第2話 VSラミア

 ゲームで遊んだことのある人ならお馴染みの概念だが、低階層ほど敵は弱く奥へ進むほど敵が強くなる。

 強敵はあらかた退治された後なのでボクのような新米冒険者は遠足気分で地下ダンジョンを訪れる者も少なくない。その油断が命取りだと何度も忠告されているにも関わらず、だ。


 ガサッ。

 ほーら、物陰から何かが飛び出した。


「あら、かわいいボウヤだこと」

 ラミアが現れた!


 上半身は美しい女性、下半身は蛇の怪物。

 好物は子供や若い男の生き血。

 悪い子のところにはラミアが来るぞ、という言い回しがある程ある意味身近な存在といえる。


「出たなモンスター。こいつを喰らえっ!」

 ボクは指に嵌めるには少し大きいその指輪を親指と人差し指で握りしめ、魔力を込めて魔石をラミアに向ける。すると赤い光が放たれ、ラミアが一瞬にして黒焦げに……はならなかった。


「あれ?」

 ラミアはピンピンしている。

 でも、全く効果がないわけでもなさそうだ。


「なんなのこれっ。くっ、……はぁ、ハァ……」

 彼女の顔が紅潮していて息が上がっている。

 一応ダメージを与えたことにはなったのかな?


「よし、このまま通り過ぎれば……」

「ま、待てっ」

 ラミアにがっちり腕を掴まれる。やだこの娘、力が超強い。


「……」

 そのまま何をするでもなく、彼女はうつむいたまま黙っている。

 下手に刺激すると腕をへし折られる可能性があるから動けない。

 でもどうしよう、腕がしびれてきた。

 このまま立ち止まっているわけにもいかないし、説得して穏便に済ませられるならそうしたい。


「あのー、先に進みたいから腕を離してほしいんだけど、なんて」

「……ール……って……」

 彼女の声は小さく聞き取れなかった。

「え?」

「ロールミーって言え! こっちはロールユーしたいんだよ!」

「……え?」


 ロールミーとは。

 ラミアに巻き付かれたいという願望を指す。

 ロールユーとは。

 ラミアの巻き付きたいという願望を指す。

 以上。


「ええええええええぇぇぇっっっ」

「くそっ、なんでこんなやつに欲情してるんだ。でも我慢できない。いいから巻かれろ! ほんのちょっと、先っちょだけでいいから!」

「いやいやボクにそんな趣味はないので!」

 ぬるりと尻尾を足に這わせてきたので腕を振りほどき全力で逃げ出す。


「待ってぇ~」

「うわーんっ!」

「あっ」

 ラミアが転ぶと目玉がポロッと落ちる。ゼウスによってラミアの目玉は簡単に外れるようになっているのだ。リアルで見ると結構怖い。


 一部始終を見ていた他の冒険者が、落ちていた荷物入れをラミアに向かって放り投げながら「ロールミー!」と叫んだ。

 目が見えない彼女はそれをボクだと認識して巻き付く。キュッキュッと小気味よく締め上げる様子にあれが自分だったらと考える。うん、死んじゃう。


 ボクを助けてくれた冒険者もいつの間にか居なくなっていた。

 先に進みたいけど疲れたので今日はここまで。


「ああっ、いいっ、イイわ~!」

 ラミアは恍惚の表情を浮かべていた。


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