第15話 魔力のしくみ2

 どうしよう。

 買いすぎちゃったかも!


 クロウがとなりでこれがいい、あれがいいっていうから、ついつい買っちゃったよ。

 両手にいっぱいの荷物をかかえて、家まで歩く。明日からの生活が心配でドキドキしてきた。

 でも召喚士になれたから、ちょっとは楽になるはず、だよね。あれ、でもよくよく考えたら正式には認められていないし、どうなるんだろう⁈


「おいリディル。あれは?」


 クロウに声をかけられて顔をあげる。クロウは広場の中心にあるコアエッグを指さしていた。


「あ、あれはね、コアエッグっていって、生活の必需品みたいなものだよ」

「コアエッグ?」

「うん。電気も水も火も、全部このコアエッグから供給されてて、蛇口をひねったらきれいな水が出るのも、コンロの火がつくのも、家が電気で明るいのも、全部このコアエッグのおかげなんだって」

「ふぅん。そういうモンはあるのか」

「近くで見てみる? キラキラしててきれいなんだよ!」


 クロウといっしょにコアエッグに近づく。広場のまんなかで厳重に保管されている透明なタマゴ。

 宝石みたいにキラキラしていて、けっこう大きい。わたしの身長の半分くらい。


「へぇ……。魔力変換装置か? つか、こんなモンがあるのに魔力知らないってどうなってんだよ。それに、この仕組みって……」


 クロウってば、またむずかしいことをぶつぶついってる。クセなのかな?

 興味深そうにぐるぐるとコアエッグを見てるクロウを待っていると、ふと、背後に気配を感じた。なんだろう? と、ふり返るより先に、うしろからガバッと抱きしめられた。


「セラ!」

「うえ⁉」

「よかった。こんなところにいたのかい? ずっと探したんだよ」

「え、え。ええ⁉」


 なになになにー⁉ なんか、人違いされてる⁈


「ようやく会えた。ずっと、キミに会いたかっ……」


 匂いを嗅ぐように鼻を近づけられたと思ったら、とつぜん抱きしめられていた力が弱くなって、離れていく。おそるおそるふり返ると、男の人がわたしのうしろでたおれていた。


「ええ⁉ く、クロウ! クロウ助けて!」

「リディル?」


 ようやく現実にもどってきた顔をしたクロウが、わたしのところまで歩いてくる。


「どうした?」

「わ、わかんない。なんか人違い? この人、急にたおれちゃって……」


 かんたんに説明して、わたしのうしろでたおれている人を指さす。クロウが地面にうつぶせになっている男の人をゴロリと転がした。そして、その人の顔を見て、驚いたように息をのむ。


「……先々代?」

「へ?」

「おいリディル。こいつ連れて帰るぞ」

「ええ⁉ い、いいけど……。たおれちゃったから心配だし。でもわたし運べないよ?」

「俺が運ぶに決まってんだろ」


 そ、そっか。ならいいかな?

 クロウが自分の体より大きな男の人を背負った。そのかわり、わたしが持つ荷物は増えたけど、しょうがない。これも人助けだよね!



 なんとかわたしのお家までたどりついて、ひとつしかないボロボロのベッドに男の人を寝かせる。

 腰までありそうなサラサラの銀髪が、わたしのまくらに広がった。きれいな顔。クロウと同じくらいきれい。


「なんで先々代が?」

「その先々代って、まえにクロウがいってた、この世界にきた人型の召喚獣?」

「ああ。この世界にきて、もどってきたらしい記述はあったが、その後消息不明になってた人だ」

「そ、そうなんだ」


 話しながら立ち上がって、タオルと水の張ったオケを用意する。そしてタオルを水につけてよくしぼって、汚れちゃっていた男の人の顔をふいた。

 きれいな顔がもっとピカピカになった。


「というか、この人のパートナーは? この世界にいるってことは、パートナーがいるはずだが……」


 そういえば、この人、なんていってたっけ?

 わたしのことを、「セラ」って、呼んでた?


「えっと、もしかして、セラさんって人かも。わたしのこと、そう呼んでたよ。あ、でも……」

「どうした?」

「ずっと探してたって。もしかして、召喚士とはぐれちゃったのかな?」

「……そんなことはないと思うが。パートナーがどこにいるかは魔力でわかる」

「そうなの?」

「はぐれたヤツなんて見たことないだろ?」

「そういわれてみたらそうかも」


 召喚士と召喚獣はずっといっしょにいるって聞いたことあるもん。


「まぁ、目が覚めたら聞いてみるか……」


 そういえば、パーティーの予定だったけど、こんな空気でパーティーしてもいいのかな。なんだか深刻そうだし。


「えっと、ごちそうは明日にする?」

「は? なんで」

「だって、たおれちゃってる人がいるのにパーティーって、どうかなって」

「気にする必要ないだろ。それに、あんたはもっと食ったほうがいい」


 そういってクロウは立ち上がって、わたしのお家にあるオンボロの台所に向かった。

 そして買ってきたお肉やパンをならべて、冷蔵庫のなかを物色して野菜を取り出して包丁をもつ。


「クロウお料理できるの⁉」

「まぁ、一応は。あんたのチカラが安定してりゃもっとらくなんだけど」


 手際よく野菜とお肉を切っているのをうしろからながめた。

 すごい。そういえば、生成系が得意な子のなかには、材料をならべるだけでごちそうにしてくれる子もいるって聞いたことがある。

 クロウは生成もできるみたいだし、だからお料理もできるのかも?

 って、ぼーっとしてないでわたしも手伝わなきゃ!


 クロウのとなりに立って、ふわふわのパンをならべてオーブンで焼く。それからとろっとろのクリームシチューをつくるために、お野菜をいためてお肉をかるく焼いて煮こむ。

 しばらくすると、いい匂いがしてきた。


「あの人、起きないのかな?」

「だいぶ弱ってるからな。しばらくは起きないんじゃないか?」

「そうなんだ……」


 せっかくだから食べてもらいたかったけど、しょうがないね。起きてからにしよう。


 オンボロテーブルにシチューとパン、それからサラダに、なんとなんとなんと! 大奮発のケーキ!

 誕生日のときくらいしか食べたことのない、ケーキ! 白いクリームがのってて、美味しそう!

 代わりにお財布はやせ細っちゃったけどね。まぁ、今日くらいはいいんだ。パーティーだから!


「それじゃあ、クロウの歓迎会と、わたしの召喚士祝い! かんぱーい!」


 水の入ったコップを合わせて、つくったばかりのシチューをひと口食べる。


「んんんん~! 美味しい! いつもより美味しい気がする!」

「まぁまぁだな」


 クロウもふつうに食べてる。よかった、お茶のときは嫌そうな顔してたし、また口に合わなかったらどうしようかと思った。


 もぐもぐと食べていると、どこからともなく苦しそうなうめき声が聞こえてきた。びっくりして食べてた手を止める。

 ベッドで寝ていた男の人からだ。立ち上がって、ベッドのほうへいく。男の人は顔を赤くして、苦しそうに息をしていた。そっと、ひたいに手をあててみる。


「わっ。あつい。クロウどうしよう、熱があるみたい」

「めずらしいな。体調を崩すなんて……。生きてるのがふしぎなくらいなのか」


 クロウもベッドの近くにやってきて、男の人の顔をながめて、頭とか手とか首とかにさわっていた。どうやら、体調を見てるみたい。


「召喚獣って風邪ひいたりしないの?」

「チカラを使いすぎて疲れるとかはあるけど、熱を出したりはないな。ひん死のときくらいか?」

「え! じゃあ、この人……」

「……そういうことだろうな」


 死にかけてるってこと⁉


「どうにかして助けられないの?」

「回復薬はないのか?」

「回復薬って、召喚獣がつくる? そんな高級品うちにはないよ……」

「材料もないのか?」

「うん……。材料もすっごく高いよ」


 クロウがむずかしい顔をしてだまっちゃった。

 うう、わたしがビンボーじゃなければ!


「あ! でも、ミリラの森にあるはずだから、明日所長さんに聞いてみよう!」

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