第16話 材料集め1
「なるほどねぇ。ひん死の男を助けるために回復薬がほしい、か」
「は、はい! 材料とかあったり……」
「残念だけど、今はないんだよねぇ」
「そうですか……」
がっくりと肩を落とす。
死にかけの男の人を助けた次の日、さっそく所長さんに相談してみたんだけど、やっぱり回復薬は高級品だからそうかんたんには手に入らないよね。
「でも、クロウはつくれるんでしょ?」
「た、たぶん?」
チラッととなりに座っているクロウを見る。
「だったら、とりあえず研修として回復薬をつくろうか。ウチとしてもあると助かるからね」
「それって!」
「うん。リディルちゃんのお仕事内容。回復薬をつくること。もちろん、森にはいっしょに行くよ」
「わあ! ありがとうございます!」
「ついでに森で集めるものをリストアップするから、ちょっと待ってね」
そういって、所長さんは立ちあがって戸棚から分厚いファイルを取り出した。そして、ファイルをテーブルの上において、そのとなりに白い紙をならべる。
またふしぎなことをするのかも。ドキドキしながら所長さんの手を見ていると。所長さんは閉じたままのファイルをトントンと二回たたいた。
すると、ファイルにふわっとふしぎな模様……魔法陣みたいなのが浮かびあがって、真っ白の紙にかってに文字が書かれていく。
す、すごい! でも、いったいどうなっているの?
しばらくすると文字が書かれていくのが止まって、所長さんが白い紙を手にとった。紙に目をとおした所長さんは満足そうにうなずく。
「うん。オーケー。それじゃあいこうか」
本当に、所長さんって、なにものなんだろう?
街を出てさらに南に向かって歩いていくと、青々と茂った森が見えてくる。
あれが、ミリラの森。召喚士なら絶対に知っておくべき森のひとつだって聞いた。魔法付与アイテムをつくるなら、絶対にいかなきゃいけない森。
でも危険な生きものもいるから、一人前の召喚士になってからじゃないとだめなんだって。ケガをしたり、もっとひどいと死んじゃうこともあるみたい。
わたし、一人前どころか実技試験不合格なのに大丈夫なのかな……。
ドキドキしながら所長さんのうしろを離れないように歩く。
「そんなにおびえなくても、今日はそこまで深いところにいかないよ」
「も、モンスターみたいなのがいるって聞いてますけど、本当ですか?」
「それはまぁ、いるかな。でもたいしたことないよ。リディルちゃんにはクロウがいるでしょ?」
わたしはとなりにいるクロウを見た。ひょうひょうとした顔をしている。こわくないのかな?
「クロウはこわくないの?」
「あまり強いやつがいる気配もないからな」
「そういうのわかるんだ」
「まあな」
じゃあ、クロウにくっついてれば安全ってこと?
わたしはクロウの腕にぎゅっとしがみついた。
「おい、くっつくな」
「だってだって、ちょっとこわいもん。クロウはわたしの召喚獣でしょ? 近くにいたほうがいいかなって!」
「近すぎだ」
そんなこといったって。迷子になっちゃったり、おいてかれたりしたら大変だもん!
ふつうの召喚獣は肩にのせたりするって聞いてたけど、クロウを肩にのせるのは大きすぎてできないし。しょうがないよね!
ぎゅうぎゅうとクロウの腕にしがみつきながら、おっかなびっくり森の中に入っていく。
どうしよう。クマみたいなおっきなモンスターがでたら。なにも会いませんように。
わたしの祈りがつうじたのか、こわそうなモンスターに会うことなく、目的の薬草のところまでこれた。
「ここにある薬草が回復薬の材料のひとつだから、覚えておいてね」
「は、はい」
「名前はヒルラ草。図鑑とかで見たことある?」
「街の素材屋さんで見たことあります」
「おー。そっかそっか。勉強熱心でえらい!」
ほ、ほめられちゃった。
にまにまと頬をゆるませて、所長さんのとなりにしゃがみこむ。
「特徴は、茎に黄色い一本の線が入っていること。それから、葉っぱに青いしま模様がある」
「な、なるほど」
「すごくにている草はないけど、クキが赤くて葉が青いしま模様とかはあるからまちがえないようにね。まぁ、そっちは毒消しとかに使えるからとってきても問題ないけど」
「そうなんですね。覚えておきます!」
「うんうん。いい返事。それじゃ、とったらこのカバンのなかに入れてくれる? 根っこも使い道があるから、できたら根っこからとってね」
「わかりました!」
さすが所長さん。物知りだなぁ。
所長さんの説明のとおりに、うんしょうんしょと根っこから引っこぬいていく。
一本ぬいてカバンに入れて、またぬいてカバンにいれて。そしてふと、クロウが木の下でサボっているのに気づいた。
「もうっ、クロウも引っこぬいて!」
草片手に近づくと、クロウは気だるそうに片目を目をあける。そして、パチンっと指を鳴らした。
びっくりして身構えるけど、なにも起きない。な、なんだ。イタズラでもするのかと思った。
「チカラが使えないからめんどう。却下」
「へ? つ、使えないの?」
「使えない」
う、うそー!
クロウがチカラ使えないと回復薬だってつくれないし、そ、それに、こわいモンスターが出たら……。
「で、でも昨日は大きな火を出してたよね?」
「つぅか、チカラが使えないのは俺じゃなくてあんたのせい」
「わ、わたし?」
「俺はあんたの魔力を使ってチカラを使ってる。膨大な魔力もってるくせして、こっちに魔力が流れてこねえんだよ。わざとか?」
嫌そうに見られて、手と首をぶんぶんふる。
「し、知らないよ。でもチカラ使えてたときもあったでしょ?」
クロウは沈黙して、チラッとわたしを見てくる。そして、わたしの手首をつかんで、グイッと引っ張った。
「わ、わっ! もう、急に引っ張らないでよ」
クロウが背もたれにしてた木に片手をついて支える。
「やっぱり、細すぎんのか? それかあれか、魔力がでかすぎて詰まってるとかか?」
またむずかしいことぶつぶついってる。
それよりも、チカラが使えないとわたしも困るよ!
「ほ、本当に使えないの? こわいモンスターとか出たらどうしたらいい?」
「使えねえよ」
クロウはそういって、またパチンッと指を鳴らした。その瞬間、クロウのまえにあった草がゴッソリと持ちあがった。根っこのついたヒルラ草がぷかぷかと宙に浮かんでいる。しかもたくさん。
「あ。使えた」
「え、ええー! すごいっ!」
すごいすごい! こんなかんたんにとれるなんて!
わたしはさっそく宙に浮かんでるヒルラ草をカバンに詰めこんだ。
そしていくら入れてもパンパンにならないカバンをもって、クルッとクロウを振りかえる。
「いっぱいとれたよ! ありがとう!」
「発動条件があんのか? だとしてもどうやって……」
あ、だめだ。聞いてない。
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