第41話 決闘(ロボット編終)

 一騎打ちは盛大な音楽と演出によって華々しく飾られていた。

 アンブロ・ジャンは思ったより背が低かった。立派な顔つきや日焼けした肌はカメラ用で、貧相に見えた。

 ジャンとトッド・ヤヌス王子が並んで立ち、ドローンカメラが二人を映す。

 戦いは中継されている。下手な真似はしないはずだ。

 両者ともに機体に搭乗し、勿体振るようにグラディアートルが起動した。


 どちらも両手剣だ。

 操縦担当のシュラグ伯爵のドルゴンはグランソードを手にしていた。

 一方、ジャンはスレイブシステムを採用したグラディに乗っている。コクピットでの全身の動きを再現できるというものだ。

 つまり、アンブロ・ジャンにグラディアートルの操縦の経験は殆どなかった。


 城の広場で2機が正対した。


グラディアートル、デュエルスタート!


 シュラグ伯は上段の屋根の構え、ジャンは剣を握りましたといった風体ふうていで構えた。

「うおおおおおぉ!」

 ジャンが叫び、縦振りする。

 シュラグ伯は剣を弾くと、胴を切断した。

 あっけないほどに、あっという間だった。

 皆が歓声をあけるなか、俺は違和感を感じていた。

 勝負にすらなってない。

 その時、俺のサイバーアイは城から出ようとする一人の男をとらえていた。

 頭の禿げた男。日焼けしていて、丸い茶の眼鏡をかけている。

 だが、俺の目はごまかせない。

 変装したアンブロ・ジャンだ。

 となれば、シュラグ伯が倒したのは影武者か!

 俺はジャンを追いかけた。



 宇宙船に乗ろうとするジャンに追いつく。

「待て、アンブロ・ジャン。」

 俺はラコン・ブラックマンバを抜くと地面に当てた。

「動くな。大将が逃げるなんてのは、無しだぜ!」

「貴様!」

 アンブロ・ジャンの背後に銀河狼がいた。

「もはやこれまでだな。アンブロ・ジャン。」

銀河狼コスモウルフ。裏切るのか!?」

「黙れ。金無しのクズが。債権回収も出来なくなったお前に価値はない。」

 銀河狼の赤いウェーブ銃が光ると、光弾はアンブロ・ジャンを貫いた。

「スペースニート。勝負だ。変な魔法は使うなよ。」

「抜き打ち勝負かい?」

「そうだ。」

「なら、あんたも変なバリアを使うなよ。」

 銀河狼が勿体振るように銃を回すとリホルスターした。俺も銃をしまう。

 ジャンの死体を挟んで俺とウルフが睨み合う。

ガンマンの俺が、同時打ちでくたばる危険性を述べた。西部ではよくあることだったらしい。


 俺と銀河狼がにらみ合う。

 グランバインの勝利を祝って教会の鐘がなった。

 俺と銀河狼は銃を抜くと、光弾が発射された。

 2つの光弾は何と空中でかちあった。

 驚く間もなく、銀河狼はシールドをはり、俺は横跳びして城の壁に隠れた。

 銀河狼が撃ちながら近づいてくる。俺の光弾はシールドに消えた。

 そうくるならこうだ。

 俺は自在鎌を振った。

「チッ!」

 身体を切られて銀河狼が引いた。

 俺は必殺の策として、銀河狼の赤のウェーブ銃を切断した。

 銀河狼が武器を失い、俺は隠れるのをやめた。

 銃を構えたまま、銀河狼の前に立つ。

「貴様。」

「ここであんたも終わりだ。銀河狼。死神が呼んでるぜ。」

「死神なら、いつだって呼ばれてる。呼んでる方かもな。」

 銀河狼が覚悟を決めたように息を吐く。

「どうした、よくわからん能力で俺を切り刻むのだろう。ひと思いにやれ。」

「その前に聞きたいことがある。」

「俺は海賊を売らないし、何も喋らん。殺せ。」

「あんたは悪行三昧して、のし上がったのだろう。クリストフみたいにヤクを売りさばいたりしてたのか?」

「…。」

 俺の質問は、酷く間抜けだったらしい。銀河狼はフッと笑った。

「何も知らないのか。」

 はるのは無駄だと分かって、銀河狼がシールドをといた。

「俺は同盟結成時の海賊の子孫だ。先祖代々カジノの胴元をしてきた。クリストフには悪いが、ヤクなんて下品な物を売るやつと一緒にされては困る。」

「ギャンブル中毒をつくる意味で罪深いと思うけどね。」

「何とでも言え。兄貴はロストヘブンのオーナーだ。俺を殺して兄貴に殺されるんだな。」

 ロストヘブン。宇宙のラスベガスとよばれる高級カジノだが、裏では違法な高レートの賭博が行われているという。

「なんだってロストエデンのオーナーの弟がグラディアートルなんて乗り回してんだ?」

「何でもいいだろ。それと、…俺は妹だ。」

「えっっっ!?」

 狼の顔は男女の判別がつきにくい。女性らしい身体の線をしているわけではなかったし、パンクジャケットにてっきり胸の毛を詰めていたのかと思ったら、女性だったのね。

「なんだ。女の身体をしてたら悪いのか。それとも女とわかると人を殺せないヘタレなのかよ。紳士とかいったらぶっ殺すぞ。」

「いや、大事な身体切っちゃってごめんね。」

「何がだ。」

 銀河狼が睨む。

「さっさと殺せよ。まさか嬲る気じゃないよな。」

「それこそ海賊じゃあるまいし。レディに性犯罪をおかす趣味はないよ。その代わり、銀河警備隊にあんたを引き渡す。」

「銀河警備隊には俺達の仲間がいる。ここで殺さないと、あんた後悔するよ。」

「何なの?死にたいの?」

「そうだ。」

 銀河狼は逃げるそぶりも見せなかった。

「ワーウルフは男らしさを尊重する。特別な医療ポッドで男になるのは簡単だが、兄貴の手前、俺は女の身体でい続けた。俺の体なんてどうでもいいし、俺の命もどうでもいい。ただ、俺はせめて『男らしく』死にたい。」

「今がその時だと?」

「相手と殺し合って、決闘してくたばる。それは女々しいとは言わないだろ。」

「成る程。分かった。シールド発生装置を捨てろ。」

 銀河狼が手首の発生装置を捨てた。

「それで?」

「今から男らしく拳で戦う。何のためとか聞くなよ。男は馬鹿をやる生き物なんだ。」

 俺は銃にセーフティをかけ、リホルスターするとファイティングポーズをとった。

「コモドのジョーみたいに素手で殺すのか?」

「いいや。」

「なんのためだ?」

「意味なんてない。」

「お前馬鹿か?」

「男は皆馬鹿だ。それとも女の子として扱われたいのか?フルネームはアリスちゃんか?」

 銀河狼がかちんと来たらしい。

「上等だコラァ!」

 なんの意味もない喧嘩が始まった。



「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ。」

「はぁ、はぁ、はぁ。」

 酷く顔面が痛む。最初は腹を殴ったが、余裕がなくて男女平等パンチになった。

 相手は人殺しに慣れていても、殴りあうのはそこまで慣れてなかった。

 俺はボコボコの顔で喋った。

「俺は童貞でな。女はレディとして大事に扱えと言われてきた。格上に扱えと。だから、ヴァーチャルエロゲーでしか女を知らない。」

「なら、なんで俺と殴り合いをやった。」

 目の腫れた銀河狼が口元を拭う。

「女を殴るのは初めてだが、対等にみるにはこうするのが一番だと思ったからだ。俺の頭の中では痛みとともに、もうあんたは男か女かじゃなくて、悪い奴か悪くない奴かでしか見てないよ。」

「お前、やっぱり馬鹿だろ。」

「女が女らしさから脱するより、女性には紳士たれと言われて育てられた男が、紳士や男らしさの呪いを捨てる方が大変なんだぞ。」

「それは呪いなのか?」

「呪いだね。あんたみたいな人を理解するのに邪魔になった。」

「ケッ。スカシやがって。」

 銀河狼が唾を吐いた。

「スカしてねぇよ。それにだな、男に何を期待してるのか知らないが、男らしいなんて女をエロい目で見るとかその程度のもんだ。同性ライバルを差し置いて異性からモテるために無理をするのが男らしいの源泉なんだよ。」

「ハンッ。それはお前だけだろ。」

「いや、アンドロゲンに導かれた世の男どもの真理だよ。男というジャンルの中に禿げたエロ親父や盛りのついたニキビ野郎がいるんだぞ?」

「じゃあ、何か?あんた俺で発情でもしたのかよ。」

「発情というか、もふもふの身体を余す所なくスリスリしたいね。」

 俺は銀河狼の前でわざといやらしい手つきをした。

 銀河狼は思わず前を隠した。

 見つめあい、思わず笑う。

「お前、きもすぎるだろ。」

「キモいけど俺は悪いやつじゃない。」

「いーや、お前みたいなのは一旦タガが外れるとヤバい奴になるんだ。」

 俺は銀河狼の名前を検索した。

「命を粗末にしたり、男らしく死ぬとか言ったり。少しはまともに生きてみなよ。エメリー・ハーパー。」

「お前に言われたくないんだよ、クソニート。」

「鬼灯博だ。銀河警備隊に引き渡す。留置所や刑務所で無難な生き方ってやつを考えみてくれ。」

 銀河狼エメリーは、俺を追いかけてきたチップドワキザシのクロコが手錠をかけた。

性人形セクサロイドがいるのに、童貞なのかよ。」

「そうだよ。女性は大切にしてる。」

 クロコがフフンと鼻を鳴らした。

「私達は相棒ですものね。」

「そういうことだ。銀河狼を警備隊に引き渡すぞ。」

 俺は勝利にわくファンタジオを尻目に、銀河警備隊特務課にアポをとると、宇宙へと飛び出していった。




 銀河狼の身柄を特務課に引き渡す。

 ビサ・ミアたちが敬礼した。

「協力に感謝する!スペースニート。」

「ありがとうございます。」

 銀河狼は顔を腫らしたまま、特務課に引き渡された。

「あんたは俺の手で必ず始末してやるよ。」

「その前にリボンのついた服を着てみたらどうだ?エメリー。」

「その名で俺を呼ぶな、クソニート。それに、俺はリボンが大嫌いなんだ。」

「随分仲がいいじゃないか。スペースニート。どうやったんだ?」

 ギリアム隊員がからかう。

「ま、それなりに頑張ったのさ。」


 俺は片目を閉じた。これは、そう、前世からの癖ってやつだ。

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