第14話 魔力のしくみ1
大きなあくびをひとつして、人の姿にもどったクロウと街のなかを歩く。
「すっかり遅くなっちゃったね」
「あんたが突然寝たからな」
「安心したらねむくなっちゃったんだもん」
でも所長さんのまえでぐーすか寝ちゃったなんてはずかしいよ。
起きたら所長さんのベッドで寝ていて、クロウはもとの姿に戻っていて、まるで時間が急に飛んだみたいだった。
クロウと所長さんは魔力を使いすぎると枯渇してねむくなるっていってたけど、魔力ってけっきょくなんなんだろう?
「ねぇクロウ。魔力って、なに?」
「……は?」
「クロウも所長さんも、よく魔力がっていうでしょ?」
「あんた、魔力のことも知らないのか」
あきれた顔でクロウがため息をつく。
知らないものは知らないよ。召喚士のお勉強をしたときにもそんなののってなかったもん!
「魔力ってのは、かってに名づけてるだけで、正確にはこの世界の人間がもつエネルギーのことだ」
「エネルギー?」
「この世界の人間は生まれながらにエネルギーをもっていて、俺たちはそのエネルギーを使ってチカラを使ってる」
「む、むずかしいね……」
頭のなかがぐるぐるしてきた。
「あんたらがもってる魔力を使って、俺たちが魔法を使う」
「ちょっとわかりやすくなった! でも、それなら人は魔法を使えないの?」
「あんたらは魔力をべつの物質……魔法に変えるチカラをもってない。だから俺たちがきて魔力を使わせてる」
「使わせてる?」
どういうことだろう?
「俺たちの世界とあんたらの世界は、相関関係にある。俺たちはあんたらの魔力を必要として、この世界も俺たちを必要としている。魔力循環がうまくいかないと、この世界も、俺たちの世界も滅びることになる」
「ええ⁉ そうなの⁉」
むずかしいことはよくわからなかったけど、世界が滅びるってことはわかった。
それってつまり、この世界がなくなっちゃうかもってことでしょ⁉
「そうだよ。それが、てめえのとこにいきたいってやつが多すぎて、今、魔力循環がうまくいってねぇんだよ」
あ! それでクロウ、最初にきたときにおこってたんだ。わたしのせいって。
「わたしのところにいきたいって、どうして……?」
「あんた、純度の濃い膨大な魔力をもってる。俺たちからしたらごちそうみたいなもんだ」
「ごちそう……」
自分の手を見てみた。よくわからないけど、ほめられてるのかな?
「あ、じゃ、じゃあ。クロウは、わたしが召喚に失敗した子たちがどこにいったかも、知ってるの?」
クロウが気だるげに横目でわたしを見た。
そして、ふっと息をはくように小さく笑う。
「俺たちの世界にもどってきてる。あんたのその魔力に耐えられなくて、この世界に形を保っていられなかっただけだ」
「それって、生きてるってこと?」
「つぅか、他のやつのとこにいってる。あんた、やけに召喚獣に懐かれないか?」
「うーん。どうだろう? エリーさんのマーニャはよくすりすりしてくれるよ」
かわいく鳴きながら体をこすりつけてくるんだ。もう、かわいくってかわいくって、メロメロ!
「でもそっか。生きてるんだ……。へへ、よかったぁ」
いなくなった子たちがどこへいったのか、いつも不安だった。でも元気ならよかった!
「クロウは物知りだね!」
「あんたらが知らなすぎるだけだ」
クロウたちの世界って、どんなところなんだろう?
ふわふわの生きものがいっぱいいるってことだよね。それって、パラダイス⁉
ふわふわのかわいい生きものに囲まれる妄想をしていると、大通りに出た。今は買いもの時みたいで人も多い。わたしも今日のお夕食の材料を買わないと!
「あ、そうだ! クロウ、今日は奮発してパーティーしよう!」
「パーティー?」
「うん! クロウの歓迎会もしてなかったでしょう? それに、あたらしいお仕事も決まったし、ついに召喚士だよ! 豪華にしてもバチは当たらないよ!」
昨日は急だったから、なんにも用意できなかったんだよね。お買いものもしてなかったから、お家にあったのはかたまるパンくらい。
「今日はふわっふわのパンを買おう! あとお肉! それを煮込んでとろっとろのクリームシチューつくるね!」
「豪華か……?」
「ええ! 豪華だよ! だってお肉だよ⁉ めったに食べられないよ!」
「……そういや今朝はやけに硬いパンを食べてたな」
「あれ、みんなはカタパンって呼んでるんだよ。安くて庶民の味方!」
たしかにちょっと硬いけど、日持ちするし、なにより安いんだ! 一個五セル。毎日食べてもお財布にやさしい。
「……だからそんな細いのか」
「え? ふつうくらいじゃないかな?」
自分の体を見てみるけど、わたしくらいの子はみんなこんな感じだと思う。健康的な標準体型!
「あんたの膨大な魔力に体がついていってないんじゃないか? だから魔力が安定してない。……ありえるな。まずは一般的な食事をさせるところからか?」
クロウがむずかしい顔をして腕を組み、ぶつぶつとつぶやきだした。
「肉も野菜も高いのか?」
「え? う、うん。一日パン一個とかもあるよ?」
「……あんた、それでよく生きてるな」
「そうかな? あ、でも野菜はお母さんたちから送られてきたりするから、それ食べたりしてるよ。うちの野菜すっごく美味しいんだ! クロウにも食べさせてあげるね」
クロウが深いため息をついて、わたしの腕をとった。
「ほっそいな。俺たちの世界と行き来できりゃマシなもん食わせてやれるが、しかたない。とりあえず、今日はふつうの食事なんだろ?」
「もう、ふつうじゃないよ。ごちそうだってば!」
「はいはい」
「あ、街もかんたんに案内するね!」
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