第27話 エピローグ

 まぶたの裏にチラチラと光がうつった気がして、パッと目が覚めた。

 体を起こして、びっくりする。だって、ふわふわのベッドで寝てたんだもん。


「どこここ⁉」

「起きたかよ」

「クロウ⁉」


 ベッドの下の床で、あぐらをかいて座っていたクロウがわたしを振り仰いだ。


「お、おはよう」

「オハヨウ」

「ここって……」

「あいつの家。所長さん」

「ええ! そういえば、見おぼえがあるかも?」


 本採用試験の前に、寝てた部屋にそっくり。って……。


「し、試験は⁉ わたし、どうなったの⁈」

「あんた魔力切れで寝たんだよ。試験は知らねー。あいつに聞けばいいだろ」

「そ、そっか! 所長さんは下?」


 クロウがうなずいたから、わたしはベッドから出て急いで一階に向かった。


「お。リディルちゃん。おはよう」

「お、おはようございます! あの、わたし昨日……試験……」

「そうそう。その話をしようと思ってたんだ。座って」

「はい……」


 おそるおそる、ソファに腰かける。

 これから試験の結果発表ってことだよね。

 どうしよう。落ちてたら。昨日いつのまにか寝ちゃったみたいだし。

 試験中に寝るなんてって、不合格になっちゃうかも。


「リディルちゃん」

「は、はい!」

「合格おめでとう。今日から正式にウチの召喚士としてよろしくね」


 合格。

 その言葉が頭のなかで何度もひびいた。


「ご、合格……。ほんとうですか?」

「うん。ほんとう。それで、リディルちゃん、よければウチの二階に住む?」

「……へ?」

「部屋二つあまってるし、リディルちゃんとクロウで、それぞれ一部屋ずつ貸すよ」

「え。ほ、ほんとうですか⁉ あ、でもお家賃……高いですよね」


 ベッドもあるし、わたしのお家みたいにすきま風もない、しっかりした造りだもん。ぜったい高い!

 でも所長さんはカラカラと笑って、顔の前で手をふった。


「やだなー。従業員だし、お金は取らないよ。お給料からの天引きもなし」

「うそ……」


 家賃がいらない⁈

 そんなことあるの? 本採用って、すごい!


「リディルちゃんがいっぱい頑張って、もっと広い部屋がいいってなったら、いつでも出て行ってかまわないよ。どう?」

「お、お願いします! 住みます! ねっ、クロウ!」


 ちょうど階段からおりてきていたクロウに話題をふる。

 クロウはいぶかしげに眉をよせて、わたしを見た。


「クロウもいいっていってます!」

「おい。いってねえだろ。なんの話だよ」


 クロウに経緯を説明すると、最初はいやそうにしてたけど、最終的に納得してた。

 いい環境のほうが魔力が回復するとかなんとか。

 やっぱり、クロウ、あのビンボーな家じゃいやだったのかな。


 もっとがんばらないと!




 お引越しのために、一度クロウとわたしのオンボロ家にもどってくる。

 必要な本とかを選んでいると、召喚獣図鑑がでてきた。

 それを見て、昨日会った気がするきれいな男の人を思い出す。

 薄紫色の髪をしてて、クロウのことを『王』って呼んでた。

 それってつまり……。


「ね、ねぇ……。クロウって、王様だったの?」


 おそるおそる話しかけると、クロウはニヤリと笑って、小首をかしげる。


「王様には、ていねいに接しなきゃいけない、だったか?」

「うっ。いじわる」


 やっぱり覚えてた。

 ジオンさんが元王様ってわかったときに、わたしはクロウにそういったんだよね。

 クロウも王様だったなら教えてくれたらよかったのに。


「王っていっても、向こうではってだけだし、こっちではただのあんたのパートナーだろ」

「そ、そう? 不敬とかいって、ひどいことしない?」

「あんたの世界の王はそんななのかよ」

「ちがうと思うけど、わからない。会ったことないもん」


 小さな声で答えると、クロウはちいさく笑う。


「クロウの世界、王様いなくていいの?」

「今はあのオルティットが代理でやってる」

「あの人、ちょっとやつれてたよ」

「……ま。なんとかなるだろ」


 大丈夫なのかな。

 それにしても、召喚獣のいた場所って、思っていたよりも人の世界と似てるのかも。

 ほんとうに、クロウ以外にも人みたいな召喚獣がいたし。


「ねぇ、ジオンさん、ちゃんと帰れたんだよね?」

「ああ」

「そっか。ならよかった!」


 いろんなことがあったけれど、なんだか無事に解決できたみたい。

 正式な召喚士として認められるのも、きっとすぐだよね。


 なんだかやる気がみなぎってきて、わたしは素早く手を動かして荷物をまとめた。


 引っ越しは、専門の人に依頼しなきゃだめかなって思ってたけど、クロウが魔法でなんとかしてくれた。

 荷物をちっちゃくできるんだよ。

 魔法ってほんとうにすごい!


 そして、所長さんからもらったあのお洋服を着て、あらためてよろず屋探偵事務所の扉をたたく。

 顔を出した所長さんに、クロウと並んで頭をさげた。


「あらためて、リディル・ベロワーズです! 今日からよろしくお願いします!」

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見習い召喚士リディルの冒険~落ちこぼれは卒業です!~ 塩羽間つづり @TuduriShiohama

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