、何を、言ってるんだこいつは……。

 下手な命乞いか?

 でも、これが本当の事だったら。

 いや落ち着けそんなはずがないだろう。

 だけど、冒険者時代、ダンケンは家族思いな奴ではあった。


「俺を待つ家族がいるんだ!」


 首にぶら下げているロケットペンダントからには、家族の写真が見えた。


「ダンケン、お前も俺と同じで……」

「なわけねぇだろ!」


 ダンケンは、指輪の効果で大剣から投げナイフに変え、妹ミリヤに向かって投げる。

 動揺してしまった俺は、ほんの一瞬だけ動くのが遅れた。

 もうだめだ、追いつかない!


「避けろ!ミリヤ!!」

「お兄様!!」


 肉が裂けるような嫌な音が鳴る。

 ナイフはミリヤの心臓に突き刺さっていた。


「……嘘だろ」


 すると、ダンケンが俺の背後を取り、新しく創った大剣で肩から脇腹まで斜めに切り下ろす。

 妹にナイフが突き刺さり完全に気を取られてしまっていた。


「この外道が……」

「はっはっはっはっはー!やっぱりお前みたいな奴は、大切な人を傷つけられると、隙だらけになるよな!」


 もう無理だな、立ち上がる事も出来ない。


「ジュピターには感謝しないとな、この指輪の魔道具を貸してくれたおかげで、ユニスを殺すことができた!」

 

 


 俺は、とうとう全てを失ったのか、家族、使用人、アーガネス領の住民も何もかも。

 すると、車椅子から倒れたミリヤが少しずつ近づいてきた。


「おにいさま」

「ミリヤ……」


 俺も最後の力を振り絞り、妹の所まで体を引きずる。


「ごめん……俺、何も守れなかった……父さんも母さんも、お前も……」

「おにいさま……手を握ってください」


 ミリヤの弱弱しく、すぐにでも消えそうな手を握る。


「やっぱりお兄様は温かいですね」

「ミリヤ……」

「そのまま握っていてください、一人で逝くのは寂しすぎますので」

「ミリヤ、何でもっと俺を責めないんだよ、俺は家族一人も救えないクソ野郎だろ」


 俺の心はもう疲れ切っていた。

 ここに来るまで、色んな人の死体を見てきた。

 何も守れない、自分の不甲斐なさに、もううんざりしている。

 命を懸けてミリヤを守っていたセバスにも、俺を逃してくれた両親にも、あの世で顔向けなんてできやしない。


「おにいさま……どうか自分を呪わないでください」

「ミリヤ?」


 ミリヤの目が遠くなっていき、手の力もなくなってきている。


「ミリヤは、お兄様の妹で本当に良かったと思っております」

「おい、やめてくれ」

「愛しております、おにいさま……」


 ミリヤの瞳から光が消え、握っていた手はぱたりと力が抜けた。


「あああああああああああああ!!!」


 妹の死と共に、俺は横にうずくまり泣き叫んだ。




 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。




 俺の中にため込んでいた黒い靄が一気に体外に放出し体を包み込んだ。

 憎いすべてが憎い、俺から奪った王国も、ギフトなんてものを与えた女神も、仲間だと信じていたソーレイ達も!


 全てを壊したい!!


 すると、頭の中で誰かが、俺に呼び掛けてきた。


『ユニスよ、使うのだ、そのスキルを』

「!」


 周りには誰もいない、ただ黒い靄だけが周囲を囲んでいた。


『永久呪縛のスキルを使え』


 永久呪縛?

 このスキルは、命を代償に世界を覆す程の事象を起こせる能力だったはず。


『使え』


 頭の中でうるさい、一体だれが俺に話しかけているんだ!


『それを使えば、王国に復讐できる』

「!?」

『お前の命が尽きる前に使え』


 俺は、ダンケンの攻撃でいずれ命尽きてしまう。

 永久呪縛、これを使えば何が起きるのか全く見当がつかない代物だ。

 でも、いずれ尽きる命をただ待つよりは。

 最後の足掻きとして永久呪縛のスキルを使うのもいいかもしれない。

 いや、迷ってる暇などない。


「わかった、使う」

『良い判断だ、では、そのスキルを唱えよ』


 こいつが何者かは知らないが、今はどうでもいい。

 このスキルを使い、俺は王国を復讐してやるんだ!

 残り少ない魔力を心臓辺りに集中させた。


『説明するまでもないようだな』

「お前がどこの誰かは知らんが、俺は俺の意思で発動させる!」


 やばいな、意識が朦朧としてきた。

 目を瞑るな!集中しろ!


「永久呪縛!!」


 スキルを唱えた瞬間、天空から光の柱が俺に降り注いだ。

 呪いとは裏腹に心地のいい光だ。


 ダンケンと兵士たちは目の前で起きていることに全く理解できず、驚愕していた。


「おいおい何が起きてるんだ!?」


ユニスの体は分子レベルに消えていく。


何が呪いだよ、これじゃただの天国へのお迎えじゃないか。

俺は最後の最後まで騙されたのか。

でもこれで、親愛なる家族の元に行ける。

待ってていて、父さん、母さん、ミリヤ……。



南歴836年 勇者ユニス 死亡


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