第40話 燃えるグランバイン

 敵の部隊に、狼のマークをつけた銀色の機体があった。

 通信でつながった。

「スペースニートだな。」

銀河狼コスモウルフか!」

 銀色の機体は巨大な両手剣を手にしていた。

「スポンサーが直々に剣をとるなんて、どういう風の吹き回しだ?」

「黙れ。総船長グランドキャプテン様の命令だ。海賊同盟に楯突く愚か者を殺してこいとな。」

 俺は片手剣を抜き、盾にそわせた。

「皆、やつに手を出すな。」

「分かった。」「武運を!」


デュエルスタート!


 突っ込むというより、構えて接近するといった感じで俺は銀色の巨人に正対した。

 銀の巨人との間合いをはかる。奴の機体名は知らない。

 巨人は踏み込んで両手剣を振り回してきた。

 俺は盾で受け流そうとするも、勢いに負けて盾ごと左腕を持っていかれた。

 出力が違いすぎる!

 巨人が二の太刀を振るう前に、俺は体当たりのように踏み込んだ。

 低めの姿勢から、コクピットを狙って突きを放つ。相手はそれを柄元でそらした。

 回転して振ってくる両手剣の軌道をよんで、俺は叩きつけるように剣を軌道に合わせると同時に相手の膝あたりを蹴る。

 足元を取られて銀の巨人がバランスを崩した。

 今だ。

 今度こそ俺は、剣でコクピットを次いた。

 コクピットに穴があき、剣が硬いものに当たってそれていく。


 何だと!?


 声を出す間もなく、巨人は俺の機体の右手を握ると、握力でマニュピレーターを破壊した。

 俺は掴まれた手と肘と腰を使って相手を無理やり地面に投げた。

 両腕を破損した俺は、銀河狼から距離をとる。

 銀河狼の機体は剣が刺さったままの姿で起き上がってきた。

 武器が持てない。

 こうなった時、降参して命ごいをすることは認められているが、俺は膝をつくわけにはいかなかった。

 俺は自問した。どうする?どうするんだ、スペースニート。

 俺は全ての精神を集中させ、自在鎌スウィングサイスで相手のコクピットを丸バツの字に割いた。

 巨人の胸のコクピットが切り裂かれ、中の銀河狼の驚愕顔が見えた。

 コクピットの内面は光を反射して美しい輝きを放った。奴はコクピットを分厚いダイヤモンドで囲っていたのだ。


「スペースニート!」

 見かねたカーサのブエイが助太刀する。

銀河狼コスモウルフ様!」

 側近らしい相手が銀河狼の機体を庇う。

 「逃がすか!」

 グランバインが剣を振るったが、敵は潮を引くように逃げていった。


 分厚いコクピットを切り裂いたが、なにかの限界がきたらしく俺は視界がぐにゃりと曲がると、機体ごとその場に倒れ込んだ。



「…して……返して…」

 暗闇の中、俺の目の前に白いベールで包まれた女が現れた。

「返して…私の鎌を…返して…」

 黒い長髪で顔は髪に隠れて見えない。

「時の、女神?」

「何でもいいから、返して、私の鎌。じゃないと命刈り取れない。人殺せないと異世界に送れない。」

 しくしくと身体を震わせているが、ベールの上からでも分かる大きな胸が目立った。

「まだ異世界侵略に未練があるのかよ、時の女神ルルディ。」

 前世の俺が唇を動かして、ルルディという女神に話しかけた。俺という存在が分裂したかのようだ。

「あなた!いい加減私の鎌を返しなさい!それは命を刈り取るもので、貴方が持っていて良いものじゃないの!」

「嫌だね、死神。突然人の命を奪って異世界に飛ばして、挙げ句その人が活躍したら布教させ信仰を集めさせる。そんなゲスい行為に使うんだろ?」

「神様なら皆やってるわよ!死ぬような目に合わせて、ちょこっと偶然を装って助けて拝ませるやり方の方が良いというの!」

「どっちも駄目だろ!人の純粋な気持ちとか信仰とかを考えて、何事もなく平穏な暮らしをさせろよ。」

「そんなの神格が高まらないじゃない。知ってる?人間って分かりやすい敵を用意すると団結するの。その団結の象徴に神として君臨するとあら不思議。何もしなくても、絶対の扱いを受けるの。言ってないことまで言ったことにして私腹を肥やす馬鹿が出るけど、神格があがるなら何でも良いって神様は多いのよ。」

「そういう人を人とも思ってない態度が気に入らない。という訳で、鎌は返さない。もう二、三百回生まれ変わりを繰り返したら、また会おう。」

「あ、ちょっと待って、私の鎌を返して〜。」



 俺は目が覚めた。何だったんだ?

 周囲を見た。チップドワキザシの中だ。

 クロコがいた。うなされていた俺を介抱してくれたらしい。

「良かった。医療ポットでは身体的な異常はない、と。」

「異常だったのは根性だな。殺し合って精神を削られてた。」

「なら初めから戦わければ良かったのに。あきれます。」

 片目を閉じた俺は、頭をコツンとやられた。

「そういう訳にはいかなかったさ。で、戦況はどうなった?」

「ヒロシさんが倒れてから4日経ちました。」

「4日も!?」

「ようやく城かという所です。戦いならあってます。ルビー、モニターでグラディアートルチャンネルのファンタジオ戦を映して。」

了解アイ、ミズクロコ。」

 宇宙船のモニターが戦いを映した。

 グランバインが剣を振り回し、ファンタジオ解放軍が勢いよくジャンの軍を蹴散らしていくのが見える。

 画面越しの戦場は、遠く感じた。

 実況が入っていた。

「今回の戦争もファンタジオ解放軍の勝利に終わりました。破竹の勢いがありますね。」

「まぁ、クラガの戦いに勝った今のファンタジオ解放軍なら消化試合みたいなものかもしれません。見えていた勝利でしょう。」

「声明が出ました。次の戦場ではアンブロ・ジャン王本人が、グラディアートルに乗って出撃するそうです。本人は一騎打ちを望んでいるそうですよ。」

「いよいよ戦争も佳境に入りますね。」

「もしヤヌス王家が勝って終戦となれば、ゴモラやビナントといった惑星はファンタジオ介入に失敗し、企業であるアカサカコーポレーションの協賛である解放軍の戦争勝利が決まることになります。逆にアンブロ・ジャン王の勝利で。」

「我々の飯の種が残りますね、ハッハ。」

「次の開戦は情報が入り次第、またお伝えいたします。」

 取り敢えず、勝ったみたいだ。


「戦争をわざわざ見る趣味は無かったが、戦争当事者が見ると実況がこんなにも不快に感じるとはね。」

 俺はそういって、宇宙船の貨物に残っていたタピオカドリンクをチューブで啜った。

「一騎打ちを口にした時点で、ジャンには余力がもう残っていないみたいですね。」

「銀河狼もコクピットをやられて赤っ恥をかいたしな。」

「言いたくないなら言わなくても構いませんが、ヒロシさんはどうやって人や物を切断してるのですか?」

「実は俺は魔法使いでね。魔法でちょちょいとやれるのさ。気分で出るから安定してなくてMPだか精神力だかをどっさり使うのが難点だな。コクピットを切り出すなんて高出力なことしたからガス欠して倒れたみたいだ。」

「また適当なこと言って。」

 クロコがグーで叩くような動作をした。

「ニートの企業秘密って言うよりマシだろ。」

 俺は黒髪巨乳目隠れの時の女神を脳裏に思い出したが、頭の隅に追いやることにした。


 俺は城のすぐ側で野営していた仲間の元に駆けつけた。

「スペースニート。」「ホージュキ殿!」

 俺は歓迎を受けたが、そのまま天幕下での会議場かいぎばにかり出された。

「このまま敵を討つべきです。」

「いや、一騎打ちで相手を下すべきだ。」

 意見が割れていた。

「わかりませんか?相手は勝てないと分かって、悪あがきをしているのです。一騎打ちでグランバインを出せば、相手の数がなくても形勢が悪くてもいくさに勝利することがあります。挑発に乗るべきではありません。交戦状を破棄してこちらで書き直すべきです。」

 ナカモトがトッドとカーサに説明する。

「一騎打ちでグランバインがジャンのグラディアートルを倒せば、この戦争にわかりやすく勝利することが出来る。この上なく分かりやすい勝利だ。勝てば損耗を出すことない。これ以上の良い話はないだろう。」

 カーサは一騎打ちを主張していた。

「スペースニート。騎士となったお前なら分かるだろう。一騎打ちで倒せば、この戦争は終わるんだ。」

「一騎打ちで勝てればな。」

 俺は考えを巡らせた。

「何?それはどういうわけだ?」

「相手がズルをすることを考えた方が良い、ということさ。相手は追い詰められているからな。勝つためなら何でもやる。例えばここにきて王子に毒を盛るというのもある。」

 俺の言葉に、皆がドキッとした顔をした。

「何を言って…」

「ジャンの後ろ盾はアカサカの競合他社や他の惑星や海賊同盟だ。正々堂々勝てないなら、卑怯な手に出る可能性がある。一騎打ちをするのなら、一騎打ちをする前も決闘の最中でも、決闘が終わった後まで何か罠をしかけたりする危険性を考えるべきだと思う。」

「罠、ですか。ありえますね。」

 シュラグ伯が言葉を継ぐ。

「今はトッド王子の安全を第一に考えて…」


「キャーーーーー!!」


 女の悲鳴を聞いて、俺たちは慌てて天幕から出た。

 グランバインの方だ。俺は走った。

 駆けつける前に爆発音がした。

「何だ!?」

 整備状態で寝ていたグランバインが燃えている。

 近くに整備士が倒れていた。血まみれだ。

 俺は整備士のもとへかけ寄ると、傷の具合を確かめた。

 明らかに刃物のようなもので切られ、刺されていた。首に手を当てたが、マヒロとユイトは脈が無い。

「うう。」

 ベン・ゴトウはうつ伏せから身体を起こそうとして藻掻いていた。

 俺はゴトウの身体を起こす。血液の付着したサングラスが地面に落ちた。

「畜生。」

 ゴトウが口の端から血を吐いた。

「しっかりしろ。医療ポッドの中に運ぶ。」

 医療ポッドを1台、ナカモトが宇宙船の中に持ってきていた。それで命を救われた兵士は数多い。

「あいつらを、あいつらを先にポットに乗せてくれ。」

「駄目だ。あの二人はもう脈がない。」

「くっそっ。」

 ゴトウは息も絶え絶えだった。

「剣を持った男が、あいつらや俺に襲いかかって。俺はレンチを持って抵抗したんだが、グランバインのコクピットに爆弾を投げると、奴ごと爆発して、ゴホッゴホッ。」

「喋らないほうがいい。肩をかすから立ってくれ。セーの!」

 俺は肩でかかえるようにゴトウを立たせ、歩かせた。

 仲間がやってきて、服が真っ赤になるのも構わずゴトウを抱えて運んでいった。

 医療ポッドがあるが、輸血や医療資源が足りてるといいのだけれど。物資はギリギリだ。


 グランバインに水がかけられたが、コクピットが焼けてしまっていた。コクピット外壁はともかく、内壁は脆い。

 交戦状は明日1機のみ。

「今からの修復は厳しいですな。」

 ナカモトが肩を落とす。

「これが罠、か。」

 シュラグ伯も視線を落とす。

「グランバインなしでも僕はやるぞ。」

「グランバインの戦闘コンピューターなしで戦いがお出来になると?無茶をおっしゃらないで下さい。」

 カーサはトッドをたしなめた。

「こうなれば、わたくしめがアンブロ・ジャンの首をとって差し上げます!」

「ファンタジオの独立を銀河中に認めさせるために、アンブロ・ジャンはトッド・ヤヌス王子の手によって倒されなければならない。そのためだけに今まで回りくどく交戦規定の通りに戦ってきたのですよ?ここで貴方がでしゃばってとうするんですか?」

「しかし、伯爵様!」

 カーサとシュラグ伯が口論を始め、王子は歯を噛み締めて感情を殺そうとしていた。

 俺はゴトウの身を案じ、貴族がつれてきた整備士はどこから手をつければいいか迷っていた。


「複座型…。」

 俺はアイデアが浮かんだ。

「シュラグ伯爵のゴルドンは、確か複座型だったな。」

「ええ。…まさか。」

「そうだ。トッド王子を乗せて複座型で操縦し、アンブロ・ジャンを討てばいい。」

 俺の言葉に賛同の空気になる。

「成る程、伯爵は何も言わず操縦に徹し、アンブロ・ジャンを討てばよいのですね。」

 ナカモトがシュラグ伯を見る。

「仕方がありません。その手しかなさそうですね。このシュラグ、命に代えてもアンブロ・ジャンを倒します。」

「シュラグ伯爵の腕なら、勝てる見込みはあります。」

「よし。これでいこう。」

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