第二章 町への布教

第19話 不意打ち

 翌日


「当面、私は陰で教団を支えます」


 イスガンは頭を深く下げると、フヨッドより姿を消す。色々と質問をしたかったのだが、アルフレドの話を聞くこともなく、イスガンはそそくさとその場を立ち去ってしまう。ちなみに、足がかりとやらはマリアナに伝えてあるようだ。


 アルフレドはドールに集落を任せ、新たな人体を確保してくる約束をすると、昨夜の事を思い出し、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。


「どうしたのアルフレド? 何かあった?」


「何かだって!? お前……いや、何でもない」


「?」


 昨晩の事を思い出し、思わず文句でも言ってやろうかと考えたが。マリアナにそのような話しをしても無駄である。大きく息を吸って吐くと、アルフレドは何事もなかったかのように歩き始める。


「ねぇねぇ。一つ気になったんだけど、なんで経典を持ち歩いてるの? まさか武器として?」


「グルに止めを刺した本とはいえ、武器にはならないだろう。これからデモゴルゴ教を広めるならポーズでも常に経典を持ち歩いた方が良いじゃないかと思ってさ。それに……」


「それに」


「理由は無いけど何となく経典は持っていた方が良いんじゃないかと思ったんだ」


「ふぅーーん」


~~~


 アルフレドはマリアナ、護衛のモアと共にイスガンの拠点として利用していた砦へと向かっていた。


 砦に着くと扉の南京錠を外し慣れた足取りでマリアナが中へと入っていく。先日の戦いの後が嘘のように中は綺麗に掃除されており、そこら中から臭うはずの煙の臭いは微塵も感じない。足元はぼんやりと光っており、大した光源ではないが、砦内の移動には不自由しない。


「凄い。この間、覗いた時とはまるで別の建物だ。それに足元のこの光。この魔石はマリアナが取り付けたのか?」


「私じゃない、元々の設備。イスガンたちはただの古い砦としか思ってなかったんだろうけど。この砦の持ち主はたぶん魔力の扱いに長けた人達なんだと思うよ。小規模だけどハイスペック。ただ、素人の私では今は足元を照らすくらいしかできないかな。あ、掃除はファーにやってもらったよ」


 いつの間にやら傍にいたファーが無言でこちらを見つめる。意味はないのかもしれないが、とりあえず礼を言っておく。マリアナはまだこの砦の設備をいじっているようだ。もしかしたら後日に新しい機能が出来上がっているかもしれない。


「それで、見せたかった物はこれなのか?」


「違う。こっちよ」


 イスガンが寝床としていた部屋に到着する。この部屋は僅かに陽が入るようで部屋全体が見渡せる。しかし、特段変わったことはない。ファーにより片づけられ、物がない部屋はがらんとしている。


「ここだよ! ここ!」


 マリアナが床を指さした部分に手を当ててみると床に僅かな凹みがある。


「ひょっとして地下か?」


 アルフレドがそのまま凹みを持ち上げる。しかし、床の扉は取り付けが悪い様でこすり合う音が大きい、扉が軋む音も相まって背後の声は全く聞こえない。背後より声をかけられたような気がするがアルフレドは構わずにそのまま扉を開け切った。


 ドッ! という音と共にアルフレドは体勢を崩し、地下室の床に叩きつけられる。背中と頭部を強打し、目の前がチカチカと点滅している。


 何とか両手をつき、その場から起き上がろうとするアルフレドの胸に何かの重みがのしかかってくる。何とか抵抗しようと起き上がろうとするが、再び両手を何かで拘束され、アルフレドは床に身体を打ち付けられる。


「イスガン! 死ねぇぇ!」


「なっ!?」


 アルフレドがのしかかっているものを見ようとするが、その前に何か硬いものが振り下ろされる。


 ゴッ!


 アルフレドの頭に衝撃が走る。


「お兄ちゃん! そいつイスガンじゃない!」


「!?」


 頭上で二人の人物が言い争っている声が聞こえる。しかし、アルフレドの視界が戻ることはない。目の前の世界は真っ白で、やがて、だんだんと暗くなって行く。やがてその言い争いにマリアナが加わると程なくしてアルフレドの視界は完全に暗転した。

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