第26話 地下室にある研究所

「――—―どういうことだ? なんで、あの時の女の人が……」


大地の背後から静かに足音が近づいて来る。


「それは彼女が故障してしまったからなんだよ」

「―—え?」


故障――?


聞き覚えのある男の声に驚いて僕は振り返る。


「ーーー!?」

僕の目に男の容姿が映る―――ーーー。


蘇る夢裡むりの光景に僕は足が竦んで固まっていた。

ゾッとするほど寒気が走り、心が乱され体中が恐怖で震えていても、

僕の弱さを相手にさとられないように誤魔化すのが精一杯だった。

目の前の男が夢裡むりで見た男でも、視界に映る男からはそれ程

悪の組織のような殺意は感じられない。


よし、これならいけるかも…。何とか空良の居場所を聞き出さなければ……


「君が臼井大地君だね」

「へ!?」

「空良の父親の猿渡幸之助さわたりこうのすけです」

「え…空良のお父さんですか?」

フッと気落ちするように肩の力が一気に抜けた。

「ここは地下にある私の研究室なんだよ。驚かせてしまってすまない。

君のことは空良から聞いているよ」

「え…」

「実は…私は研究者でしてね」

「じゃ…あの…ここに居る人達って…」

「私が作り出したAIヒューマロイド達ですよ」

改めて幸之助はまじまじとショーケースに入ったAIヒューマロイド達を

眺めている。それは生みの親である優しい微笑みをしていた。

「え…じゃ、この愛子さんも…」

僕は視線を幸之助さんに向け、それとなく聞いてみた。

「ああ…彼女は当時、療養中の妻と空良の世話役として作ったんだがね…」

一瞬、表情を曇らせて見せた幸之助さんの顔が僕はなぜか気になっていた。


――――コンコン。

ドアをノックする音が聞こえ、


幸之助の視線がドアの方に向く。


「どうぞ……」

「失礼します――—---」

おっとりした優しそうな女性が入ってきた。


「飲み物をお持ちしました」

「ああ…ありがとう…。そこに置いといてくれるかい」


女性はテーブルにジュースとコーヒーを静かに置いた。


(あれ? この人…)

僕は夢裡むりで見た光景を再び思い出し、その時いた助手の一人と

彼女を重なり合わせていた。

「紹介しよう…僕の妻の…華子です」

え…!? 空良のお母さん?


さっき…お母さんは療養中って……どういうこと!?

じゃ、病気は治ったんだ……よかった…


「もういいよ。ありがとう…」

幸之助が華子に向けて言葉を発した。

「はい、ごゆっくりどうぞ」

そう言うと、華子は静かに退室していった。


―――パタン……。


「……奥さん、病気…治ったんですね…」

「……」

その言葉に深い意味などなかった。


また、幸之助さんの顔色が変わった……

幸之助さんは何かを隠している……そんな気がした……


そう薄々、感じていても僕は聞くことができなかった――――ーーー。




―――――そして、まさか、この後、僕が空良の秘密を知ることになるなんて、

             この時はまだ思いもしなかったのだったーーーーーー。

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