「手紙屋」
タイトル:「手紙屋」
作者:喜多川泰
読書期間:2023/11/15~11/17
媒体:オーディブル
・・本書紹介・・
主人公は就活生。
しかし、中・高校生くらいからであれば、どの年齢の人が読んでも響く言葉があると思う。
働いている人、将来を考える時期にいる人には、ぜひ読んでほしい一冊である。
読了後、あなたの頭の中は、磨かれた机のようにピカピカになり、そこに、どんな地図を広げようかとワクワクした気持ちになること間違いなしだ。
・・以下、ただの感想。ネタバレあり・・
とても学びの多い本だった。
主人公に対し、とても影響されやすい人だなと感じたが僕も同じかもしれない。「手紙屋」からの手紙を読むたび(つまり物語が進むたび)僕自身の考え方、ものの見方が再構築されるような感覚に陥ってしまう。
小説でありながら、良質なビジネス書を読んでいる感覚に近い。
目から鱗が落ち続ける作品、といった感じだ。
手紙屋からの手紙は全部で10通。
今回は、その中で特に印象深かったものを3つピックアップしたいと思う。
『称号』
手紙屋からの2通目の手紙にして、一番衝撃を受けた内容でもある。
料金は後払いで構わないという手紙屋に、自分が払うか分からないのにどうして信じられるのかと疑問を抱く主人公。その手紙への返事である。
『相手にこうなってほしいという『称号』を与えてしまうのです。』
作中に出てくる一文だ。
相手に期待しないようにする、というのはビジネス書なんかでよく目にする。期待した基準に達しなかった時の落胆や負担が大きいからだ。
手紙屋は真逆のことを言っている。その上で、少し視点が違う。
人にはたくさんの面がある。多くの場合、その人と何度か関わって初めて相手に対する評価、〇〇な人だ、という称号が出る。
手紙屋はこの順序が逆である。
人には良い面も悪い面もあるのだから、初めから良い面だけを自分に向けてもらえばいい。引き出せばいい。その手段が称号を与えるという行為だ。
とても心当たりのある話だった。称号を与えられた側としてだ。
仕事をしていて、上司から「のっとんさんは真面目だ」と言われれば、より真面目に勤めようと思うし、「先方がいつも返答が早くて助かると言っていた」と言われれば、次も早い対応を心がけてしまう。
人間(特に僕のような単純な)はプラスの称号に弱いのかなと感じた。
自分にそういった良いところがあるのか、と思うと相手の期待に応えようと動いてしまう。まさに手紙屋の言う、良い面をその人に向ける状態になるわけだ。
また、先にプラスの称号を与えることで、それ以外の面が見えたとしても、マイナスの称号だけにならないという良さもある。
人は称号を付けたがる生き物だ。ならば先手必勝で、プラスの称号をつけてしまうというのはアリかもしれない。
ひとつ注意点としては、この称号、心の中で付けるだけじゃダメだということだ。相手に、できれば自分以外の人間から伝わる必要がある。言葉にして伝えるだけじゃなく、積極的に周りにも見せなければならない。
つくづく上手くできているなと感じる。
周りを巻き込むなら悪口よりも褒めるほうがずっと良い。
『天秤』
言われてみれば当たり前のことだが、頭から抜け落ちやすいことだと思う。戒めとして書き残したい。
4通目の手紙。思い通りの人生を送る人と送れない人の話だ。
頭の中に常に天秤を用意する。片方に叶えたい夢を載せたとき、釣り合うだけの対価はなんだろうか。
夢を叶えた人は、釣り合うだけの対価(時間や努力)を載せることを当然と思っている。だから叶った時もまた、当然の結果だと、思い通りの人生だと思える。
逆に、叶えられない人は皿に載せる対価が少ない。少ないままに、叶わない、あの人はラッキーだから叶ったんだと言ってしまう。
至極当たり前のことだ。スポーツ選手になろうと思えば、相応の練習が必要だし、資格を得ようとすれば、相応の勉強が必要だろう。
ただ、この当たり前は都合よく忘れやすいことだと思う。また、自分の努力や時間のかけ方が足りないうちに、なぜ叶わないのかと思いがちだ。
改めて、自分が求めているものに釣り合う重さを考えたいと思う。
『ピカピカの部屋』
9通目にして、釘を刺された手紙でもある。
ここまで僕は主人公と同じように、手紙屋の言葉に衝撃を受けたり新しい視点を得たりしてきた。ビジネス書を読んだ後もよくなる状態だが、新しい価値観に触発されてすぐにでも行動したい気持ちでいっぱいだ。
その気持ちを手紙屋は見抜いていた。
手紙屋のたとえ話は分かりやすい。
このやる気に満ちている状態は「掃除したてのピカピカの部屋」と同じらしい。
部屋というものは、時間をかけてどれだけ磨いても、次の日には薄っすらと埃をかぶっているものだ。僕たちの頭の中も同じで、新しい価値観でピカピカに磨いたとしても、すぐに怠惰や古い価値観といった埃を被ってしまう。
心当たりが大ありだった。
では、このピカピカの部屋を維持するためにはどうすればいいか。
簡単だ。定期的に掃除すればいい。
新しい価値観を学び、行動し続ければいい。(それが難しいのだけれど)
『転がる石に苔はつかない』
この小説で初めて知った言葉である。確かにそうだ。動き続ければ汚れが蓄積することも無いだろう。
この話の関連で、もう一つおもしろい考え方だと思った文がある。
『止まっているものは、止まり続けようとする。動いているものは、動き続けよう(等速直線運動をしよう)とする』
これは当てはまる人が多いのではないかと思った。
特に僕のような面倒くさがり屋は、一度座ると再び動き出すまでにとても時間がかかる。逆に、用事は一度で終わらせたいタイプでもある。(これもまた面倒くさいが故だ)
止まることと、動き続けること。どちらが良いかは明白だろう。
他にも印象に残った手紙はあるが、今回はこの3つに留めたいと思う。
あとがきにもあった、壁の向こうの応援団は僕にはいまいちしっくりと来なかった。たぶん僕がまだ、人の為に行動したいと思えるほど大人じゃないからだろう。
大応援団は、自分の目標の先に人がいることを自覚したとき、初めて生まれるのだと思う。壁の厚みや高さはその次の話になる。
僕もいずれこの大応援団を認識できるようになりたい。
今はまだ自分自身のことで精いっぱいで、壁を壁とも気づいていないようなちっぽけな人間だけど。いずれ、壁の厚みや大きさを認識し、向こう側へ行くための道具をたくさん持つ人間になりたい。
このピカピカの気持ちを曇らせないために、僕は動き続けたいと思う。
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