第25話 招かれざる客

 自分自身の魔法を生み出すことに成功したライ。ようやく力をつけた彼は団員達と共に戦いに挑む。

 しかし相手はエンゼル・エンパイアの国全体を囲うほど数が多い。その数は何百体といったところだろうか。そのうちの十体がものすごいスピードでライに向かって急降下して襲撃してきた。


「!」


 黒い翼の怪物達は自身の翼を激しく羽ばたかせ黒の風を巻き起こす。それは鋭く硬い刃のような形となり、辺りに突き刺さる。当たった衝撃で建物にヒビが入ってしまった。

 その攻撃は多方面に渡りダメージを与えることが可能だという非情すぎるものだった。ライは攻撃をかわし、建物の屋上からジャンプして頭上からハンマーを振り下ろし敵を狙う。


「これで…どうだっ!」


 ハンマーで怪物の頭を打ち砕くライ。三体に攻撃を喰らわせて倒す。すぐに別の敵が迫ってきていると気づきとっさに後ろに飛び退く。彼らは言葉を話さないが、ひたすら無感情で攻撃してくる姿は恐ろしいものだった。


「夜桜さんの言っていた通り、敵の数が多すぎる!」

「ライ、周辺はどうなっている?」

「まだ敵がたくさんいます。しかも一部の建物にまで被害が出ているみたいで…」

「これじゃあまるでエンドレスじゃないか!」


 街の商店の近くにいたジョージィは上の方のライに状況を聞く。彼は銃を構え、敵を迎え撃つ。


(一体どこから湧き出ているんだ?)


 ライは頭の中で思った。先程まで空の上には何もいなかったはずだ。増殖する生物なのか、誰かが召喚しているのか…


「止まっている暇はねぇぞ!まだ全て倒したわけじゃない…」


 ジョージィの声でハッとするライ。今は何かを考えている場合ではない、皆戦っているんだ。


 不意打ちに反応して、振り返りざまに相手を刀で斬りつけるカヨ。二丁拳銃で敵を撃ち、花魔法で足を絡め取る夜桜。巨大なハサミ型の武器を使い、敵を切り裂くローラ。攻撃を刃で受け止め、隙をついて反撃する暁。二人同時に力合わせ、魔法で攻撃するミミとロロ。

 数の差では圧倒的に不利な状況にも関わらず、諦めることなく果敢に挑む御伽の夜光団。その状況を王宮の自分の部屋から見守っていたクララ。彼女は怯えて戦闘に参加することはなかったが、御伽の夜光団のことが心配で心配でたまらなかった。


「皆さん…!」


 クララはカーテンを開いて立ち上がる。部屋の扉の方からは従者達の走る音と声が響き渡る。


「急いで!応戦する準備を」

「武器を持ちすぐに外の方へ!」


 皆は必死だった。長い間平和を守ってきた国が謎の敵によって全面包囲され、レラは本来の力を失っているのだから。国の詳しい事情はよくわからないけど、ずっと自分達をサポートしてくれているレラやその従者達のために御伽の夜光団は協力し戦う。


「少しは削ったか…」

「この少ない人数の割には上出来でしょ?初めて見るタイプの奴らだと思うけど、ここで苦戦してたらこの先もっとヤバイわよ…!上にはこいつらとは比べものにならないくらい強い奴がいるんだから」

「ローラ…」

「チビった?」

「ちょ、冗談を言っている場合ではないだろう?」


 カヨと背中を合わせるローラ。彼女は周りの気力を奮い立たせるためにニヤリ顔で冗談を交えつつ険しい表情のカヨの横腹を肘でつつく。互いに目は合わせず言葉だけで気持ちを推し量る。


「もうくたばってるわけじゃないわよね、カヨ?」

「当たり前だ!」


 二人はそう言い残し、敵に立ち向かう。カヨは長所である足の速さで猛スピードで駆け走り、刀を勢いよく振り回す。その勢いは徐々に大きな竜巻となる。


「竜巻の舞」


 激しくも華麗な剣さばきで敵を一瞬で蹴散らすカヨ。さらにもう一つ竜巻を巻き起こし、再びダメージを与える。

 魔法で宙に浮いているミミが街に危害が及ばないように、特殊な空間の魔法を使用する。


「夢見るひつじの世界」


 ミミが作った魔法により、国や人の上に透明な羊の毛を被せて戦闘で起こした攻撃から身を守る不思議なバリアを張る。


「これで大丈夫!国の人や街を一切傷つけないで守ることができるよ」

「助かったよミミ!」

「どういたしまして〜〜」


 これにより敵に攻撃しやすくなった御伽の夜光団。その数をだいぶ減らすことができており、引き続き交戦する。

 一方湧き続ける敵のギミックを探ろうと暁は裏側に回る。きっと誰かがそう仕向けているに違いない…彼は長い前髪で隠れている目を向けてエンゼル・エンパイアの街の道沿いを走り確認する。


「どこだ…どこにいる?」


 捜索している最中でも敵は容赦なく追いかけてくる。暁は斬りつけながら真っ直ぐ走る。

 …と彼は何かを発見する。


「こいつらは…誰だ……?」


 そこには黒いローブを身にまとった謎の人物。完全にローブで全身を覆っているせいで姿を見ることはできない。相手はこちらの視線に気づいているようにも見えるが、何かをしてくる様子はない。

 暁は忍び寄るように黒いローブの人物に接近しようと試みる。背後に回り込みその首を斬ろうとした時、彼の気配に気づいたのか勢いよく振り返る。手を出そうとする前に刀で黒いローブの人物を真っ二つに斬った。


「よし、やった…!

………体が…消滅した?」


 暁に斬られた黒いローブの人物の体は、黒い消し炭のように灰となって消えた。どうやら肉体を持っていないようだ。


「実体がないだと?魂だけの存在か、それとも本体は別にあるのか…でも今の奴がこの事態を引き起こしているのは間違いなさそうだ。これを長引かせるのは非常に危険だ、早めに何とかしないと!」


 事態を早めに収束させる為、暁は立ち止まらずに進む。



___




 その頃、レラの従者である三人も御伽の夜光団と同じく黒い翼の怪物と戦っている。ガブリエルは金色の弓を引き、彼らを狙い撃つ。


「裁きの弓!」


 ユミリカもガブリエルに続いて、黄緑色の槍を持ち応戦する。


「本当に数が多すぎる…!」


 焦る二人とは違い、冷静な眼差しで敵の攻撃を弾くレーチェル。彼女はレラの従者の戦闘員として、非常時には先陣を切る担当を任されている。


「レーチェル、敵の数が多すぎて倒しきれない!」

「…静かに。当たってもそこまでの威力じゃなさそうだし、まとめて誘導して全体攻撃を連続で喰らわせることが出来れば必ず突破口を開けるわ」

「しかし私達だけでは対処できません…!」

「御伽の夜光団もいるけど…それだけだと…」

「だから慎重に駒を進めるって言ってるのよ!国を守る私達が焦ってどうするの!」


 いつも眠たげな目をしている根暗な雰囲気とはまるで別人のようにカッと瞳孔を開くレーチェル。焦りを感じているユミリカとガブリエルに檄を飛ばす。自分達の目的を思い出し、拳を握りしめる二人。レーチェルの賢明で素早い判断力はいつも国民の安全を守っているのだ。


「それで、まとめて誘導はどうやって行うの?あたしが空を飛んで移動する?」

「あんた達二人はその方がいいわ。あの組織と合流して、なるべく一箇所に集める…そうしないといつまで経っても終わらない」


 レーチェルの作戦で御伽の夜光団と合流し、敵を一箇所にまとめて早期決着をつけるつもりだ。他の従者にも指示を出したレーチェルは、茨が巻きついている剣を構える。

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