第3話 VSセイレーン

 今日も剣の入荷はない。

 一つだけ棚に置かれている剣は飾りかと尋ねてみたら「こいつは持ち主を認めたら輝く黄金の剣だ。これはどこの馬の骨ともわからぬ半端者には売れねぇ」と断られる。

 黄金で出来てたら切れないじゃんと悪態をついて店を出る。しばらくはソーサラーリングで頑張るしかない。



 今日は湖のある階にやってきた。

 白い砂浜、照りつける魔法照明、浮かぶダイオウイカ。

 気にせず泳いでる人とかいるし。ダンジョンなのに呑気なもんだな。


「あなたは泳がないの?」

「流石にダイオウイカのいるところを泳ぐのはちょっと」

「じゃあ私の歌を聞いて頂戴」

「うん――えっ」

 岩礁の上には人間の姿に翼の生えた少女が一人、こちらを満面の笑みで見ている。

 セイレーンが現れた!


「ああ、良かった。誰も私の歌を聞かずに泳いでいってしまうから困ってたの」

 セイレーンは半人半鳥の怪物で、美しい歌声で航行中の人を惑わすと言われている。

 確かに見た目もかわいいし声も美しい。魅了される人の気持ちもわかる。

 でも彼女の歌を聞いてしまったら最期――。


「い、いや歌を聞くのはちょっと」

「そんなぁ、良いじゃない。ちょっとだけ、さわりだけで良いから!」

 さわりとは最大の聞かせどころである。

 決して出だしだけ、先っちょだけという意味ではない。

「それ死んじゃうから!」

 くっ、仕方ない。ボクは握りしめたソーサラーリングの魔石を彼女に向ける。

 光が放たれると彼女の体は燃え上がり、セイレーンの焼鳥の出来上がり――とはならなかった。


「ま、また駄目なの?」

「ハァァ~~~……ッン!」

 セイレーンはこぶしをたっぷりきかせながら身悶えしている。一応効いている、のだろうか。

 あ、まずい。聞いちゃったんじゃ。くっ、体が動かない。これがセイレーンの魅了の力か……っ。


「ああ、歌いたいっ。ねぇ、良いでしょう。もう我慢出来ないの。洩れそうなの!」

 歌声がね!

 彼女は大きく息を吸い込んだ。


「La_/﹀▔\『ドガガガガガガガガガガガガガガッ!!!』⁄﹀\╱﹀」

 どこからともなく地面を揺さぶる轟音が響く。


「La『ドガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ!!!』


「『ピピーッ、ピピーッ! ブオォォォン!!!』」


 彼女の歌声を遮るかのように騒音が響き、湖畔に停まっていたトラクターやショベルカーが次々と作業を開始する。

 ……トラクターにショベルカー?


「すまねぇな、ここを埋め立ててリゾートホテルを建設する予定なんだっ! ちょっとうるさくするけど勘弁してくれよなっ!」

 ヘルメットをかぶった現場監督らしきオジサンが大声で叫ぶ。作業音にかき消されながらも何とか聞き取る。

 地下ダンジョンにも再開発の波が押し寄せているようだ。

 どうやって運んだのかを考えてはいけない。


「…………」

 いつの間にかセイレーンは歌うのをやめていた。

 ボクも自由に動ける。

 彼女の歌を聞かないように、というよりは工事の作業音がうるさすぎて耳を塞ぐ。

「ぁぁ、……!」

 口を動かし、何か呟いているのは見て取れたが何を言ったかさっぱりわからない。

「うん? ――えっ」

 と、次の瞬間彼女は湖に身を投げだした。



 セイレーンの歌を聞いても生き残った人間が現れた時。

 セイレーンは死ぬ運命となっていた。


 残された地には立派なリゾートホテルが出来上がりましたとさ。

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